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きみの好きな曲

作者: 亜梨

「なあ、宮崎ってどんな曲聞くの」

 そう吉野に聞かれたのは、つい先週のことだ。

 カバンに入ってた好きなアーティストのCDを貸したら、翌日にすぐ返された。

「どうだった?」

「なんつーか、宮崎っぽい曲だと思った」

「……気に入らなかった?」

「俺は、あんまり」

 いつも通り、無愛想な顔で言う。あたしだって吉野は気に入らないかもなぁと思いながらCD貸したけど。まあ曲が気に入らなかっただけじゃないだろう、吉野が無愛想なのはいつものことだから別に気にしないけど。

「ねえ、吉野はどんな曲が好きなの?」

「別に、俺は。あんまり音楽聴かないし」

「そっかあ」って言って、その時は終わった。





 それで、今日。放課後、帰ろうとしていた吉野をつかまえた。

「吉野っ。今帰る?」

「え、うん」

「あたしも帰るー」

「はいはい」

 一緒に帰ろう、なんて言わないけど、昇降口まで一緒に歩いていく。それでそのままときどき一緒に帰る。家の方向が同じだからいいじゃんね。吉野も別に嫌そうな顔はしない。吉野は普段女の子と全然関わろうとしないから、拒否られてないってだけでも割と気に入ってくれてるんじゃないかなって思ってる。

 靴を履き替えて昇降口を出た時、吉野が「あっ」と声を上げた。制服のポケットをごそごそと何かを探している。

「……携帯、忘れた」

「あちゃ。教室?」

「取ってくる」

 それだけ言ってぱっと校舎に戻ってしまった。その場で待っていることにしたけど、なかなか吉野が戻ってこない。何してるんだろう。

 私も教室に戻ると、吉野はまだ自分の席の周りで携帯を探していた。普段クールなヤツが必死で焦った顔して探し物してるの見ると、ちょっと面白い。

「ねえ、あった?」

「ない。ロッカーも見た。更衣室とかかな?」

 焦ってる。ちょっといつもより早口。面白い。

「鳴らそうか?」

 あたしが自分の携帯を取り出すと、机の中に手を突っ込みながら「いや、だめ」と顔を上げた。

「なんで?」

「マナーモードになってない……」

「探してるんだから逆にいいじゃん、鳴らすよ」

 発信ボタンを押すとすぐに、聞き覚えのある曲が流れてきた。

「あれ、この曲……」

 吉野ががばっと立ち上がり、自分のロッカーを開ける。携帯を見つけて、すぐに曲を止めた。

「うわ、意味わかんね。ファイルに挟まってた! 焦った」

「……授業中出してたんでしょ」

「うん、授業中いじってて、そのまま。ほんとマジ、もう、」

「吉野、急にめっちゃしゃべってるね。どうしたの」

 笑いをこらえながら言う。だって……

 さっきの着うた、あたしがこのあいだ貸した曲! あんまり気に入らないとか言ってたくせに! 吉野はちょっと気まずそうな顔で「うるさい」とか言いながら、教室を出ていく。

「ねー、吉野」

「なんだよ」

「さっきの曲、実は気に入ってたの?」

「別に。みんなの着信音にしてるわけじゃないし」

 吉野が、しまったって顔をした。びっくりした。吉野の顔が、ちょっと火照っていくんだもん。初めて見た。

「え、あたしの着信音? あたしだけの?」

「……べつに」

「あたしの好きな曲だから! わざわざ探して着うたとって設定したんだ」

「違うし!」

 すたすたと廊下を歩いていく。昇降口までいっても、さっさと靴を履き替えてあたしを置いていく。あたしは追いかける。面白いな。





「ねー吉野、やっぱり教えてよ。吉野の好きな曲」

「教えないし」

「いいじゃん。吉野っぽい曲、あたしも吉野の着信音にするよ」

 日が傾いてきて暗くなりかけた帰り道、吉野はいつも、少し表情が見えにくい時間になるとちょっとだけ素直になる。



「じゃ、あの曲」

「さっきの?」

「そう。宮崎の好きな曲。……やっぱ俺も好きかも」

「はいはい」



お題「着信音」。30分で書きました。

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