砂漠を越えて、緑の国へ
アッシュたち三人は、村外れの砂丘の前で荷を整えていた。
ザラフは腕を組んだまま、しばらく黙って彼らを見ていたが──
やがて、短く息を吐いた。
「……行くんだな」
アッシュが頷く。
「できるだけ力を取り戻したい。
エルフェリアに向かう」
ザラフはアッシュの顔をじっと見つめた。
「……死ぬなよ」
アッシュは目を瞬かせた。
その言葉は命令でも叱咤でもなく、
ただの願いだった。
アッシュは静かに頷いた。
「……わかった」
レーネとポルも深く頭を下げる。
ザラフは照れ隠しのように鼻を鳴らし、
背を向けて歩き出した。
「行け。
必要な時は……必ず力になる」
その背中は、砂漠の光の中にゆっくりと溶けていった。
ゼル=アラドを離れてしばらく歩くと、
砂丘の影から、ふっと人影が現れた。
まるで砂の中から滲み出たように。
「……後方、異常なし」
カリムだった。
アッシュは思わず息を呑む。
気配がまったくなかった。
レーネが小さく微笑む。
「全く気配がありませんね」
カリムは淡々と頭を下げる。
「斥候とは、そういうものです。
帝国の追跡も確認できません。
進行に問題はありません」
ポルが肩をすくめた。
「いつの間にか横にいるんだもんな」
「申し訳ありません。
気配を消すのが習いでして」
カリムの声音は柔らかいが、表情は変わらない。
アッシュはその姿を見つめ、
ザラフが託した“影”の重さを感じていた。
四人は東へ向かって歩き出す。
砂漠の地平線の向こうに、かすかに緑の帯が見え始めていた。
レーネがその方向を見つめながら言う。
「……あれが、翠風の森国エルフェリア」
ポルが少しだけ歩調を落とす。
「大陸東部の大森林に広がる国だ。
魔力の源──“世界樹”を守ってる。
でも……魔王軍との戦争で、森の半分が焼けたままって話だ」
レーネが眉を寄せる。
カリムが静かに補足する。
「エルフェリアは二つの側面があります。
外交積極的に行う外環と階級が全ての内環」
ポルは苦笑した。
「……あそこは、俺の故郷だ。
でも、魔法が使えない俺には……居場所なんてなかった」
アッシュはポルを見た。
「ポル。
今のお前を見て、落ちこぼれだと思う奴はいない」
ポルは照れくさそうに笑い、
しかしその目には、少しだけ救われた色が宿っていた。
カリムが静かに言う。
「故郷とは……時に最も遠い場所になるものです」
その言葉に、誰も反論しなかった。
カリムが続ける。
「ザラフ族長よりエルフェリアに関する伝言があります。
《エルフェリアにいる勇者パーティで味方してくれるとしたらポポだ。セレフィアには気をつけろ》」
ポルは目線を下げる。
「............」
レーネは少し考えて
「ザラフ殿が《気をつけろ》とは怖いですね」
アッシュはポルを見ながら答える。
「......行ってみれば分かる」
砂漠の風が吹き抜ける。
四人は東へ向かって歩き続ける。
アッシュは胸の奥で、ザラフの言葉を反芻していた。
──死ぬなよ。
それは重荷ではなく、
“生きて再び会おう”という願いとして響いていた。
アッシュは静かに息を吸い、
遠くに見える緑の影へと歩みを進めた。
翠風の森国エルフェリア。
次なる旅路が、そこに待っている。




