それぞれのゼル=アラド
ドワルガンを離れ、三人は岩山の陰で足を止めた。
冷たい風が吹き抜け、遠くには荒れた大地が広がっている。
ドワルガンの喧騒はもう聞こえない。
ポルが地図を広げ、指で南東をなぞった。
「……次の目的地は、ゼル=アラドだな」
レーネが首を傾げる。
「ゼル=アラド……弱小国ですよね?
魔王軍に滅ぼされた……」
アッシュとポルが同時にレーネを見る。
その表情には、どこか複雑な影があった。
アッシュが静かに言う。
「弱小国、か。
……そう教えられているなら、そうなんだろうな」
レーネは戸惑う。
「え……違うんですか?」
ポルが苦笑しながら地図を指で叩いた。
「ゼル=アラドは砂漠の民“アラド族”の国だ。
魔法はほとんど使えねぇが、身体能力と戦術は五国でも随一だった。
弱いなんて、とても言えねぇよ」
レーネは驚いたように目を瞬かせる。
「そんな……私が学んだ歴史では……
“抵抗できずに滅んだ国”と……」
アッシュは遠くの荒野を見つめた。
「……あの国は、戦い方が強かった。
砂漠の地形を利用した遊撃戦、罠、奇襲……
魔王軍にとって厄介な相手だったはずだ」
レーネはさらに困惑する。
「では……なぜ滅んだんです……?」
アッシュは答えない。
ポルも口を閉ざす。
二人とも“何かがおかしい”と感じているが、
その理由をまだ言葉にできない。
アッシュは短く言った。
「……行けばわかる。
ゼル=アラドは、ただの弱小国じゃない」
レーネは不安そうにアッシュを見る。
「アッシュ殿……何か知っているのですか?」
アッシュは目を伏せた。
「……わからない。
だが……あの国は、俺たちの過去と無関係じゃない」
ポルが肩をすくめる。
「ま、行って確かめるしかねぇな。
ゼル=アラドの生き残りが、今どうしてるかも気になるしな」
レーネは地図を見つめ、静かに息を吸った。
「……わかりました。
ゼル=アラドへ向かいましょう」
アッシュは頷き、立ち上がる。
「急ぐぞ。
ドワルガンの追手が来る前に、国境から離れる」
三人は岩山の陰を抜け、荒れ果てた大地へと歩き出した。
かつて誇り高く、今は亡国となったゼル=アラドへ──。
その背中に、風が静かに吹きつけた。




