迫る影と未完成の刃
食堂で温かい朝食を終えた三人は、
新しい剣を確認するため、ガンリックの元に行こうとしていた。
そのとき――
宿屋の扉が乱暴に開けられた。
「アッシュ! ポル! レーネ! いるか!」
聞き覚えのある声だった。
ポルが眉をひそめる。
「……バルドーグさん?」
三人がロビーに集まると
ギルドマスターのバルドーグが息を切らしながら立っていた。
バルドーグは声を潜めて話す。
「……まずいことになった」
レーネが不安そうに尋ねる。
「何が……?」
バルドーグは苦々しい表情で言った。
「ドワルガン国軍から、冒険者ギルドに“通達”が来た。
――アッシュたち三人を拘束し、身柄を引き渡せ、とな」
空気が一気に冷えた。
ポルが舌打ちする。
「やっぱりか……!」
アッシュは静かに目を細めた。
「王の差し金か」
バルドーグは頷く。
「ドルガンの野郎だ。
帝国に尻尾を振ってるあのクソ野郎が……
お前らを帝国に売るつもりだろうよ」
レーネが息を呑む。
「そんな……!」
バルドーグは拳を握りしめ、低く言った。
「だがな――
俺はあんな腐った王の言いなりになる気はねぇ」
アッシュが目を見開く。
「……助けてくれるのか」
「当たり前だ。
お前らは命を張って鉱山を救った。
そんな奴らを売るギルドマスターがどこにいる」
ポルが笑う。
「バルドーグさん……!」
バルドーグは三人を見渡し、真剣な声で言った。
「いいか。
今すぐにドワルガンを出ろ。
俺は“捕まえ損ねた”って報告しておく」
レーネが心配そうに言う。
「そんなことをしたら……バルドーグさんが……」
「心配すんな。
俺は軍を辞めた時点で、あいつらとは縁を切ってる。
今さら何を言われようが痛くも痒くもねぇよ」
アッシュは深く頭を下げた。
「……恩に着る」
バルドーグは笑い、背を向けた。
「礼なんざいらねぇ。
お前らは……俺の誇りだ」
そう言い残し、
「捕まえ損ねた」と呟きながら宿屋を後にした。
三人は急ぎ足で職人街を抜け、ガンリックの工房へ向かった。
バルドーグの言葉が胸に重く残っている。
(ドワルガン国軍が動いた……時間がない)
アッシュは工房の扉を叩いた。
「ガンリック、いるか」
すぐに扉が開き、寝不足の目をしたガンリックが顔を出した。
「アッシュ殿……! ちょうどよかった。
試作段階ですが、二本……形になりました」
工房の中央には、布をかけられた台があった。
ガンリックが布をめくると、二本の剣が姿を現した。
一本は黒鉄のように重厚で、
もう一本は赤い光を帯びた細身の刃。
レーネが息を呑む。
「……たった二日で、ここまで……」
ガンリックは首を振る。
「いえ……まだ粗いです。
鍛えも甘いし、魔力の通りも不安定で……
本来なら渡せる段階ではありません」
ポルが黒鉄の剣を持ち上げる。
「いや、十分すぎるだろ……
これ、試作でこの重みかよ」
アッシュは赤い刃を手に取り、軽く振った。
刃が空気を裂き、赤い残光が尾を引く。
「……悪くない」
ガンリックが驚く。
「アッシュ殿……?」
アッシュは静かに言った。
「完成品は……必ず取りに戻る。
だが今は、これで十分だ」
アッシュが試作剣を握った瞬間、
胸の奥で“何か”が軋んだ。




