岩壁の要塞都市ドワルガン
山岳地帯を抜けると、視界が一気に開けた。
その先にそびえ立つのは、巨大な岩壁に囲まれた城塞都市――ドワルガン。
アッシュは思わず息を呑んだ。
「……これは、要塞だな」
ポルが誇らしげに頷く。
「ドワルガンは昔から“岩の国”と呼ばれている。
天然の岩壁を削って作った城壁は、魔王軍でも突破できなかった」
レーネは目を輝かせながら城壁を見上げた。
「すごい……まるで山そのものが国を守っているみたいです」
ガルドが手綱を引き、馬車をゆっくり進める。
「ここからが正門です。
検問は厳しいですが、商人や冒険者の出入りが多いので時間はかかりませんよ」
正門前には長い列ができていた。
列に並ぶ者たちの姿は実に多様だ。
屈強な体格で髭を蓄えたドワル族。
細身で耳の長いエルフ族。
商人や冒険者も多い。
レーネが驚いたように周囲を見回す。
「ドワル族だけじゃないんですね……?」
ガルドが笑う。
「ドワルガンは商人と職人の国ですからね。
人口の半分がドワル族、残り半分は他の人種です。
商売のために世界中から人が集まるんですよ」
ポルが腕を組む。
「昔はもっとドワル族が多かったが……商会が力を持ってから、国の色が変わったのか」
アッシュは静かに城壁を見上げた。
(商会が実権を握る国……
工学が衰え、武具だけが売れる時代。
この国もまた、何かを失っているのかもしれない)
列が進み、三人とガルドの番が来た。
兵士が書類を確認しながら言う。
「行商団と冒険者三名。問題なし。
ドワルガンへようこそ」
重厚な鉄門がゆっくりと開く。
その向こうには、石造りの建物が立ち並び、
商人たちの声が飛び交う活気ある街並みが広がっていた。
レーネが思わず声を上げる。
「すごい……! 本当に商人の国なんですね!」
ガルドが微笑む。
「ええ。ここから先は、皆さんの目で確かめてください。
皆さんとはここでお別れです。
短い間でしたが……本当に楽しい旅でした」
ポルが馬車から降り、ガルドの手をしっかりと握る。
「助かったのは俺たちの方だ。
あんたがいなきゃ、ここまで順調には来られなかった」
アッシュも静かに頭を下げた。
「世話になった。
またどこかで会えるといいな」
ガルドは少し照れたように笑い、三人を見つめた。
「ええ。
皆さんなら、きっとドワルガンでも良い旅ができます。
どうか……お気をつけて」
レーネが名残惜しそうに手を振る。
「ガルド殿も、お元気で!」
ガルドが人混みの中へと消えていく背中を、三人はしばらく見送っていた。
アッシュが小さく息を吐く。
「……行こう。俺たちの目的はここからだ」
三人はドワルガンの喧騒の中へ歩き出した。
岩壁の国で、新たな物語が始まろうとしていた。




