表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/43

選ばれなかった人

第14話 




「……ママだよ」



その一言で


空気が、凍った

 


 


「……え?」


 


隣で、音羽の声が震える。


 


 


「なに、言って……」


 


 


言葉が、続かない。


 


「急にごめんね」



柔らかい声


まるで、本当に申し訳なさそうに


 


「ずっと、探してたの」


視線は、まっすぐ子供に向けられている


 



「……探してた?」


小さな声が、繰り返す



「うん」


優しく、頷く



「ずっと会いたかった」


その言葉に

子供の瞳が、少し揺れる


 


「……違う」


やっと、音羽が声を出す



「この人は……」


その先が、言えない



“本当のこと”を

 


ずっと、隠してきたから


 


「ねえ」


妹が、ゆっくりと口を開く

 


「一つだけ、聞いてもいい?」


返事を待たずに、続ける


 

「今の生活、楽しい?」


その問いに



子供の体が、ぴくりと揺れた


「……」 


答えない


 

でも

沈黙が、答えだった



「無理してない?」


優しい声


でもその言葉は、確実に刺さる



「ボロボロの家で」


一瞬、部屋を思い浮かべる

 


「こんな生活で」


音羽の指先が、わずかに震えた。

 


「……やめて」


かすれた声

 


「ねえ」


遮るように、妹が続ける



「本当のお母さんは、どっちだと思う?」



その一言で

空気が、歪んだ

 


「……え」


子供の視線が、揺れる



音羽と、妹

交互に見る

 


(どっち……?)


頭の中で、何かが噛み合わない



優しかった


ずっと一緒にいた


「ママ」って呼んでた


でも友達に言われた

お前お母さんと似てないよな…


この一言がずっと胸の奥底にあった 

 


(……なんか、違う)



 

ふとよぎる


友達の家


綺麗な部屋


ちゃんとした服 


笑っているお母さん


(うちのママは……)


ぼろぼろで


疲れてて


ぼくと似てない




「ねえ」


甘い声が、耳に入る



「本当のこと、知りたくない?」 


その言葉に

視線が、吸い寄せられる



「この人はね」


一瞬、音羽を見る


 


「あなたを、奪った人なの」


「……!」


息が詰まる。



「ち、違う……っ」


音羽が、声を上げる


 

でも


「ほんとは、私の子なの」


静かに、言い切る



「ずっと、返してほしかった」



その言葉は

あまりにも、自然だった

 


「……うそ」


小さな声

でも、その声は震えていた

 


「じゃあ、なんでこんな生活なの?」


ふいに、言葉がこぼれる



「なんで、ぼくの家……こんななの」


音羽の心臓が、強く跳ねた。



「……それは」


答えようとして


言葉が出ない



 

「みんなのママは」

 

止まらない



「もっと綺麗で」


「ちゃんとしてて」


「……なんで、うちは違うの?」


その一言が

胸を、抉る

 


「……ごめん」


それしか、言えなかった


 

「謝らなくていいよ」


妹が、優しく微笑む



「だって、本当のママはこっちなんだから」


そっと、手を差し出す。



「おいで」


その手を見つめる



(……綺麗) 


爪も肌も


(……いい匂い)


(……ちゃんとしてる)


吸い寄せられるようにゆっくりと、手が動く

  


「……待って」


音羽が、手を伸ばす

 


「……行かないで」


震える声


 


その手を


振り払った。


 


「……やだ」


小さな声

でも、はっきりと


「……ぼく」


「こっちがいい」


時間が、止まる


その一言で


すべてが、崩れた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ