価値のあるものだけを
妹side
正直に言えば
あのとき、嬉しかった。
「本当にいいの?音羽」
わざとらしく、少しだけ困った顔をしてみせる。
「無理してない?」
「……うん、大丈夫」
目の前の姉はそう言って、頷く。
——大丈夫なわけないのに。
心の中で、笑いそうになるのを必死に堪えた。
だって
最初からいらなかった
妊娠が分かったときも
「は?最悪なんだけど」
それが、本音だった。
「……さっさと堕ろしたいんだけど、いつ堕ろせる?」
病院の白い天井を睨みながら、私は舌打ちした。
医者は困った顔で言う。
「もう週数的に厳しいですね…母体のことを考えると出産になります」
「は? ふざけないで」
思わず笑ってしまった。
笑えるくらい、最悪。
だってそうでしょ?
これから私はもっと有名になるのに。
フォロワーも伸びてる
案件も増えてる
ここからなのに
子供?
そんなの、邪魔でしかない
——はぁ 本当ついてない
なんで私が、こんなの産まなきゃいけないの
「……まあ、いいわ」
吐き捨てるように言った。
どうせ——
私は
育てるつもりなんて、最初からない
ちょうどいいのがいるじゃない。
昔から、そうだった
あの人は、そういう役
何でも引き受けて
文句も言わなくて
損する側
だから
今回も、同じ
「お願い……音羽しかいないの」
少し泣いて、姉に押し付ければ終わる話だった。
案の定
姉は、引き受けた
——ほんと、笑っちゃう
出産は、想像以上に痛くて、汚くて、不快だった。
「おめでとうございます、元気な男の子ですよ」
「……へぇ」
差し出された赤ん坊を、私は一度も抱かなかった。
興味がなかったから。
子供を手放した日
久しぶりに、よく眠れた
泣き声もない
面倒もない
ただ、自分の時間だけがある
「最高じゃん」
思わず、口に出た
そこからは、順調だった
フォロワーは増えていく
案件は途切れなくて
男にも困らない
キラキラした毎日
「真凜ちゃん憧れます♡」
「スタイル良すぎ!」
「人生楽しそう!」
そんな言葉に囲まれて
——当然でしょ。
努力してるんだから
無駄なものは全部捨てて
「やっぱり、これが正解」
そう確信していた
あんなの、持ってたら終わってた
ある日
「ねえ真凜、この子見てよ」
知り合いがスマホを見せてきた
そこに映っていたのは——
見覚えのある顔。
「……え?」
一瞬、思考が止まる
拡大する
整った目元
バランスのいい顔立ち
そして、どこか——
自分に似ている
「……あぁ」
理解した瞬間、口角が上がった
「そういうこと」
あの時、捨てた“それ”
私の子供
「この子、今スカウト来てるらしいよ」
その言葉に
「ふふ……いいじゃん」
思わず笑いが漏れる
だって
(……使える)
それだけで、十分だった。
軽い口調で言われる。
「顔いいよね」
……へぇ。
もう一度画面を見つめる。
(こんなに、なったんだ)
ゆっくりと、口元が歪む。
「ママインフルエンサー……ありかも」
最近流行ってるし。
“シングルマザーで頑張ってます”とか、
“子供との日常”とか
バズるに決まってる
しかもこの子、顔がいい
絶対売れる
「ねえ、それどこで見たの?」
声は、いつも通り明るく。
でも頭の中では、もう別のことを考えていた。
——どうやって、取り戻すか
だって
最初から
あれは、“私のもの”なんだから
まぁそんなの、どうにでもなる
地味でボロボロの女と
フォロワー何十万の私
——答えは明白
「さて、と」
鏡の前で髪を整える。
完璧な笑顔。
優しくて、愛情深い“母親”の顔。
「迎えに行こうか」
——私の“道具”を




