堕英雄の誓い
ザラフの話が終わると、小屋の中に静寂が落ちた。
ザラフは深く息を吐き、アッシュたちを見た。
「……で、お前らは今、何をしてる?」
アッシュが答えようとしたが、レーネがそっと前に出た。
「ザラフ殿。
まず……お伝えしなければならないことがあります」
ザラフの視線がレーネに向く。
レーネは静かに言葉を紡いだ。
「……魔王アーク=ノクティスが、復活しようとしている兆しがあります」
ザラフの目が細くなる。
「……復活?」
ポルが補足するように口を開く。
「魔王城跡で《魔力の濃度が上昇している》そして《上位の魔族が集結している》らしい」
レーネはアッシュを見つめ、続けた。
「イシュヴァルは……アッシュ殿に“賭けた”のです。
魔王が再び動き出す前に、備えよと。
アッシュ殿が力を取り戻すことが、唯一の希望だと」
ザラフはアッシュを見た。
「……力を取り戻す、ね」
アッシュは小さく頷いた。
ポルが続ける。
「アッシュの力は少しずつ戻っている。
次は東へ向かうつもりだ」
レーネも静かに言葉を添える。
「魔王が復活する前に、アッシュ殿に力を取り戻してもらわなければなりません。
それが……私たち三人の旅の目的です」
ザラフの横顔には、二十年の重さとは別の、新たな影が落ちていた。
「……そうか。
魔王が……また動くのか」
砂漠の風が小屋の布を揺らし、
四人の間に新たな緊張が生まれた。
ザラフは静かに言葉を続けた。
「……ゼル=アラドは、まだまだ復興なんて言えない。
水も食料も足りねぇし、交易路も死んだままだ。
ここが“国”に戻るには……何十年もかかるだろうな」
アッシュたちは黙って耳を傾けた。
ザラフの声には、諦めではなく、ただ現実を受け止めた者の重さがあった。
「俺は、生き残った奴らを守るために盗賊団を作った」
レーネが目を見開く。
「盗賊……団?」
「ああ。
帝国の補給隊を襲って、食料や水を奪った。
だが殺しは絶対にしない。
奪うのは必要な分だけだ。
民間の商隊には指一本触れなかった」
ポルが低く呟く。
「……だから帝国は、お前を“堕英雄”と呼ぶのか」
ザラフは肩をすくめた。
「好きに呼ばせておけばいい。
俺は英雄でもなんでもない。
ただ……ゼル=アラドを守りたかっただけだ」
アッシュはその背中を見つめた。
二十年の孤独と責任が、そこにあった。
ザラフはふと振り返り、アッシュをまっすぐ見た。
「……魔王が復活するなら、俺も動く。
ゼル=アラドはまだ弱いが……
お前らが必要な時は、必ず力になる」
アッシュは驚き、そして静かに頷いた。
「……助かる」
ザラフは小さく笑い、外に出ていく。
「少し待ってろ」
しばらくすると一人のアラド族の青年を連れて戻ってきた。
顔の半分は砂布で覆われており、鋭い眼光が覗く。
背にはほぼ身長と同サイズの大弓と、腰には短剣が二本と軽弓。
「カリムだ。
短剣と弓の使い手。
俺が信頼してる仲間の一人だ。
お前たちの旅に同行させる」
ザラフは続ける。
「俺ほどじゃないが移動も速いし気配も消せる。
斥候役には最適だ。
帝国に襲われたことを考えると、一番必要だろう」
カリムは無表情で一礼した。
「カリムと申します。
ザラフ殿の命により、あなた方の道行きを影より支えます。
どうか、お気になさらず。私は“見えぬところ”にいるのが務めです。」
その動きは静かで、無駄がなく、砂漠の獣のようにしなやかだった。
アッシュ、レーネ、ポルは互いに視線を交わした。
新たな仲間の登場は、旅の行方を大きく変える予感を与えた。
アッシュは静かに頷いた。
「……頼りにさせてもらう」
砂漠の風が吹き抜け、四人の間に新たな決意が生まれた。




