奪われた理由
第16話
玄関の前に立ったとき
足が、止まった。
(……今さら)
それでも
確かめたかった
——自分は、なんだったのか
インターホンを押す
数秒の沈黙
「はーい」
聞き慣れた声
扉が開く
「……は?」
露骨な嫌悪
「なんでいるの?」
その一言で
胸の奥が、静かに冷える
「……少し、話があって」
「今さら?」
鼻で笑われる
「まあ、いいけど」
通された部屋は
相変わらず、明るくて
暖かそうで
——自分の居場所じゃない空間だった
「で?」
興味なさそうな声
口を開こうとした
その前に
「てかさ、あの子マジでチョロかったよね」
笑い声
「“ママだよ”って言ったら一発じゃん」
「ほんと楽だったわ」
時間が、止まる
「……え?」
声が、漏れた
視線が、一斉にこちらを向く。
「あ」
一人が、気まずそうに笑う
「聞いてた?」
軽い
あまりにも、軽い
「……どういうこと」
震える声
「そのままだよ」
面倒くさそうに、父が言う
「子供のこと」
「取り返すの、簡単だったって話」
「だってさ」
妹が笑う
「見た目も生活も違うし?」
「そりゃ、こっち選ぶよね」
頭の中で、何かが崩れる
「……じゃあ」
「私は……なんだったの」
少しの沈黙
「……は?」
呆れたような声
「今さらそこ?」
くすりと笑われる
「だってあんた」
妹が、肩をすくめる
「本当の子じゃないし」
思考が、止まった。
「……え」
「知らなかったの?」
笑い声が重なる
「お父さんの兄さんの子だよ、あんた」
「うちで引き取っただけ」
言葉の意味が
理解できない
(……兄さん?)
(引き取った……?)
頭の中で、何かがゆっくり繋がる。
「……じゃあ」
「私の……お父さんとお母さんは」
その問いに
ほんの一瞬だけ、間があいた。
でも
「死んだでしょ」
あっさりと、返される
「事故で」
胸が、ざわつく
「……事故?」
その瞬間
「てかさ、あれも上手くいったよね」
軽い声
「保険金」
思考が、止まる
「兄さんもさ」
父が笑う
「よくやってくれたよな」
「事故に見せるの大変だったけど」
——繋がった
全部
「……うそ」
声が、震える
「……嘘だよね?」
誰も、否定しない
それが
答えだった
「……なんで」
足が、震える
「なんで……そんなこと……」
「金になるからに決まってんじゃん」
あっさりと、言われた
「保険金、でかかったし」
「正直、助かったわ」
その瞬間
何かが、完全に壊れた
「……ふざけるなぁぁあ!!」
気づけば、走り出していた
「返してよ!!」
「私の……!」
「私の、お父さんとお母さんを!!」
拳を振り上げる。
でも
簡単に、止められた
「うるさいな」
そのまま
強く、振り払われる
体が、宙に浮く
——ゴンッ
鈍い音
視界が、揺れる
「……え」
生温かいものが流れる
力が、入らない
床に、崩れ落ちる
「ちょ、やば……」
「え、これ……」
「めんどくさ……」
「どうすんの、これ」
その言葉が
すべてだった
(……ああ)
私は最初から
何も、持ってなかったんだ
それでも
(……あの子だけは)
本当に、大切だった
黒い感情が、溢れる
許せない
全部奪われた
「……絶対に」
かすれた声
「……許さない」
「もう一度……」
「もう一度、やり直せるなら」
「お前たちを……」
「…絶対」
「地獄に落としてやる…」
その言葉と共に
意識が、途切れた




