奪う側の理論
第28話 陸side 真凜side
違和感は、確信に変わり始めていた
神楽陸はスマホの画面を見つめながら
ゆっくりと息を吐く
表に出ている情報は、どれも綺麗に整えられている
インフルエンサーとしての
顔、笑顔、言葉、生活
そのどれもが“理想”として成立している
だからこそ、少しだけ引っかかる
完璧すぎる
作られたものにしか見えないほどに
指を動かす
過去の投稿
タグ付けされた写真
消された形跡のある履歴
わずかに残った違和感
時間軸が、微妙に噛み合っていない
ある時期だけ、不自然に空白がある
その前後で、雰囲気が変わっている
何かを“なかったこと”にしているような
不自然な断絶。
(……なんだ、これ)
小さく呟く
まだ確信はない
ただの違和感
でも、それが一つじゃない
偶然にしては重なりすぎている
会う場所、タイミング、距離の詰め方
全部が出来すぎている意図がある動き
そこまでは分かる
でも——理由が分からない
(何のために)
自分に近づいてきたのか
その答えだけが、まだ見えない
画面を閉じる
目を閉じて、思い出す
あのときの真凜の表情
泣いていた顔
震えていた声
(……あれも、作りか)
そう考えた瞬間、少しだけ寒気がした
もしそうなら
自分はかなり雑に扱われていることになる
試されているのか、利用されているのか
どちらにしても、気分のいいものではない
(……確認するしかないか)
静かに立ち上がる
情報だけでは足りない
実際に見て、聞いて、確かめる
それが一番早い
一方その頃
真凜はスマホを片手に、ソファに寝転んでいた
「……ふーん」
軽くスクロールしながら、つまらなさそうに呟く
画面には、音羽の姿
仕事帰り、変わらない表情、無駄のない動き
「ほんと地味」
口ではそう言いながら、視線は逸らさない。
(でも)
ゆっくりと、口角が上がる
「あの顔」
思い出す
眼鏡を外した後の違和感
ずっと下だと思っていた存在が
ふとした瞬間に並びかけてくる感覚。
「……ムカつく」
小さく吐き捨てる
でも、その感情は怒りだけじゃない
もっと単純で、もっと本能的なもの
(奪えばいいだけじゃん)
ぽつりと呟く
昔からそうだった
欲しいものは、全部手に入れてきた
可愛いって言われることも
チヤホヤされることも
全部当たり前だった
努力なんてしてない
ただ、選ばれてきただけ
(あの人も、そうでしょ)
神楽陸の顔を思い浮かべる
整った顔
落ち着いた雰囲気
簡単に靡かない態度
(ああいうのほど、落としたくなる)
口元が歪む
「私に落とせない男なんていないし」
自信は揺るがない
それが崩れたことは、一度もないから
(それに)
視線を細める
「音羽の近くにいるのが、気に入らない」
それだけで十分だった
理由なんていらない。
あの人が持っているものなら、全部欲しい
あの人が大事にしているものなら全部壊したい
だってーー
使い勝手のいい
下僕でしかないんだから
(まぁどうせ、最後は私が選ばれる)
そう思っている。疑いもしない
スマホを置く
ゆっくりと立ち上がる
「……次、どうしよっかな」
軽く首を傾げる
その目には、迷いなんて一切ない
ただ、“どうやって奪うか”だけを考えている
「もっと、近づく?」
それとも——
「壊す?」
くすり、と笑う
その選択肢のどちらも
躊躇なく選べる自分に
何の疑問も持たずに
「ま、どっちでもいいか」
どうせ結果は同じだから
視線の先に、スマホがある
画面には、神楽陸の名前
(次は、もう少し強めにいこうかな)
その指が、ゆっくりと画面に触れる。
その裏で、静かに進んでいるものに気づかないまま
確実に
崩れる準備が整っていることにも気づかないまま




