少しずつ動く
32話 陸side
あの夜から、時間は無駄にしなかった
神楽陸は自分の部屋で
淡々と画面を見つめていた
感情は一度脇に置く
必要なのは、事実だけだった
名前を打ち込む
検索
出てくるのは、断片的な情報ばかり
それでも、引っかかるものはあった
家族構成。表に出ているものと、微妙に合わない記録
だが違和感は小さい。
でも、無視できない種類のものだった
(……ずれてる)
完全に嘘ではない
けれど、どこかが欠けている
そういう情報の並び方だった
さらに掘る
過去に遡る古い記事、地域のニュース
そこで、手が止まった。
とある事故の記事
数年前、夫婦が亡くなった事故
場所が近い
時期も、妙に重なる
(……偶然にしては)
記事の詳細を開く
名前を見る
その瞬間、空気が変わった
(……同じ、名字)
ただの一致の可能性もある
けれど——無視できない
さらに調べる
関連情報
保険
遺産
断片的に出てくる単語が、頭の中で繋がり始める
(金、か)
思わず小さく呟く
決定的な証拠はない
でも、流れは見える
事故。死。金。
そして——今の家族
(……おかしいだろ)
背もたれに体を預ける
天井を見上げる
考えるまでもない
普通じゃない
ここまで綺麗に繋がる偶然なんて、あるはずがない
スマホを握り直す
音羽の顔が浮かぶ
何も言わなかったあの目。
全部分かっているような、あの温度
(……知ってるな)
確信に近い感覚が、胸に落ちる
全部じゃない
でも、確実に何かを知っている。
それでも言わない理由がある
(……一人でやる気か)
小さく息を吐く
無茶だと思った
でも同時に——納得もしていた
あの人ならやる
そういう目をしていた
しばらく沈黙が続く
そして、ゆっくりと体を起こした
(……放ってはおけない)
誰に頼まれたわけでもない
ただの自己満足かもしれないそれでもいいと思った
ここまで関わって
見て見ぬふりをする方が気持ち悪い
スマホの画面を閉じる
(全部は分からない)
それでも——十分だった。
「……行くか」
小さく呟く
その足は、もう迷っていなかった。




