黒炎の咆哮
巨大土竜が咆哮し、灼熱の風が洞窟を揺らした。
ポルが剣を構えながら叫ぶ。
「アッシュ! どうする!?」
アッシュは一歩前に出て、静かに言った。
「……試したいことがある」
レーネが驚く。
「アッシュ殿……?」
アッシュは拳を握りしめた。
「力が……少し戻ってきている。
イグドの力を……使えるかもしれない」
その言葉に、ポルの表情が変わった。
「……本気か?」
「ああ。
だが準備に時間がいる。
その間――頼む」
ポルは笑った。
「任せろ。時間くらい、いくらでも稼いでやる!」
ポルが土竜へ突っ込む。
「おらぁッ!!」
巨大な爪が振り下ろされ、地面が砕ける。
ポルはギリギリでかわし、剣で土竜の目を狙う。
「こっちだデカブツ!」
土竜が怒り狂い、ポルを追い回す。
その隙に――
レーネはガンリックの前に立ち、魔力を練り始めた。
「ガンリック殿、下がってください。
ここからは……私が守ります」
ガンリックは震えながらも頷く。
「……お願いします」
レーネの周囲に冷気が集まり、白い霧が渦を巻く。
アッシュは目を閉じ、深く息を吸った。
(……イグド……力を貸してくれ)
次の瞬間、アッシュの身体が赤く光り始めた。
皮膚が炎のように揺らぎ、髪が燃え上がる。
ガンリックが息を呑む。
「……炎化……!」
アッシュの魔力が洞窟全体を震わせた。
レーネが叫ぶ。
「アッシュ殿! 準備できました!」
アッシュが頷く。
「頼む、レーネ!」
レーネは両手を広げ、魔力を解き放つ。
「――《アイス・ウォール》!!」
巨大な氷壁が何重にも展開し、
アッシュと土竜を包み込むように円形の檻を形成した。
ポルが驚く。
「おいおい……こんな規模のアイスウォール、初めて見たぞ!」
レーネは汗を流しながら言う。
「外には……絶対に漏らしません……!」
アッシュは炎化した身体をさらに燃え上がらせた。
黒い炎が全身から噴き出し、空気が震える。
「……黒炎の――」
土竜が突進してくる。
アッシュは拳を握り、叫んだ。
「――咆哮ッ!!」
次の瞬間、
アッシュの身体が“爆ぜた”。
黒炎の大爆発が氷の檻の内部を埋め尽くし、
土竜の巨体を飲み込み、焼き尽くし、
跡形もなく消し飛ばした。
外側の氷壁は微動だにしない。
レーネが震える声で呟く。
「……良かった……外に漏れていない……」
氷壁がゆっくりと溶けていく。
爆炎が収まったあと、そこには――
巨大な鉱石がひとつ、静かに転がっていた。
ガンリックが駆け寄る。
「これは……!
ヒートストーンの……純結晶……!?」
ポルがアッシュを支える。
「おい、大丈夫か!」
アッシュは息を荒げながらも、微笑んだ。
「……ああ。
やっと……使えた」
レーネが涙ぐむ。
「アッシュ殿……!」
ガンリックは震える手で鉱石を抱きしめた。
「これがあれば……剣が作れる……!
父が果たせなかった仕事を……!」
アッシュは静かに頷いた。
「……頼む」
灼熱の最深部で、
アッシュの新たな力と、ガンリックの決意が重なった。




