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逃げられない事実(真凜)

次の日

目が覚めた瞬間から、気分は最悪だった。

理由は分かっている

昨日から頭の隅にこびりついて離れない違和感その正体を、まだ確かめていないだけ


「……めんどくさ」

ベッドの上で小さく呟く

本当はやりたくない

でも、やらないまま放置する方がもっと気持ち悪い


ゆっくりと体を起こし、スマホで時間を確認する


まだ午前中

誰にも見られないタイミングとしてはちょうどいい


「……ほんと最悪」

舌打ちしながら準備をする

その手つきに迷いはない


ただ、ほんの少しだけ動きが雑だったのは

自分でも気づいていないふりをしたかったからだ


数分後

無機質な空間の中で、一人で立っている時間がやけに長く感じる


「……はやくして」

誰に言うでもなく呟く

結果なんて決まっている

そう思い込もうとしているだけ。


(大丈夫、大丈夫)

何度も心の中で繰り返す


でも——視線は、自然とそこに吸い寄せられる


「……は?」

一瞬、理解が追いつかない

数秒遅れて、意味が頭に入る


表示を見た瞬間、息が一つ漏れた。


陽性。


「……え、ちょっと待って」

思わず声が漏れる。

もう一度、確認する

見間違いじゃない


「……は?」

さっきよりも低い声が出た

現実感がない

いや、ある

でも、認めたくないだけ


「……はあ」


「……嘘でしょ」

乾いた笑いが漏れる

手が少しだけ震える

でもそれは恐怖じゃない

苛立ちだった


「……ありえない」

強く吐き捨てる。なんで今なの。

なんでこのタイミングで


全部が狂う。計画も、流れも、全部


「……最悪」

何度目か分からない同じ言葉を吐く


でも——そこで終わらなかった

数秒の沈黙


そのあと、ゆっくりと呼吸を整える。


「……で?」

ぽつりと呟き考える

状況を整理する為に感情は一旦切り離す


「……どうするか」

その一言で、思考は切り替わる。

そのまま放置する選択肢はなかった

消せるなら、それでいい


まずはそこから

スマホを取り出し、検索を開く


「……確定させないと」

独り言のように呟き、スマホを手に取る。

検索履歴はすぐに埋まった

“妊娠 初期 症状”“検査薬 陽性

いつから”“中絶 何週まで”

——目に入る文字の一つ一つが、じわじわと現実を突きつけてくる。


「……はあ」

大きく息を吐く


「……とりあえず病院か」

面倒そうに呟く


確定と、週数の確認。それが先。

それが一番早い。迷いはなかった


数時間後

白く整えられた診察室

その無機質さが、やけに現実味を帯びていた


「……おめでとうございます。妊娠していますね」

医師の声は淡々としていた

その一言で、全てが確定する。


「何週ですか」

即座に聞く。余計な会話はいらない。


医師はカルテを見ながら答えた。


「推定で、すでに十二週を過ぎています」


——その瞬間。


「……じゃあ」


間を置かずに続ける。


「中絶は?」

一切の躊躇もなく


医師はわずかに表情を曇らせた。


「申し訳ありませんが、この時期ですと難しいですね。母体へのリスクもありますので、出産という形になります」


(消せない)

週数的に、もう無理

ここでようやく、完全に理解する


「……はあ」

大きく息を吐く。


「分かりました」

それ以上は何も聞かない。

必要な情報はもう揃った


診察室を出て、静かな廊下を歩く


「……最悪」

一応、口には出す


でも——

足は止まらない

思考も止まらない


その顔に浮かんでいたのは

——絶望じゃなかった


(さて、どう使うか)

自然と、そっちに切り替わる。


この状況で困るのは、“自分で抱える場合”だけ

逆に言えば——押し付ければいい

無かったことにすればいい。


「……いるじゃん」

ぽつりと呟く。


昔から変わらない、都合のいい存在

断れない人間

利用される側の人間


口元が、ゆっくり歪む

育てる気なんて、最初からない

でも、“使い道”はある。


「……ちょうどいい」

ぽつりと漏れる

さっきまでの苛立ちが、少しずつ形を変えていく


(問題は、誰の子にするか)

そこだった。実際の父親なんてどうでもいい。

重要なのは、“誰の子に見せるか”


「……誰でもいいけど」

少し考える


そして——

一人の顔が浮かぶ


神楽陸


「……ああ」

納得したように小さく笑う


「一番いいじゃん」

見た目もいい。周りからの評価も高い。

何より——音羽と関わっている


「……ちょうどいい」

口元がゆっくり歪む

これ以上ない条件だった


「私が被害者で、あいつが加害者」

その構図が、一瞬で頭の中に出来上がる

いくらでも話は作れる

くすりと笑う


「……完璧じゃん」

さっきまでの不機嫌は、もうどこにもなかった

あるのは、確信だけ


(これで全部、ひっくり返せる)

スマホを取り出す

やることは決まった

準備して、仕掛けて、奪うそれだけ


「……ほんと、タイミングいいわ」

小さく呟く

その声は

どこまでも軽くて


——そして、どこまでも歪んでいた

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