静かな仕込み
第18話
朝は、いつも通りに始まった
キッチンから聞こえる物音
リビングのテレビの音
妹の笑い声
——何も変わらない
(……気持ち悪い)
胸の奥で、静かに思う
この光景を、自分は“普通”だと思っていた
ここが、自分の居場所だと
(違う)
ここは——
**最初から、敵の中だった場所**
「音羽ー、朝ごはんまだ?」
軽い声
振り返ると
ソファに座ったままスマホをいじる妹の姿
その隣で弟がだるそうに足を組んでいる
前世と、何一つ変わらない光景
「……今、出す」
短く答える
声は、いつも通り
表情も、変えない
——まだ、バレるわけにはいかない
(ここから半年)
妹が妊娠し
あの子を産んで
自分に押し付けてくるまでの時間
その間に
全部、整える
朝食を並べながら、視線だけで全体を見る
父。母。妹。弟。
笑っている。何も知らない顔で
(……いいよ)
そのまま笑っていればいい
どうせ——
最後に全部、壊すから
「ねえ音羽」
妹が、ふと顔を上げる。
「今日さ、荷物取りに行きたいんだけど、付き合ってくれない?」
来た
前世でも、同じことを言っていた
この頃からもう、動いていた
(……やっぱり)
内心で確信する
「いいよ」
迷いなく、頷く
「ほんと?助かる〜」
無邪気な笑顔
(気持ち悪い)
その裏にあるものを、もう知っている
外に出る
歩きながら、妹はスマホをいじっている
「最近さ〜フォロワーめっちゃ増えてて」
「案件も来てるし、マジでいい感じ」
自慢話
前世では、相槌を打ちながら聞いていた
でも今は——
(この時期か)
頭の中で、点が繋がる
フォロワーが伸び始めた時期
生活が派手になっていくタイミング
そして——
(男)
この後、関係を持つ相手
妊娠の原因になる男
「……ねえ」
ふと、声をかける
「最近、よく連絡取ってる人いるでしょ」
軽く
探るように
「……は?」
妹の動きが、一瞬だけ止まる
(分かりやすい)
「別に、なんとなく」
すぐに視線を逸らす
「……まあ、いるけど?」
少しだけ警戒した声
(当たり)
「へぇ」
それ以上は踏み込まない
今は、まだ
(焦らなくていい)
情報は、もう持っている
必要なのは——
**裏付けと、証拠**
その日
妹の荷物を取りに行った帰り
音羽は、さりげなくスマホを操作した
(……ここ)
前世で知った場所
妹がよく通っていたカフェ
その男と会っていた場所
「ちょっと寄っていい?」
自然に言う
「え〜?まあいいけど」
店内に入る
視線だけで、探す
(……いた)
奥の席
見覚えのある男
(やっぱり)
胸の奥で、何かが静かに笑う
ここから全部、繋がる
席に座りながら
何気ない顔で、会話を続けながら
頭の中では、別のことを考えていた
(証拠、押さえる)
写真
会話
関係
全部
(逃げ道、潰す)
妹が後から何をしようとしても
「最初から終わってる」状態にする
それが——
今回の復讐
(まだ、始まったばかり)
コーヒーを一口飲む
苦い
でも
その味が、妙に心地よかった
「……いいね」
小さく、呟く
今度は、間違えない。
全部、自分の手で
終わらせる




