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触れた少しの本音

第31話 



夜風が、少しだけ冷たかった


神楽陸はスマホを取り出し

しばらく画面を見つめたまま動かなかった


時間は遅い

こんな時間に連絡するのは、普通じゃない


それでも——指は止まらなかった


呼び出し音が、静かに鳴る


数回のコールのあと、繋がる。


「……何」

低い声

明らかに警戒している


「今、大丈夫ですか」

短く問う


「要件は」

無駄を嫌う返し方


「少し、話がしたいです」


一瞬の沈黙


「……電話じゃダメ?」

当然の反応だった


「できれば、直接」

そう言うと、また少しだけ間が空く


「……今から?」

疑うような声


「はい」

即答する

その迷いのなさに、逆に音羽の方が黙った


「……どこで」

警戒は解けていない。


「どこでも」

そう返すと、小さく息を吐く気配がした。


「……何もないとこだけど、それでもいいなら」

少しだけトーンが落ちる。


「自分の家でもいい?」

試すような言い方だった。


「構いません」

間髪入れずに返す


「……分かった」

住所が告げられる


通話が切れる。


静かになった画面を見つめながら、陸は小さく息を吐いた。


(電話に出てくれた)

完全に拒絶されたわけじゃない。

それだけで、十分だった


足を動かし夜の街を抜けて

指定された場所へ向かう


やがて見えてきたのは、古びたアパート。

照明も弱くて


静かで——どこか息が詰まるような空気


(……ここに住んでるのか)

少しだけ視線を上げる


二階の一室にだけ、明かりがついている。


迷いはなかった。


コン、と軽くドアを叩く。

数秒の沈黙のあと


「……誰」

内側から声がする。


「神楽です」

その瞬間

わずかに間が空いて——鍵の音がした



扉が開かれるとそこには音羽がいた


部屋着のまま

飾らない姿


でも昼間よりも、ずっと静かで

どこか、張り詰めている


「……何しに来たの」

冷たい声


歓迎なんてされていない

それでも陸は目を逸らさなかった


目の前にいるこの人から

視線を外したくなかった


(……やっぱり)

会った瞬間に分かる

頭の中から離れなかった理由


放っておけなかった理由

全部、ここにある

ただの違和感なんかじゃなかった


(……気づいてた)

認めてなかっただけだ

この人のことが、気になって仕方ない

無視できない

目が離せない


(…あぁ、好きなのか)

自分でも呆れるくらい単純な結論


でも——それでいいと思った


だから来た。確かめるために逃げないために



「少し、話いいですか」


数秒、見つめ合う。

測るような視線。



やがて——


「……入って」

短く、それだけ。


部屋の中は、質素だった。


最低限の家具

余計なものは、何もない



「で?」

振り返らずに、音羽が言う


陸は、一歩だけ踏み込む


「昨日のことです」

空気が、少しだけ変わる



「……ああ」

興味なさそうに、返される

でも完全に無関心ではない


分かる


「偶然じゃないですよね」


その一言で

音羽の指先が、ほんの少しだけ止まった


「……何が」

とぼける声



でも遅い


「あなたが来たことです」 

一歩、詰める


「俺は呼んでない」


「なのに、あのタイミングで来た」


「場所も、不自然だった」


静かに、積み上げる

逃げ場を、削るように


「……で?」

振り返る


その目は、変わらない


でも

「誰に呼ばれたんですか」


その問いに

沈黙が落ちる


数秒

長い間


そして——


「……あの子」

小さく、吐き出す


やっと、ひとつ本音が、落ちた


「やっぱり」

陸は、目を細める。


「どういうつもりかは、分かりません」

正直に言う。


「でも、あれはおかしい」

「何かある」


視線を、逸らさない。


「あなたも、分かってますよね」

その言葉に

音羽は、少しだけ笑った


自嘲みたいに


「……分かってるよ」

あっさりと、認める。


「昔から、ああだから」

その声には


諦めと——

わずかな、嫌悪が混ざっていた


「嘘つくし」 


「人のもの、平気で取るし」


 

ぽつり、ぽつりと落ちる言葉


重い


軽く言ってるのに

やけに、重い


「だから」


視線が、ぶつかる。


「関わらない方がいいよ」

 

それは、忠告だった


でも——



「無理ですね」


即答だった


音羽の目が、わずかに揺れる。


「もう関わってるんで」


一歩、近づく


「中途半端に終わらせるつもりはないです」

その言葉に

音羽は、少しだけ黙る



そして——


「……好きにすれば」

突き放すように、言った


でも

完全には、拒絶していない


その温度に


陸は、気づいていた


(この人は——)

一人で、全部抱えてる


「一つだけ」 

静かに、口を開く


「嘘はつかないでください」 


音羽の動きが、止まる


「全部じゃなくていい」


「でも、嘘だけはつかないで」

まっすぐな声


その言葉に—— 

音羽は、ほんの一瞬だけ迷った


そして


「……分かった」


小さく頷いた


それが初めての——


“信頼”だった。


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