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はじめての「ママ」

第10話 


季節が、少しだけ変わっていた


窓から入る風が、前よりも柔らかい


 


 


「……よいしょ」


小さな体を抱き上げる。



前よりも、少しだけ重くなった気がした



「重くなったね」


そう言うと、嬉しそうに笑う。


 


 


その顔を見るだけで、疲れが少し軽くなる気がした。


生活は、相変わらずぎりぎりだった


仕事を増やしても、余裕なんてできない



それでも——



「ほら、見て」


床に座らせる


小さな手を、ゆっくりと離す

 


ふらふらと揺れながら





一歩


 

そして、もう一歩


 

 


「……!」


 



思わず息を飲む


 


 


 


「すごい……」


転びそうになりながらも、必死に足を動かす


その姿が、愛おしくてたまらなかった


 




「頑張って……!」


思わず声が出る

 


ぱたん、と尻もちをつく


 

一瞬、きょとんとした顔をして


 


「……あー」


こちらを見る。


その目が、何かを求めるように揺れる。


気づけば、手を伸ばしていた。



「おいで」


その一言で


また、立ち上がる


 


 


そして 


小さな足で、こちらへ向かってくる


 



「……っ」

 

胸が、ぎゅっと締めつけられる

 

 


そのまま

音羽の腕の中に倒れ込んできた小さな体


 


「……すごい」 


思わず、抱きしめる


こんなにも小さな一歩なのに


 

世界が変わった気がした




「えらいね」

 


何度も、そう繰り返す。


そのときだった。


 


 


 


 


「……ま」


 


 


 


 


耳を疑った。


 


 


 


 


「……え?」


 


 


 


 


顔を覗き込む。


小さな口が、もう一度動く


 


「……まま」


時間が、止まった

 


 


「……今……」

 

呼ばれた


そう理解した瞬間。




「……っ」

 


言葉にならないものが、込み上げてくる


 



「……ママ?」


確かめるように、もう一度呼ばれる。


 

「……うん」


やっと、声が出た。


  


「……ママだよ」


涙が、止まらなかった


 


こんな自分でも


ちゃんと

母親になれている気がした


 

貧乏でもいい


何もなくてもいい

 


この子が、そう呼んでくれるなら


それだけで、全部報われる気がした

 


 

 


この時間が

ずっと続けばいいのに

 


 


心から、そう思った



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