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追い出された場所

第8話 


家に戻ったのは、夕方だった。


 


腕の中には、小さな体。


 


まだ外の世界に慣れていないその存在は

不安そうに小さく声を上げる。


 


「……大丈夫だよ」


 


自分に言い聞かせるように、そう呟いた。


 


 


玄関の扉を開ける。


 


 


「……帰りました」


 


 


誰に向けたのかも分からない声。


 


 


リビングから、視線が向く。


 


 


母と、真凜。


 


 


そして——父。


 


 


 


「……それが?」


 


 


母が、淡々と言った。


 


 


 


「赤ちゃん……」


言葉が続かない。


 


 


 


当たり前のように

説明しようとしている自分に気づく。


 


 



「ふーん」

 

真凜が興味なさそうに覗き込む。


 


 


 


「ちっちゃー」



まるで他人事のような声。


 


 


「……部屋、どうするの?」



恐る恐る聞く。


 


 


 


 


一瞬の沈黙。


 


 


 


 


「必要ない」


低い声が、空気を切った。


父だった。


 




「ここには置けない」


 


 


 


「……え?」


理解が追いつかない。


 


 


 


 


「うるさいからな」




それだけだった。


あまりにも、あっさりと。


 


 


 


 


「ちょ、ちょっと待って」


思わず声が出る。

 


「まだ生まれたばかりで……」

 


「だからだろ」


被せるように言われる。


 


 


 


 


「夜泣きする」



 


その一言を聞いて

何も言えなくなる。



 


「近所迷惑にもなるしね」

 


母が続ける。


 

 


「それに、あんた一人で育てるって話でしょ?」


 


 


逃げ道が、ない。


 


 


 


「ここにいる理由、ないじゃない」


その一言で、すべてが終わった。


 


 

 


「で、でも……」


 


声が震える。


 


「行く場所、ないよ……」


 


 


 


一瞬、静寂が落ちる。


 


 


 




「探せば?」


真凜が、軽く言った。


 




その顔には、何の感情もない。


 


 


「お母さんになるんでしょ?」




笑っていた。


 


 


 


 



 


「……」


 


 


 


 


 


 


もう、何も言えなかった。


 



気づけば、荷物が用意されていた。

 


「最低限は入ってるから」


母が袋を差し出す。


 


「感謝しなさいよ」

 


ありがとう、なんて言えなかった。


 


 

 


外に出ると、空は暗くなっていた。


 


 




 


冷たい風が吹く。


 


 


 


 


 


腕の中の小さな体が、かすかに震える。


 


 


 


 


 


「……大丈夫」


 


 


 


 


 


自分に言い聞かせる


 


行くあてはない

 

お金もない

 

それでも


 


 


 


 


 


「……この子は、守る」


 


 


 


 


 


そう自分に言い聞かせ

小さな体をぎゅっと抱きしめる



小さな体が、少しだけ落ち着いた気がした。


 


 


 


 


 


 


——もう、戻れない。


 


 


 


 


 


その事実だけが、はっきりしていた



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