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計算された疑念

数日後

真凜は何もなかったかのように

いつも通りの顔で陸の前に現れた


「あ、陸くん」

柔らかい声

タイミングも距離感も

計算し尽くされた自然さだった

陸は一瞬だけ視線を向ける


「……何か用?」

素っ気ない返事

いつもと変わらない

でも——それでいい


「ちょっとだけ、いい?」

少しだけ困ったように笑う

その表情は、誰が見ても“助けてあげたくなる側”のものだった


「体調、あんまり良くなくて」

軽くお腹を押さえる仕草。ほんの一瞬。

でも見逃させない。


「……大丈夫?」

予想通りの反応

真凜は内心で小さく笑う


(引っかかった)

「うん、でもちょっとフラつくかも」

わざとらしくはない、絶妙なバランスで弱さを見せる


「少しだけ、付き合ってくれない?」

断りづらい言い方

逃げ道を塞ぐ言葉選び

陸は一瞬だけ迷う素振りを見せたあと、小さく息を吐いた


「……少しだけなら」

その一言で十分だった


「ありがとう」

嬉しそうに微笑む。

でもその目は、どこか冷めていた。


二人で歩き出す

距離は自然と近い

偶然を装って、何度か肩が触れる


「ごめん」

小さく謝る声


「いや、大丈夫」

短い返答。その温度差が、逆にちょうどいい。


(ほんと、扱いやすい)

内心でそう思いながら、真凜はさらに一歩踏み込む


「あのさ」

少しだけ声のトーンを落とす


「音羽のこと、どう思ってる?」

唐突な質問。

でも、核心に触れるには早すぎないタイミング


「……どうって?」

陸の眉がわずかに動く


「そのままの意味」

くすりと笑う


「優しいよね、あの子」

わざとらしく褒める


「でもさ」

一拍置く


「ちょっと怖くない?」

空気が、わずかに変わる


「……何が言いたい?」

警戒が混じる声。

それを感じ取りながらも、真凜は引かない。


「別に悪口じゃないよ?」

軽く肩をすくめる


「ただ、全部隠してる感じがするっていうか」

視線を逸らしながら続ける


「本音、見せないよね」

それは、事実に少しだけ触れているからこそ厄介だった。陸は何も答えない。

でも——否定もしない


「……そういうところ、気をつけた方がいいよ」

最後にそれだけ言う


「陸くん、優しいから」

微笑む。その言葉は、一見すると忠告。

でも実際は——種まきだった

疑念の種。静かに、確実に植え付けるための


「……余計なお世話だったらごめんね」

そう言って笑う

その顔は、どこから見ても“いい子”だった


「じゃあ、もう大丈夫」

少し距離を取る


「ありがとう、付き合ってくれて」

軽く手を振る仕草。完璧な引き際。


「……ああ」陸は短く返す

その視線は、さっきよりもほんの少しだけ深くなっていた。真凜はそれを見逃さない


(入った)確信する。


小さく背を向けながら、口元がわずかに歪む


(ここから、崩す)

一気にじゃない。少しずつ。

違和感を積み重ねて、逃げ場をなくす。

そのための一手は——もう打った


「……ほんと、簡単」

誰にも聞こえない声で呟く

その背中は、どこまでも軽かった


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