光を探す旅
ポルの言葉が
アッシュの胸の奥で、何かが微かに震えた。
──仲間。
その響きに、
忘れていたはずの“誰か”の気配が、
ほんの一瞬だけ、脳裏をかすめた。
名前は言葉にならない。
姿も浮かばない。
ただ──
一緒に戦っていた温度だけが確かにあった。
「あなたの背中は、私が守る。今までも、これからも」
「痛みは私が受け取る。あなたは前を向いて」
「ねぇアッシュ......そんな顔しないで。私は……あなたの隣にいたいだけ」
「アッシュ。……生きて」
胸の奥で、かすかな声が震えた。
『平和になったら……ずっと一緒にいたい』
その瞬間、
空気が震えた。
アッシュの髪がふっと揺れ、
根元から赤い光が滲み出す。
次の瞬間──
炎が、静かにアッシュの身体を包んだ。
爆ぜる音も、叫びもない。
ただ、
長く眠っていた力が、呼吸を取り戻すように
アッシュの全身を炎が纏った。
ポルが息を呑む。
「おいっ!アッシュ!」
声が震えていた。
心配と驚きが混ざっている。
炎はすぐに消えた。
だが、力の残滓は確かに戻っている。
その証として髪の根元が赤く染まる。
ポルが急いで駆け寄る
「お前......大丈夫か?」
「大丈夫だ……思い出したわけじゃない。
ただ……確かに“いた”気がした」
シグルはゆっくりと近づき、
アッシュの周囲に漂う“魔力の揺らぎ”を確かめるように目を細めた。
「……アッシュ殿。
魔力が……増えています」
アッシュが眉をひそめる。
「増えた?」
シグルは静かに頷いた。
「はい。
先ほどまでとは明らかに違う。
まるで……封じられていた力が、
記憶の断片に呼応して戻ってきたような……」
ポルがアッシュの足を掴む。
「急がなくていい。ゆっくり取り戻そう。
まずは帝国から逃げることが先決だ。
他の国を巡ろう。
そうすれば帝国も迂闊に手が出せないだろう」
シグルはポルの言葉にすぐ反応した。
その瞳には、王族としての計算ではなく──
仲間を失いたくない人間の焦りが宿っていた。
「……確かに、ポル殿の言う通りです」
シグルは深く頷き、アッシュの前に立つ。
「記憶と力を取り戻す旅……それが最も安全で、最も確実な道です」
アッシュは黙って聞いていたが、
その瞳にはまだ炎の残滓が揺れている。
シグルは続けた。
「もちろん、我々も支援いたします。
……護衛をお付けいたします」
ポルが眉を上げる。
「護衛?足手纏いはいらねぇぞ」
シグルは静かに名を告げた。
「聖騎士レーネ=ヴァルト」
「イシュヴァル帝国軍近衛兵。
私の直轄の聖騎士です。
攻撃力は……正直、本来のあなたやポル殿には及びません」
シグルは続けた。
「ですが
彼女には“絶対的な守護能力”があります」
アッシュの瞳がわずかに揺れた。
「……守護特化か」
「はい。
あなたが記憶を取り戻すまでの間、
帝国の刺客や魔族の奇襲から守るには最適の人材です」
アッシュは肩をすくめた。
「……わかった。護衛につけてくれ」
シグルは深く頭を下げる。
「レーネはすでに準備を整えています。
彼女はあなたの盾となるでしょう。
城の外で合流させます」
「……シグル」
アッシュの声は低く、だが確かな温度を帯びていた。
「世話になった。
お前がいなければ帝国に処刑されていただろう」
シグルは驚いたように目を瞬かせ、
すぐに小さく微笑んだ。
「いえ。
あなたは私にとって英雄です」
アッシュは首を振る。
「……感謝している」
その言葉は、アッシュにしては珍しいほど素直だった。
ポルが横でニヤリと笑う。
シグルは姿勢を正し、真剣な眼差しでアッシュを見つめた。
「アッシュ殿。
魔王城に“異変”があれば、必ずお知らせします。
あなたがどこにいようとも、必ず情報を届けます」
アッシュは頷く。
「助かる。
……生きて、また会おう」
その言葉に、シグルの瞳がわずかに揺れた。
王族としてではなく、一人の青年としての表情だった。
「ええ。必ず……また会いましょう」
ポルが足を叩く。
「行くぞ、アッシュ」
二人は城の出口へと歩き出した。
その背中を見送りながら、
シグルは静かに拳を握る。
「……どうか、ご武運を」
炎の残滓を纏ったまま、
アッシュとポルは城を後にした。




