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はじめての泣き声

第7話 



——産声が、響いた。


 


その瞬間、世界が止まった気がした。


 


「元気な男の子ですよ」


 


助産師の声が、どこか遠くに聞こえる。


 


 


「……男の子」


 


 


ぼんやりと繰り返す。


腕の中に、温かいものが乗せられた。



小さい


軽い

 


そして——



 


必死に、泣いている


 


 


 


「……」


言葉が出ない。


 



この子は、自分の子じゃない


そう思うのに

 

視線が、離れなかった


 


小さな手が

空を掴むように動く


 


その仕草が

なぜか胸を締めつけた


 


 


「……どうして」

 


ぽつりと、こぼれる。




どうして、自分が…

 


どうして、この子が…



分からないことばかりなのに

その小さな体を、離したいとは思えなかった


 


 



「お母さんですよ」 


誰かが、そう言った


 


 




——違う


そう思ったはずなのに


 


 


 


「……はい」


気づけば、そう答えていた


 


その瞬間

 

何かが、静かに始まった


 

 



夜は、長かった


何度も泣く声に、目を覚ます




ミルクを作って

あやして

抱き上げる



うまくいかないことばかりだった


 


 


 


 


「なんで泣いてるの……?」


分からない



お腹が空いているのか


暑いのか、寒いのか



全部が手探りだった


 



それでも

泣き止んだとき


小さく息を立てて眠る姿を見たとき


  


 


「……よかった」


自然と、そう思っていた。


  


日々は、あっという間に過ぎていった。


 


お金は足りない。




生活は苦しい。


それでも働いて、働いて

帰ってきて、この子を抱く



それだけで、少しだけ救われる気がした。


 

 


「……ほら」


指を差し出す。



小さな手が、それをぎゅっと握った。


 


「……」



言葉が出ない。


こんなにも小さいのに。


こんなにも、強く握る。


 


 


「離さないよ」

 

思わず、口にしていた。




誰に向けた言葉かも分からないまま。


 



ある日。


 


「……あ」


小さな声が聞こえた




顔を上げると、こちらを見ている。


その口元が、わずかに動いた。


 

 


「……あー」

 

一瞬、時間が止まる。


 


 


 


 


「……今の、もしかして」


返事はない。


 

 


でも。


 


確かに、こちらを見ていた。



 


「……そっか」


 



自然と、笑みがこぼれる。



 


「喋れるようになるんだね」



 


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


 





貧乏でもいい


 





この子がいれば

そう思った


 


 

この子だけは、失いたくない


それが、すべてになっていた



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