王城の名が届くとき
夜が更け、
白雪の宿は静寂に包まれていた。
アッシュは窓辺に腰を下ろし、
雪の街を眺めていた。
(……こういう夜を……
俺は……いつか……)
その静けさを破ったのは、
階下から響く重い足音だった。
ドン……ドン……ドン……
ポルが廊下から駆け込んでくる。
「隊長……イシュヴァル王国軍だ。
通報が原因らしい」
アッシュは眉をひそめた。
「……通報?」
ポルは息を整えながら言う。
「お前が古い軍装を着てただろ。
あれを見た誰かが、
“戦争時代の兵士がいる”って王城に知らせたらしい」
アッシュは胸の奥が冷たくなるのを感じた。
(……あの時か)
カン……カン……カン……
兵士たちの鎧が階段を打つ音が近づく。
老人の宿主が震える声で言う。
「な、なんだね……こんな夜更けに……」
兵士の声は冷たくも、
どこか事務的だった。
「王城の命により、
通報を受けた男の身元を確認する。
同行者も含め、全員の名前を伺いたい」
ポルが小さく舌打ちした。
「……隊長、俺もか」
アッシュは静かに頷いた。
兵士たちの影が扉を覆う。
「失礼する。
この部屋に泊まっている二名の名前を確認したい」
アッシュは静かに答えた。
「……アッシュだ」
ポルも続く。
「ポルだ」
兵士は二人の名を聞いた瞬間、
わずかに表情を変えた。
「……確認した。
お二人を拘束するよう、王城より正式な命令が出ている」
アッシュは眉をひそめる。
「理由は?」
兵士は首を振った。
「我々は知らされていない。
ただ、“名前を確認し次第、拘束せよ”とだけ」
その声には、
恐怖も敵意もなかった。
ただ、
“命令に従う兵士”の声だった。
兵士が手を伸ばす。
「抵抗しないでいただきたい。
同行者も含め、王城へ連行する」
ポルがアッシュの前に一歩出る。
「隊長に手ぇ出すなよ……!」
アッシュは静かに首を振った。
「……やめろ、ポル。
彼らは……ただ命令に従っているだけだ」
ポルは悔しそうに歯を食いしばり、
両手を差し出した。
「……ちくしょう。
わかったよ」
アッシュも同じように手を差し出す。
兵士たちは二人を囲み、
静かに階段を降りていく。
白雪の宿の灯りが、
二人の背中を照らしていた。




