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奪わせてあげる

第23話 


新しい部屋にも、少しずつ慣れてきた。


静かで、誰にも邪魔されない空間。

それだけで、こんなにも心が軽いなんて思わなかった。





「ここ、落ち着く?」

向かいに座る神楽陸がコーヒーを口にしながら言う



「うん」

小さく頷く


あの日から、何度か会うようになっていた

偶然みたいに

でも、本当は違う



(でも——)


陸といる時間だけは、

少しだけ“計算じゃない”感覚が混じる



席に着いて、少ししたときだった

 

「……あの」


神楽陸が、ふと視線を向ける


「眼鏡、外したんですね」


その一言に

音羽は、少しだけ瞬きをした



(気づくんだ)


「うん」


短く答える


「……そっちの方がいいと思います」


まっすぐな声だった

お世辞でも、軽いノリでもない

ただ、そう思ったから言った


「似合ってる」


その言葉に

ほんの一瞬だけ、言葉に詰まる

 

(……こういうの、慣れてない)


「そう」


そっけなく返す


でも——


その声は、少しだけ柔らかかった




「それで、仕事決まったんだって?」


「うん」


「すごいな」


まっすぐな言葉

その言い方に、変な下心がないのが分かる

 


(……こういう人、だったんだ)


前世では、知ることもなかった


 

そのとき


 

「——へぇ、こんなとこ来るんだ」


聞き慣れた声


空気が、一瞬で変わる


視線を向ける


 

そこに立っていたのは——



小鳥遊真凜



(来た)


内心で、静かに呟く

でも表情は変えない

 


「偶然~」


笑顔 

でも目は、まっすぐ陸を見ている



(狙いは最初からそっち)


分かりやすい


 

「……知り合い?」

陸が小さく首を傾げる



「妹」

短く答える



「へぇ~」

真凜が一歩近づく


「お姉ちゃん、こんなとこ来るんだね」


軽い口調

 

でもその一言に、棘が混じる


 

(始まる)


音羽は、何も言わない

ただ、見ている

 


「初めまして~」

すっと、陸の前に立つ


 

「真凜って言います」


柔らかい声

“外用の顔”


「神楽です」

陸は、いつも通りに答える


 

でも

ほんの少しだけ、視線が音羽に戻る


(……見てる)


その反応に、わずかに安心する自分がいる


 


真凜の視線が、ふと止まる。


「……あれ?」


じっと、音羽の顔を見る

 

数秒の沈黙

そして——


「メガネ、外したんだ?」


明るい声

 

いつもの“外用の顔” 


でも——

その目だけが、笑っていなかった


「へぇ……」


少しだけ、距離を詰める

まじまじと、顔を覗き込む

 


「なんか、雰囲気変わった?」


柔らかい言い方


でもその奥に、棘がある



「でもさ」


一瞬だけ、声のトーンが落ちる


「無理しない方がいいよ?」


くすっと笑う

 


「似合わないことすると、逆に浮くし」


遠回しな否定

 

直接は言わない



でも——


確実に、刺す


(ああ、嫌なんだ)


音羽は静かに見ている


 

その言葉の裏

焦りと、苛立ち 


「ね?」


にこっと笑って、同意を求めるように陸を見る


“味方を作る動き”



でも——

その一瞬だけ

 

笑顔が、ほんの少し歪んだ

取り繕いきれていない感情

 

それが、逆に浮いていた



「それにさ」 

真凜が、ふと声のトーンを落とす


 

「お姉ちゃんって」


一瞬、間を置く



「ちょっと怖いよね」

空気が、変わる



「昔から、厳しくて」


「私、結構怒られててさ」


困ったように笑う


「正直、ちょっと苦手で……」


(出た)

内心で、冷たく笑う


被害者の顔


“可哀想な妹”


前世で何度も見たやり方



でも——


(いいよ)

好きにやればいい

音羽は、何も言わない

否定もしない

ただ、黙っている

 

その沈黙が

逆に、空気を歪ませる


「……そうなんですか?」


陸が、静かに言う

その声は、変わらない


でも——

完全に信じているわけじゃない

 

「うん……」


真凜が、少しだけ俯く


「だから、ちょっと心配で」


視線が、音羽に向く


「変なことされてない?」


その瞬間

空気が、凍る


でも——


音羽は、ほんの少しだけ笑った


「……してないよ」


それだけ

否定も、説明も、しない


その余裕が一番、効く

 


(焦ってるね)


真凜の目の奥に、わずかな苛立ち 


思い通りにいかない

それが、分かる

 

(もっとやりなよ)

心の中で、呟く


全部、見てる

全部、記録してる


「ねえ、連絡先交換しよ?」

自然な流れで、陸に向く



(そこまで来るか)

音羽は、ただ見ている

 

止めない


——奪わせてあげる


その代わり

全部、失わせる

静かに、視線を落とす

 


スマホの画面

録音中の表示


(証拠、追加)

ゲームは、もう始まっている

 

そして——


終わりは、まだ先


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