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逃げ場のない選択

第6話 



「音羽、ちょっと来なさい」



珍しく、全員が揃っていた。


 


リビングの空気が、重い。


 


父、母、真凜、星夜。


 


その中心に、ぽつんと座らされる。


 


——嫌な予感がした。


 


「……どうしたの?」


恐る恐る聞く。


 


誰もすぐには答えない


やがて


 



「話がある」


 


 


低い声が、空気を支配した

父だった



普段ほとんど関わらないその人が

真正面からこちらを見ている


 

逃げ場がない


 


 


「……はい」


自然と背筋が伸びる


 

 


「真凜が、問題を起こした」


一瞬、視線が妹に向く。


 


 


真凜は俯いたまま、何も言わない。


 


 


 


「……問題?」


言葉の意味が、うまく理解できない。


 



「——妊娠した」



頭が、真っ白になる。


 




 


「……え?」


耳がおかしくなったのかと思った。

 


「誰の……」


そこまで言いかけて、言葉が止まる。



真凜は、何も答えない。


 


「相手は関係ない」


父が切り捨てるように言う。



「問題は、その後だ」

 


空気が、張り詰める。


 


「このままでは、真凜の将来に傷がつく」


母が続ける。



「インフルエンサーとしての仕事にも影響が出る」



「だから…」

 


そこで、一瞬だけ言葉が止まった。


 



嫌な予感が、確信に変わる。


 


 


 


「その子は、お前が産んだことにする」


 


 


 


 


——は?


 


 


 


思考が止まった。


 


 


 


「……え?」


 


 


 


何を言われたのか、理解できない。


 


 


 


「音羽、あんた仕事してるでしょ?」


母が、当たり前のように言う。



「未婚の母でも、生活はできるわよね?」



違う


違う、そうじゃない


 

 


「ちょっと待って」



初めて、言葉が出た。


 


「それ、どういう意味……?」


声が震える。




「どういうも何も、そのままよ」

 

真凜が顔を上げた。



その目には、涙が浮かんでいる。


 


 



「お願い……音羽」


か細い声


 


 


 


「私、このままじゃ終わっちゃうの」


震える肩


今にも泣き崩れそうな姿


 


 


 


 


——嘘だ


 


 


 


どこかで

そう思っているのに




「……無理だよ」


やっとの思いで、言葉を絞り出す。



「そんなの、おかしいよ」



その瞬間


空気が変わった。


 


 


 


「おかしいのはお前だ」


低く、冷たい声


父だった


 


「家族を助けるのは、当然だろう」

 


反論できない


 


「今まで、この家に住まわせてやってきたのは誰だ」

 


言葉が、突き刺さる


 


「働かせてやってるのも、誰だ」




違う

そう思うのに

何も言えない


 



 


「音羽」


静かに名前を呼ばれる。



「お前に、選択肢はない」

 


 


——終わった。


そう思った。


 



 


「でも……」


最後の抵抗のように、声が出る。


 


「そんなの……私の人生が——」



「もともと、お前のものじゃない」


 


一瞬で、言葉が消えた

 

その意味を、理解する前に。


 


母が、紙を差し出してきた。


 

「もう手続きは進めてるから」


そこには、書類が並んでいた


 

 


病院の名前


署名欄



 


 


「……なに、これ」




「出産記録の手配」


母が淡々と答える。


 


「全部、あんたの名前で通すわ」


 

どんどん逃げ道が、消えていく





「あとね」


母が続ける。


 

 


「もし断るなら——」


一瞬、間を置く。


 


 


 


 


「この家、出ていってもらうから」


 


 


 


 



その一言で、すべてが決まった。


 

 


お金もない。 


行く場所もない。


一人では、生きていけない。


 


 


 


 


「……分かり、ました」


気づけば、そう言っていた。


 


 


その瞬間


真凜が、ほっとしたように息を吐いた。


 


 


 

 


「よかったぁ……」

 


その顔に、涙はなかった。


 


 


 


 


 


——ああ。


 


 


 


 


騙された。


 


 


 


 


 


でも、もう遅い。


 


 


 


 




「じゃあ、決まりだ」


父が立ち上がる。



すべてが、終わったかのように


 


 


音羽は、その場から動けなかった



何も考えられない 

 


ただ

 



 


 


自分の人生が、音を立てて壊れていくのを


どこか他人事のように、見ているしかなかった



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