隠されてるもの
第5話
「ねえ、音羽」
帰宅してすぐ、真凜に呼び止められた。
「今日、買い物行ってきてくれない?」
いつも通りの声。
けれど、どこか落ち着きがない。
「いいけど……何買えばいい?」
そう聞くと、真凜はスマートフォンを見ながら、少しだけ間を置いた。
「えっと……これと、これ」
画面を見せられる。
そこに並んでいたのは
栄養ドリンクと、サプリメント。
「体調悪いの?」
思わず聞く。
「別に」
即答だった。
「ちょっと疲れてるだけ」
それだけ言って、視線を逸らす。
なんだろう。
いつもと違う。
買い物を終えて戻ると
リビングのドアがわずかに開いていた
中から、話し声が聞こえる
「だから、どうするのよ」
母の声だった。
「どうするって……」
真凜の声。
いつもより小さい。
「まだ分かんないし」
「分かんないじゃ済まないでしょ」
ぴしゃりとした言い方。
「もしそうだったら——」
そこで、言葉が途切れた。
音羽は思わず、足を止める。
「……声、大きいって」
今度は、低い男の声。
父だった。
普段あまり家にいないその人の声に
わずかに緊張が走る。
「外に聞こえる」
その一言で、空気が変わる。
しばらく、沈黙。
何の話をしてるんだろう。
耳を澄ませる。
「……とにかく」
再び、父の声
「下手に動くな」
低く、抑えた声
「分かったな」
「……うん」
小さく答える真凜
そのやり取りに、胸の奥がざわつく
——何か、隠してる。
そう思った瞬間だった。
「音羽?」
不意に、名前を呼ばれた
びくりと肩が跳ねる。
ドアが開き、母が顔を出した。
「帰ってたの?」
「う、うん……今」
手に持っていた買い物袋を見せる。
「頼まれてたもの、買ってきたよ」
「……そう」
母は一瞬だけ袋を見て、それから音羽の顔をじっと見た。
何かを探るような視線。
「……聞いてた?」
静かに問われる。
「え……?」
「今の話」
一瞬、息が止まる。
「……ううん、何も」
とっさに首を振る
数秒の沈黙。
やがて母はふっと視線を外した
「ならいいわ」
それだけ言って、ドアを閉める。
——本当に?
そう思ったけれど、何も言えなかった。
しばらくして、真凜がリビングから出てくる。
「買ってきた?」
いつも通りの明るい声
さっきまでの空気が、嘘みたいだった。
「うん、これ」
袋を渡す。
中身を確認して、満足そうに頷く真凜。
「ありがと」
そのまま立ち去ろうとして
ふと、足を止めた。
「……あんたさ」
振り返る。
「変なこと、考えてないよね?」
心臓が、強く跳ねる。
「え……?」
「さっきの」
少しだけ、目が笑っていない。
「聞いてないなら、いいけど」
その言い方が、妙に引っかかった。
「……うん、聞いてないよ」
そう答えると、真凜はじっとこちらを見つめて——
「そっか」
にこりと笑った。
その笑顔に、なぜか背筋が冷える。
——知らない方がいい
そんな風に、言われた気がした




