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揺らぐ気持ち (Ⅱ)

「……一人でやるつもりですか」

低く問う


「全部」

音羽の喉が、詰まる


「……関係ないって」


もう一度言おうとした

でも——言葉が出なかった


「無理ですよ」

優しく、でもはっきりと否定される


「あんなの、一人で背負うもんじゃない」


その瞬間だった

張り詰めていたものが、音を立てて崩れたのは


「……何も、知らないくせに」

震える声


「簡単に言わないで」

視界が滲む


「あんたに、何が分かるの」

止めたはずの感情が、溢れ出す


「全部奪われて、

何も残らなくて、それでも笑ってなきゃいけなくて」

言葉が止まらない


「何のために生きてるのかも分からなくて、それでも——」

そこで、言葉が切れる

息が詰まる


「……もう、疲れた」

小さな声だった


「全部」

その一言に、これまでの全部が詰まっていた


沈黙が落ちる

陸は、何も言わなかった

ただ、すぐそこに立っていた


「……でも」

やっとの思いで、音羽が続ける


「これは、私の問題だから」

顔を上げる

その目は、まだ揺れているけど——消えてはいなかった


「巻き込まない」

はっきりと、言い切る


「あんたは、関係ない」

その言葉は、拒絶じゃなかった

守るための線引きだった


陸は少しだけ目を細める


「……それでもいいです」

静かに言う


「勝手に関わります」

音羽の目が、また揺れる


「迷惑でも」

一歩、下がる


「それでも、やめない」

その言葉には、もう迷いがなかった


「……勝手にすれば」

吐き捨てるように言う


でも——完全には突き放せていない


「ただし」

少しだけ間を置く


「邪魔したら、容赦しないから」

その目は、鋭かった

完全に折れてはいない

まだ戦う目だった


「はい」

短い返事。

それで十分だった


部屋の空気が、少しだけ変わる

全部は話していない

真実も、まだ隠したまま

それでも——何かが確実に変わっていた


一人じゃないかもしれない、という可能性

それだけで、少しだけ呼吸が楽になる


「……帰って」

小さく言う


「今日はもう、いいから」

陸は何も言わずに頷く


そして扉へ向かう

開ける直前で、一度だけ振り返る


「……絶対、放さないですから」

小さく、それだけ言って出ていった


扉が閉まる音が、やけに大きく響く


静寂が戻る

音羽はその場に立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった


「……バカ」

ぽつりと呟く

その声は、少しだけ——救われていた。


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