足りないものばかりの生活
第9話
部屋は、狭かった。
六畳一間。
壁は薄く、隣の生活音がそのまま聞こえてくる。
古びた畳はところどころ色が変わっていて、歩くたびにきしむ音がした。
それでも——
「……今日からここがおうちだよ」
小さく呟く。
腕の中の体は、まだ何も分かっていない。
保証人もいない。
貯金もない。
それでも借りられたのは、ほとんど奇跡だった。
——その代わりに、背負ったものも大きい。
「……借金、か」
ぽつりと漏れる。
頭の中に、数字が浮かぶ
考えないようにしても、消えてくれない。
泣き声が、響く
「あ、ごめんね……」
慌てて抱き上げる
ミルクを作る手が、少し震えていた
「……大丈夫」
何に対して言っているのか
誰に言ってるか分からないまま
そう繰り返す
生活は、すぐに限界を迎えた。
家賃
ミルク代
オムツ
そして、借金の返済
働いても、働いても足りない
「……これだけ?」
給料袋の中身を見て
思わず呟く
こうなる事は
分かっていたはずなのに
現実は、想像よりもずっと重かった
その日の夜
テーブルの上には、パンが一つ
それを半分に割る
一口だけ、かじる
それ以上は、手が止まった
「……いいや」
パンを袋に戻す
代わりに、水を飲んだ
お腹は空いている
でも
「この子の分、買わないと」
それが、すべてだった
夜中
泣き声で目が覚める
時計を見る余裕もない
ただ、体を起こして抱き上げる
「……大丈夫、大丈夫だよ」
何度も繰り返す
眠気で、視界がぼやける
それでも、手だけは止めない
ふと
「……私、何やってるんだろ」
小さく、呟いた。
本当は、自分の子じゃない。
どうしてここまで
そう思った、その瞬間
小さな手が、服を掴んだ
ぎゅっと
それだけで
思考が止まる
「……あ」
「……そっか」
理由なんて、もうどうでもよかった。
「……大丈夫」
今度は、はっきりとそう言えた
「ちゃんと、育てるから」
その言葉だけが、支えだった
どれだけ苦しくても
どれだけ足りなくても
この子だけは
絶対に、守る




