プロローグ
世界は、ひとつの嘘で守られていた。
二十年前──
“勇者パーティ〈五光の勇団〉が魔王を討ち倒した”と、
サン=レガリア王国は高らかに宣言した。
だが真実は違う。
魔王アーク=ノクティスは死んでいない。
復活するためにより深い闇へと沈んでいた。
そしてその闇の底で、ひとりの男が眠っている。
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氷壁の大地イシュヴァル。
吹雪すら凍りつく最果ての地に、
巨大な氷塊が静かに横たわっていた。
その中心で──
アッシュ=ヴァーンは、まだ生きていた。
炎のソウルベアラー。
本来なら二十年前に死んでいたはずの男。
彼の胸の奥で、かすかな“温もり”が揺れている。
──アッシュ。
……聞こえるか、我が主よ。
それは、炎の召喚獣〈イグナ=レクス〉の声だった。
二十年もの間、
イグナは自らの命を燃やし続けていた。
アッシュの心が凍りつかぬように。
魂が砕けぬように。
ただ、生かすためだけに。
その代償は、あまりにも大きい。
──これが……最後だ。
お前の命は……もう、お前自身のものだ。
炎の王の声は、もうほとんど聞こえない。
アッシュの意識に、
ひとりの少女の笑顔が浮かぶ。
光のソウルベアラー、エリシア。
自分を守るために、寿命を使い切った少女。
彼女の光は、もう届かない。
──行け。
お前が……守りたかったもののために。
我が友よ……燃え続けろ。
最後の言葉とともに、
アッシュの胸の奥で“火種”が弾けた。
氷塊に、ひびが走る。
パキ……パキ……ッ。
二十年の沈黙が破られ、
氷壁が砕け散る。
吹雪が巻き上がり、
凍てついた大地に、ひとりの男が膝をついた。
アッシュ=ヴァーン。
炎のソウルベアラー。
二十年の氷獄から蘇った、影の英雄。
その姿を、遠くから見つめる影がひとつ。
小柄な体に、両刃剣を背負った男──
ポル=ジーノ。
かつての副隊長。
魔法が使えない落ちこぼれのポポル族。
彼は震える声で呟いた。
「……隊長。
よく……生きていてくれた......」
アッシュはゆっくりと顔を上げる。
その瞳には、炎ではなく──
二十年分の痛みと、わずかな希望の光が宿っていた。
世界はまだ、嘘の中にある。
だが、真実の炎が再び灯った。
ここから物語が始まる。




