幼き声の断末
バル=ラグナが絶叫を上げながら墜落していく。
その身体からは、制御を失った魔力が噴き出していた。
その瞬間──
アッシュの頭の奥に、“幼い声”が流れ込んだ。
『……アッシュ兄ちゃん……?』
『……こわい……こわいよ……』
胸が締めつけられ、アッシュは思わず息を呑む。
「……っ……!?」
黒炎が暴れ、視界が白く染まった。
『……アッシュ兄ちゃん……逃げて……』
『……ぼく、もう……ぼくじゃ……ない……』
『……たすけ……て……』
消えゆく意識の中で、アッシュは必死に声の主を思い出そうとする。
「……この声……俺は……知っている……!」
『……ごめんね……アッシュ兄ちゃん……
ぼく……もう……止められない……』
膝が崩れ、地面に手をつく。
『……アッシュ兄ちゃん……ありがとう……』
その言葉を最後に、バル=ラグナは魔力を放出しきり、完全に消滅した。
アッシュの意識も、深い闇へと沈んでいく。
レーネとポルが駆け寄った。
「アッシュ殿!!」
「おい、しっかりしろ!」
アッシュは完全に気絶していた。
黒炎も消え、ただ荒い呼吸だけが荒野に残る。
レーネは震える指先でアッシュの頬に触れ、必死に呼びかけた。
「アッシュ殿……! お願いです、目を開けて……!」
ポルも焦りを隠せない。
「頼む……死ぬなよ……!」
返事はない。
アッシュは静かに横たわったままだ。
その時だった。
――ゴォォォォォォォ……
低く重い風切り音が、荒野の空気を震わせた。
ポルが顔を上げる。
「……なんだ、この音……?」
レーネも空を見上げ、息を呑んだ。
「……風ではありません……
これは……魔導機の音……!」
次の瞬間、巨大な影が荒野に落ちた。
雲を裂き、黒鉄の巨体が降下してくる。
サン=レガリア帝国軍の飛空艇──。
船体の側面には、帝国の紋章が刻まれていた。
「……帝国軍!? なんでこんな所に……!」
ポルが叫ぶ。
レーネはアッシュを庇うように立ち上がり、剣を構えた。
「アッシュ殿を……狙って……?」
飛空艇の底部が開き、黒い外套の兵士たちが次々と降下してくる。
十、二十……いや、それ以上。
レーネはアッシュの前に立ち、剣を握りしめた。
「ポル殿!アッシュ殿を守りましょう!」
兵士たちが地面に着地し、こちらを囲む。
「バル=ラグナが倒されるとはな。間違いない、奴らだ」
アッシュは動かない。
レーネは魔力切れ。
ポルは二人を守るので手一杯。
「ここで消してしまえ!」
帝国兵が刃を構える。
レーネは歯を食いしばった。
「アッシュ殿を抱えて戦うなんて……!」
ポルも叫ぶ。
「クソッ……どうすりゃいい……!」
帝国兵が迫り、刃が振り上げられた──。




