表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/44

暖炉の前の独白

アッシュが静かな寝息を立て始めた頃、

ポルはそっと椅子を引き寄せ、

暖炉の前に腰を下ろした。


火の揺らぎを見つめながら、

誰に聞かせるでもなく、

小さく呟いた。


「……隊長。

 お前に嘘をついた」


アッシュは眠っている。

返事はない。

それでもポルは続けた。


「本隊を救ったのは本当だ。

 お前がいなきゃ……俺たちは全滅してた」


薪がぱちりと弾ける。


「でもな……

 あの日、お前が凍った理由は……

 そんな単純なもんじゃねぇ」


ポルは目を閉じた。

まぶたの裏に、あの日の光景が蘇る。



吹雪の中、アッシュの炎が白く燃え上がっていた。


その背後から──

光が降りてきた。


「アッシュ!!」


エリシアの声だった。


ポルはその声を、一生忘れない。


アッシュが振り返る。

その瞬間、氷槍が飛んだ。


「やめろ……! 前に出るな!!」


ポルの叫びは吹雪に消えた。


エリシアは迷わずアッシュの前に立った。

光の盾が氷槍を受け止め──砕け散る。


アッシュの炎がエリシアごと貫き、エリシアの光と混ざり合い、グラキエスの胸を貫いた。


その瞬間、

ポルは見てしまった。


アッシュの腕の中で、

エリシアの光がゆっくりと消えていくのを。


「……アッシュ……

 あなたは……生きて……」


その声は、吹雪に溶けて消えた。


アッシュは叫んでいた。

声にならない声で。


だが──

その叫びは、氷に呑まれた。


グラキエスの“氷の核”がアッシュの胸に押し当てられ、

魂ごと凍らせる処刑が行われた。


エリシアの光は消え、

アッシュは氷塊となった。


ポルはただ、

氷の中のアッシュにすがって泣くことしかできなかった。



---現在:暖炉の前


ポルは深く息を吐いた。


「……アッシュ。

 お前は、自分が何を失ったのか知りたいって言ったな」


火が揺れ、影が壁に伸びる。


「でも……

 あれを思い出したら……

 お前は確実に壊れる」


ポルは拳を握りしめた。


「だから俺が覚えてる。

 お前の代わりに……全部、背負ってる」


アッシュは眠ったまま、

微かに眉を寄せた。


まるで、

胸の奥で誰かの声を探しているように。


ポルはそっと毛布をかけ直した。


「……大丈夫だ。

 今はまだ、思い出さなくていい」


暖炉の火が静かに揺れた。


「お前が……生きてるだけでいいんだよ、アッシュ」


その言葉は、

眠るアッシュには届かない。


だが──

ポルの胸の奥にだけ、

深く沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ