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水面下の盟約

シグルはしばらく沈黙していた。

言うべきか迷うように、

深い青の瞳が揺れている。


やがて――

彼は決意を固めたように、静かに口を開いた。


「……魔王アーク=ノクティスの残滓が、再び動き始めているのです」


アッシュの瞳がわずかに細められた。


シグルは机の上の書類に手を置き、

その一枚をそっと持ち上げる。


「魔王城跡の観測所から……

 《魔力の濃度が上昇している》そして

 《上位の魔族が集結している》という

 報告が届きました」


ポルが息を呑む。


「……まさか……」


シグルは小さく首を振る。


「確証はありません。

 ですが……魔族が不穏な動きをしているのは

 確かです」


アッシュの胸に、

かつての戦場の匂いがよみがえる。


炎。

叫び。

そして――守れなかった背中。



「……アッシュ殿。

 帝国が貴方を捕えると申し上げましたが……」


シグルはそこで言葉を切り、

苦しげに唇を噛んだ。


「正しくは……“処刑”です」


ポルが目を細める。


「……やっぱり、そうか」


シグルは静かに頷いた。


「帝国は、ソウルベアラーという存在を

 歴史から消し去った国です。

 生き残りがいたと知れば……

 必ず“完全に消す”でしょう」


アッシュは表情を変えず、ただ聞いていた。


シグルは続ける。


「そして……もし魔王が復活すれば、

 最も近いイシュヴァルが最初に呑まれます。

 今の我が国には……

 あの脅威に立ち向かう力は、もう残っていません」


その声は震えていたが、

王族としての覚悟が滲んでいた。


「だからこそ……

 あなたを追放するという形を取りますが……

 本心は違います」


シグルは深く頭を下げた。


「アッシュ殿。

 帝国と衝突すれば、あなたを守れません。

 ですが、水面下で……

 我々は“支援”します」


アッシュがわずかに眉を動かす。


シグルは机の引き出しから封筒を取り出し、

両手で差し出した。


「資金、紹介状……

 あなたが動きやすいよう、すべて整えました。

 イシュヴァルは……あなたの後ろ盾になります」


ポルが小さく息を呑む。


シグルは、かつて守られた少年の顔で言った。


「どうか……力を取り戻してください。

 あなたが再び戦場に立つ日が来るなら……

 この国は、あなたに賭けます」


アッシュは封筒を見て、軽く首を振った。


「……これは受け取らない。

 お前たちを巻き込みたくない」


シグルはすぐに返す。


「これは国の判断です。

 あなたを支援する以外に、我々に選択肢はありません」


ポルが肩をすくめた。


「今のお前じゃ、帝国に殺されて終わりだ。

 仲間は必要だろ」


アッシュは短く息を吐き、封筒から視線を外した。


「……形はいらない。

 だが、動きやすくしてくれるなら助かる」


シグルは深く頷く。


「それで十分です」


ポルが笑う。


「よし、決まりだな」


アッシュは何も言わなかったが、

その沈黙は拒絶ではなく、受け入れの合図だった。


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