二十年越しの告白
ザラフは火を見つめたまま、長く息を吐いた。
「……まだ話さないといけないことがある」
アッシュは黙って座り、
レーネとポルも緊張した面持ちで耳を傾ける。
ザラフはゆっくりと口を開いた。
「魔王城に乗り込んだ時……俺たちはほぼ魔王の間まで攻め込んでた。
その時に後方の本隊が後方から奇襲を受けたって報告が入った」
レーネが息を呑む。
「本隊は……お前らがいた場所だ」
アッシュは表情を変えない。
ポルは静かに目を閉じた。
ザラフは続ける。
「俺は言った。
“戻って助けるべきだ”って。
本隊が崩れたら、俺たちに何かあれば魔王は倒せねぇ。
それに……仲間を見捨てるなんて、できなかった」
拳が膝の上で静かに握られる。
「だが……他の連中は反対した」
『魔王を倒すことが最優先だ』
『この好機を逃すわけにはいかない』
『戻れば全滅する』
「……そう言われた。
俺は……押し切れなかった」
ザラフはアッシュを見た。
「お前らは……本隊で戦ってたんだよな」
ポルがゆっくり頷く。
「……ああ。
俺たちは勇者パーティ〈五光の勇団〉が挟み撃ちされるのを食い止めてた。
アッシュは……その中心にいた」
アッシュは何も言わない。
ポルは続ける。
「本隊はもう崩壊寸前だった。
四天王のグラキエスは圧倒的だった……
太刀打ちできるのはアッシュだけだった」
レーネが震える声で言う。
「それで……氷漬けに……?」
ポルは苦い表情で頷いた。
「アッシュは……致命傷を与えてた。
その代わり“氷の核”を胸に押し当てられたて氷漬けにされた。
グラキエスが退いたことで魔王軍の攻勢が弱まった。だから本隊を守り抜くことが出来たんだ」
アッシュは静かに目を伏せる。
記憶はない。
だが、胸の奥が痛んだ。
ザラフは低く呟いた。
「……そうか。
お前は……あの時、本隊を守ってくれたのか」
ザラフは少し考えた後、
「今思えば……あいつらが恐れてたのは別のことだ」
アッシュがわずかに視線を上げる。
「四天王グラキエスの部隊をゼル=アラドを攻撃してる魔王軍と勘違いしたんだろう。
だから……本隊を切り捨ててでも、魔王を倒すしかなかった」
ザラフは唇を噛み締めた。
「俺たちは……本陣を切り捨てたんだ」
ザラフの声は、砂漠の夜よりも静かだった。
「そして魔王を倒した。
帝国は歓声を上げて、俺たちを英雄と呼んだ。
……だがその裏で、ゼル=アラドは焼かれていた」
ザラフはアッシュを見た。
「お前は……本隊を守って氷漬けになった。
俺は……故郷を守れず、英雄気取りで浮かれてた」
ザラフはゆっくりと頭を下げた。
「……すまなかった。
俺は……守れなかった」
アッシュはしばらく黙っていた。
そして、短く言った。
「……ザラフのせいじゃない。
それに俺は俺たちが守りたかった二十年後の姿を見てきた。
それは魔王を倒せたからだ」
ザラフは驚いたように目を細める。
ポルが続ける。
「そうだ。
お前には後悔の残る選択ばかりかもしれないが今があるのはお前のおかげだ」
レーネは過去は知らないが今を代表する。
「ザラフ殿のおかげで今があるのです」
ザラフは弱々しく微笑んだ。
「......ありがとう」
ザラフが二十年抱えてきた重さを、
ほんの少しだけ軽くした。




