暖炉の前の独白
アッシュが静かな寝息を立て始めた頃、
ポルはそっと椅子を引き寄せ、
暖炉の前に腰を下ろした。
火の揺らぎを見つめながら、
誰に聞かせるでもなく、
小さく呟いた。
「……隊長。
お前に嘘をついた」
アッシュは眠っている。
返事はない。
それでもポルは続けた。
「本隊を救ったのは本当だ。
お前がいなきゃ……俺たちは全滅してた」
薪がぱちりと弾ける。
「でもな……
あの日、お前が凍った理由は……
そんな単純なもんじゃねぇ」
ポルは目を閉じた。
まぶたの裏に、あの日の光景が蘇る。
吹雪の中、アッシュの炎が白く燃え上がっていた。
その背後から──
光が降りてきた。
「アッシュ!!」
エリシアの声だった。
ポルはその声を、一生忘れない。
アッシュが振り返る。
その瞬間、氷槍が飛んだ。
「やめろ……! 前に出るな!!」
ポルの叫びは吹雪に消えた。
エリシアは迷わずアッシュの前に立った。
光の盾が氷槍を受け止め──砕け散る。
アッシュの炎がエリシアごと貫き、エリシアの光と混ざり合い、グラキエスの胸を貫いた。
その瞬間、
ポルは見てしまった。
アッシュの腕の中で、
エリシアの光がゆっくりと消えていくのを。
「……アッシュ……
あなたは……生きて……」
その声は、吹雪に溶けて消えた。
アッシュは叫んでいた。
声にならない声で。
だが──
その叫びは、氷に呑まれた。
グラキエスの“氷の核”がアッシュの胸に押し当てられ、
魂ごと凍らせる処刑が行われた。
エリシアの光は消え、
アッシュは氷塊となった。
ポルはただ、
氷の中のアッシュにすがって泣くことしかできなかった。
---現在:暖炉の前
ポルは深く息を吐いた。
「……アッシュ。
お前は、自分が何を失ったのか知りたいって言ったな」
火が揺れ、影が壁に伸びる。
「でも……
あれを思い出したら……
お前は確実に壊れる」
ポルは拳を握りしめた。
「だから俺が覚えてる。
お前の代わりに……全部、背負ってる」
アッシュは眠ったまま、
微かに眉を寄せた。
まるで、
胸の奥で誰かの声を探しているように。
ポルはそっと毛布をかけ直した。
「……大丈夫だ。
今はまだ、思い出さなくていい」
暖炉の火が静かに揺れた。
「お前が……生きてるだけでいいんだよ、アッシュ」
その言葉は、
眠るアッシュには届かない。
だが──
ポルの胸の奥にだけ、
深く沈んでいった。




