雪に埋もれた二十年
※ポル視点になります。
吹雪は、あの日から止むことを知らなかった。
アッシュが氷に呑まれた瞬間──
ポル=ジーノは、ただその場に立ち尽くしていた。
氷は音もなく広がり、
アッシュの身体を瞬く間に閉じ込めた。
「隊長──!」
叫んだ声は、吹雪に飲まれて消えた。
氷は四天王グラキエスのもの。
叩けば砕けるのは自分の武器のほう。
魔法が使えないポルには、どうすることもできなかった。
それでも、アッシュを見失うことはなかった。
凍らされたその場にいたのだから。
問題は──
溶かせなかったことだ。
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「頼む……もう一度だ……!」
ポルは元同僚の魔法使いを連れてきた。
炎魔法の使い手。
共に戦った仲間だ。
何度も、何度も、何度も炎を浴びせた。
だが──
「……無理だ。これは……俺たちの魔法じゃ溶けない」
魔法使いは肩で息をしながら言った。
「グラキエスの氷は、炎の理すら凍らせる。
アッシュが凍ったのがその証だ……」
ポルは拳を握りしめた。
「……そんなの、わかってる。
でも……隊長を置いて帰れないだろ……!」
魔法使いは何も言えなかった。
ただ、ポルの肩に手を置き、静かに去っていった。
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雪深いこの地では、放っておけば氷塊はすぐに雪に埋もれる。
だからポルは、元々魔王軍の観測村だったフロントレーンに移り住み、近くに小屋を建てた。
毎朝、雪をかき、氷の表面を露わにする。
「……おはよう、隊長」
返事はない。
氷の中のアッシュは、二十年前と同じ姿のまま。
ポルはその前に座り、今日あったことを話す。
村での出来事。
魔物の動き。
季節の変わり目。
時には愚痴もこぼした。
「……お前がいたら、笑ってくれたんだろうな」
誰も聞いていない。
誰も見ていない。
それでも、ポルは話し続けた。
やがて村人たちは言うようになった。
「もう諦めろ」
「死んでるに決まってる」
「狂ったのか」
ポルは笑って返した。
「狂ってるよ。
でも……隊長を置いて帰るほうが、もっと狂ってる」
誰にも理解されなくてよかった。
理解されるほど軽い想いではなかった。
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二十年。
季節が二十回巡り、
仲間の名も、戦場の記憶も、世界の形すら変わっていった。
それでもポルだけは変わらなかった。
雪をかき、氷を露わにし、
アッシュに語りかける日々。
それは墓参りではなかった。
諦めでもなかった。
ただ──
「隊長は、まだここにいる」
その確信だけが、ポルを生かしていた。
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そして、二十年目の朝。
いつもと同じように雪を払い、
いつもと同じように氷の前に立ったその時。
パキ……パキ……ッ。
氷に、細いひびが走った。
ポルは息を呑む。
「……隊長……?」
次の瞬間、氷壁が爆ぜた。
吹雪が巻き上がり、
凍てついた大地に、二十年ぶりの炎の光が差し込む。
ポルは震える声で叫んだ。
「……隊長……!」
その声は、今度こそ吹雪に消えなかった。
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