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もう一度同じ人に

第4話 


店内は、昼のピークを迎えていた。


次々と入ってくる客。

途切れない注文。


音羽はレジとホールを行き来しながら、必死に手を動かしていた。


 


「音羽!テーブル三番まだ!?」


 


キッチンから飛んでくる怒声に、肩が跳ねる。


「す、すみません、今——」


 


言い終わる前に、別の声が被さった。


 


「ねえ、注文まだ?」


 


振り向けば、腕を組んだ客が苛立った表情で立っている。


 


「あ……すぐ伺います」


 


頭を下げて、慌ててメモを取りに行く。


 


焦りで、手が震える。


 


——ちゃんとやらないと。


——迷惑をかけちゃいけない。


 


そう思えば思うほど、動きが空回りしていく。


 


 


「……はぁ」


 


小さくため息をついた、そのときだった。


 

「注文、いいですか」


低く、落ち着いた声。


 


顔を上げる。


 


あ。


そこにいたのは、見覚えのある人物だった


朝、駅で会ったあの人


 

一瞬、思考が止まる。


 




「……聞いてます?」


少しだけ不機嫌そうな声で言われて、ハッとする


 


「あ、すみません!」


慌てて頭を下げる。



「ご注文、お伺いします」


 


「コーヒーと、サンドイッチ」



短く告げられる

無駄のない言い方




「かしこまりました」


そう言って離れようとした瞬間だった。


 


 


「——また謝りましたね」


 


 


足が止まる


振り返ると、彼——神楽陸がこちらを見ていた。


 


 


「え……?」



「必要ない場面でも謝る」



淡々とした声


けれど、はっきりと指摘される。


 


「……すみません」


反射的に出た言葉に、すぐに気づく。



「あ……」


口を押さえる。



その様子を見て、陸は小さく息をついた。


 




「重症ですね」


 


 


「……」


何も言い返せない。


 



注文を届け、次の対応に追われる。


それでも、意識の一部はずっと彼の方に引っ張られていた。



なんで、あの人は

あんなこと、言うんだろう。


 


 



「音羽!!」





突然、大きな声が響いた。

振り向くと、店長がこちらを睨んでいる。



「さっきの注文、間違ってるぞ!」


「え……?」


「砂糖抜きって言われただろ!?何聞いてたんだ!」


 

一気に血の気が引く。


「す、すみません……!」



頭を下げる

心臓が早くなる


 


ど、どうしよう

また、迷惑を



そのときだった


 


 


「言ってませんよ」


 


 


静かな声が、空気を切り裂いた

店内が、一瞬で静まる。


 



「……は?」


店長が眉をひそめる。



「砂糖抜きなんて、一言も言ってません」



そう言ったのは

神楽陸だった。




「俺が注文しました」



その一言に、場の空気が変わる。


 

「いや、でも——」



「聞き間違いじゃないですか」


あっさりと言い切る


強い口調ではない




けれど、否定を許さない空気があった。



店長が言葉を詰まらせる。


 


 



「……チッ」


舌打ちを一つして、視線を逸らした。



「いいから、早く作り直せ」



それだけ言って、奥へ引っ込む。


 


その場に残された音羽は、動けなかった。


助けられた


その事実が、すぐには理解できなかった。


 


 


「……ぼーっとしてないで」


陸の声で、ハッとする。



「仕事、あるんじゃないですか」



「あ……はい」



慌てて動き出す


手はまだ震えている。


 


でも、それとは別に

胸の奥が、ざわざわしていた。


 


 


仕事がひと段落し、ようやく彼の席に戻る。


 


 


「……あの」



声をかける。



「さっきは……ありがとうございました」


頭を下げる。



「事実を言っただけです」


相変わらず、淡々とした返事。




「で、でも……」


言葉が続かない。

 


「あなた、ああいうの慣れてるでしょ」


不意に、そう言われた。


 


 


「え……?」


 

「理不尽に怒られるの」


心臓が、ドクンと鳴る。


 

「……そんなこと、ないです」


とっさに否定する。


けれど


 


「嘘ですね」


即座に返された



「顔に出てます」


逃げ場がなかった


 

「……普通じゃないですよ、それ」


静かに言われる


 


普通じゃない

 

また、その言葉


 


「……普通って、なんですか」


気づけば、口にしていた。



初めてだった


誰かに、こんな風に言い返したのは。



ほんの少しだけ、驚いたように目を細める陸



そして


「少なくとも——」


一拍置いて。


 




「全部自分のせいにすることじゃない」


 





その言葉が、真っ直ぐに刺さる。


何も言えなかった。


ただ。


胸の奥で、何かが



少しだけ、動いた気がした。



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