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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第一部 第一章 魂の境界

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第6話 はるまと赤髪の少女

目が覚めた。

怖くて目が開けられない。


家なのか?

それとも、またあの場所なのか。



遠くで何かの声が聞こえる。

でも、何を言っているのかはわからない。


思い切って目を開ける。


のぞきこむ少女の顔がアップでびっくりして声を上げる。


あの女性じゃない。


あの時のような緊張がない。


なぜだか安心する。


理由はわからない。


あの女性と同じ赤く長い髪が印象的だが、

この子の目には俺を測るような冷たさがなかった。


ただ、知らない人が寝てるから興味があるって感じの目だ。



「だれ?」


「あんたがだれよ」

淡々とした口調でそういうと、少女は身体を起こし、俺が寝ている横に腰かけた。



「俺ははるま。ここはどこ?」


「はるまね。どっから来たの?」


「どこって、家?」

そもそも自分の現実がどこなのか。わからない。

地球と言えば良いのか。日本と言えば良いのかさえも。


「なんだそれ。年は?」


年齢、難しい質問だ。

この精神世界のような場所で俺は何年も過ごしている。

「8歳……かな?」

俺は少し疑問を残しつつ肉体の年齢で答える。


「はあ?8歳ってあんた生まれたばっかじゃん。

その見た目なら100歳近いでしょ?」


なんだそれ。100歳って、おじいちゃんじゃん。

「えっと…じゃあ、きみは何歳?」


「おなかすいてる?」


さっき晩ご飯を食べたばかりだ。

「すいて、ない。えっと…君は120歳ぐらいに見えるね」


言った瞬間しまったと思った。

この少女があの女性のような存在じゃないと決まったわけじゃない。


妙な安心感で余計なことを言ったが、

この子が腕を振り下ろしただけで、俺もあの勇者たちのようになるかもしれない。


シンシアは、俺の恐怖なんて気づいていないようだった。

「ん~じゃ用ない?」


質問を無視された?

無視するにしても徹底しすぎてないか。


怖いが、ここで何もわからず終わるのも怖かった。


「用はある。いろいろ聞きたい」


「用はあるのね。何?」


「君の名前は?」


「シンシア」


初めて質問に答えてくれてうれしくなった。


「答えてくれるんだね」


少女は首をかしげながら不思議そうに言う。

「あんたのターンだからね?」


「じゃあ、じゃあ、年は?」

俺は久しぶりに会話が成立していることが嬉しくて、少し前のめりになった。

「90歳」


「90歳……」

「俺より82歳も上……」


少女は少しむっとして、

「どういう計算よそれ、あんたの方が絶対年上じゃん」

心の中でなんでだよ。とつっこむ。


そうか。俺は肉体の年齢で答えていた。

じゃあ、この世界で過ごした何年もの時間は、俺の中では何になるんだろう。


「俺はどうしてここに?」


「お姉ちゃんが運んできたんだよ。あんた、放り投げられてたけど」

シンシアは彼女の妹なのか。


あの強さを知っているだけに、安心なんてできなかった。


妹だからといって、この子まで安全だとは限らない。



でも、貴重な情報源だ。

聞けることはなんでも聞いておきたい。



「ちなみに、お姉さんは何歳?」

「358歳」


やっぱり大きな数字だな。

「358歳とかになったら数え間違えたりしない?」


「誕生日パーティーするしね。ケーキに線香立ててね」


なんだろう精神世界と線香、全然違うけど、なんか意味あるのかな。

「線香?なんで?ろうそくじゃなくて?」


「ろうそく太いじゃん。100本超えたら大変だよ。

魔王様が決めたんだよ、誕生日はちゃんとお祝いしなさいって」


「魔王が?へ、へ~、なんで?」

なんだ魔王のイメージが軽くなった気がした。


「知らない。誕生日は大切って、それしか言ってなかった」

誕生日が好きなだけなのかな?


俺は、魔王という言葉に騙されていたのかもしれない。



「そういえばさ、お姉さん。すごく強いね」


「私よりは強いよ。

魔王様の側近の……さらにその下の、もっと下だけど、強いんじゃない?」


背筋が凍った。


あの一撃で、誰も何もできなかった。


それが、なんかいっぱいいる。


俺は初めて、自分が挑もうとしている相手の大きさを知った。


あの勇者たちのように、何もできずに倒されるかもしれない。



震える声でさらに質問を重ねる。

「ちなみに…だけどさ?その100番と側近とかさらに下の人って戦ったら、僅差?」


「いや~相手にならないっしょ。

お姉ちゃんと側近とかだと、デコピンで終わるじゃん?」


なんだそれ。絶対戦えない。


その瞬間、絶望が開き直りに変わった気がした。


魔王を倒すとか、そんな次元の話じゃないじゃないか。


なんか勇者の剣でなら倒せるとかそういうのか?

いや届かね~だろ。



「てか戦うわけね~んだけどさ。なんでそんなこと聞くの?」


「え?戦ったりしないの?」


「それよか、ちょっと待ってな」

シンシアは呆れた顔をして部屋を出て行った。


仲間意識が強いってことかな?


シンシアが両手に大きな木で出来たマグカップを持って戻ってきた。

「ほれ」


片方を受け取ると暖かいその飲み物をすする。

「うまい!なにこれ」


「べっちゃ汁だよ」

「へ~?何で作ってるの?」

「べっちゃに決まってんじゃん」


そう言われて大きく笑ってしまった。

「ハハハ、そうだね。べっちゃ汁だもんね。べっちゃだよね。ハハハ」


なんか急に安心してきた。

腹の底から笑ったよ。


「で、なんで戦うの?」


本題に戻ると現実に引き戻される。

「力を誇示するとか?」


「だからなんでよ?」


「え?」

わからない。なぜ俺が好戦的な感じになってるんだ?

言われてみればそうだ。理由もなく戦うなんておかしい。


彼女たちが戦闘民族みたいに感じたからか?

強いから、それだけで?


「戦うって殺すってことでしょ?」


「殺すって食べる時にすることじゃん?でも魔王様の側近なんて食べないじゃん」


「だって命を奪う理由って、それくらいじゃん?」


俺は恐竜の教えを思い出した。


何年も一緒にいたのに。


一番大事なことを、俺は忘れていた。


魔王って言葉で、相手は意味もなく殺しにくる連中だと思っていた。


なら勇者一行はなぜ殺されたんだ?


「あ!」

思わず声が出た。


食べるか?って聞いてた。


いやでも違うな。食べる目的で殺したわけじゃない。



俺は魔王を倒すためにここへ来た。

でも、その魔王がどんな奴なのか、俺は何も知らなかった。


魔王を倒す理由が、わからなくなっていった。

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