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図書室の守護精霊(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編2)  作者: 月森琴美


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 雨のために、図書室は少々暗かった。

「ここだよ」

 正一は一番奥の棚に向かう。

 茉理は首をかしげながらついていった。

 放課後のこととて、あちこちにぱらぱらと生徒がいる。

「ねえ、小坂君」

 茉理は彼の背中に向かって言った。

「人がいたら、幽霊なんて出てこないんじゃないの?」

「でも、そんなことは関係なく聞こえるんだよ」

 彼は叫び、茉理に棚と棚の間を指した。

「この辺から声がさ、グスグスって聞こえてくるんだ」

「……」

 茉理は必死に耳を澄ましたが、何も聞こえない。

「聞こえる?」

「いや、今はまだ……」

 正一にも聞こえないのか、困った顔でつぶやいた。

「でもこないだはちゃんと聞こえたんだ。本当だよ」

「はいはい」

 茉理は踵を返した。

「ね、もう少し待ってみよう。時間はあるしさ」

「そ、そうだね」

 彼女は、じゃ、本でも読んでいようか、と棚に行き、本を物色した。

(どれにしようかな)

 軽く読めそうな物語の本に手をのばしたとき、体制をくずして隣に立つ生徒とぶつかる。

「あ、ごめんなさい」

 茉理はあわててあやまって、顔を上げた。

(うそっ、なんでここに)

「こんなところで何をしている」

 帝が仏頂面で彼女を睨んだ。

(あっちゃーっ、見つかった)

 茉理は心の中で悲鳴をあげる。

「あ、あの、たまには読書でも、と思って……」

「そうか」

 彼はふっと笑むと、茉理を引き寄せた。

「手紙を読んだぞ。まったくお前って奴は」

「……」

「それならそうと早く言え。余計な心配させやがって」

 茉理は顔が真っ赤になるのを止められなかった。

 顔から火が出る、とはまさにこのことだ。

(うーっ、今すぐ、ここから消えちゃいたい)

 彼女は何気に帝の回してきた腕の中で、はあっと大きなため息をつく。

「会長こそ、ここで何してるんですか」

「調べ物だ」

(う……嘘だ。絶対、後つけてきたに決まってる。うーっ)

 優しく髪を指で梳かれたが、彼女は完全に疑っていた。

「あの、その、ここは他の人がいるし」

 さりげなく身を引くと、帝は目を細め、彼女を放してくれる。

(あ、意外だなあ、やっぱり手紙の効果があったってことね)

 茉理は奈々に感謝した。

「お前に無理強いはしたくないからな。でも学校が終わったら」

「あ、あの、その、今日は、生徒会業務は」

「たいした用事はない」

「あ、でも、その、他の生徒会の皆さんはお仕事してるんじゃあ」

 茉理はあわてて言った。

「そんなに気を使うな」

 またずいっと寄られて、茉理はあせった。

(そんなあ、どうやって断ったらいいの?)

 なまじあんな内容の手紙を送ってしまったがゆえに、今更いつのもように『あなたとはお付き合い出来ません、さようならっ』とは叫べず、どうしようかと悩んでいると――。

『グスン……グスン……』

(あ!)

 茉理ははっとした。

 何かが聞こえたのだ。

『グスン……グスッグスッ……グスッ』

「どうした?」

 顔色を変えた彼女に、帝は怪訝そうな顔をする。

「今、何か聞こえませんでした? 会長」

「何?」

「女の子の泣き声みたいな……ほら」

 茉理は耳をすました。

 彼女の頭に直接響いているかのような物悲しい声。

「うっ……で、出たっ、出たーっ」

「あ、ちょっとっ、小坂君?」

 茉理の静止の声も届かず、正一は一目散に耳を押さえ、図書室からすっ飛んでいってしまった。

(もう、怖がりなんだから)

 茉理はあきれて彼を見送る。

「なんなんだ、あいつ」

 帝も首をかしげた。

「それよりどうかしたのか」

「ほら、聞こえるでしょ、あの声」

「……」

 帝はすっと目を細め、棚の方を見た。

 静かに片手を突き出し、棚の方に向ける。

 彼が口の中で何事か唱えると、手のひらがすっと光ってライトのように棚を照らした。

 神妙な顔で、彼は懐中電灯のように何度も光を棚に往復させる。

 その顔が少しずつ険しくなった。

 やがて彼は手のひらを引っ込めると、図書室の中にいる生徒に叫ぶ。

「おいっ、すぐにここから出ろ。何かの気配がする」

 彼の一声で、図書室にいた生徒達は全員立ち去る。

 二人きりになって、茉理は緊張した。

(やっぱり何かいるの?)

 帝の顔は尋常ではなさそうだ。

 彼は全員いなくなったのを確認すると、すっと茉理を背後にかばい、両手を組み合わせて呪を唱えた。

 鋭い閃光が、彼の指先から棚へと放たれる。

「うわっ」

 棚に激突した閃光によって書物はすべて吹き飛び、棚も粉々になった。

(あ、あのねえ、そこまでする?)

 茉理は彼の背後で口をあんぐりと開けてしまう。

「くそっ、姿をみせんか」

 帝は舌打ちし、また呪を唱えようとした。

「ちょっと待ってよ」

 茉理はあわてて彼の腕を摑む。

「そんなことしたら、この図書室全部、破壊しちゃうじゃない」

「また建てればいいことだ」

「そんな」

 茉理は、まったく金持ちは――とぶつぶつ言うと、彼を睨んだ。

「とにかく駄目。他の方法を考えましょ」

 おびえて声も聞こえなくなったじゃない、とつぶやきながら、彼女は壊れた棚に歩み寄った。

「おい、うかつに近寄るな」

 帝の制止も無視して、彼女は棚にそっと触れる。

(あ……)

 何かが、また聞こえた。

 悲しい、苦しい叫び。

『グスッ……グスッ……』

 茉理は棚と棚の間を見た。

 そこは白い壁になっていたが、声はそこから聞こえてくるようだ。

 そっと壁に手を当てようとして、彼女は驚いた。

(何かあるよ、ここに)

 壁に触れようと手を伸ばしたが、何か――見えない柵のような物にさえぎられ、壁に触れることが出来ない。

(何? これは)

 茉理はそっと手を伸ばし、見えない柵のような物に触れてみた。

 じゃらじゃらと音がし、冷たい金属のような物が手のひらに当たる。

 彼女はすっと手のひらで、そこを撫でてみた。

 すると――。

「え……」

「な、何だ」

 突然、茉理の胸にかけた白いペンダントが光を発したのだ。

 あまりのまぶしさに、茉理も帝も目を覆う。

 光は図書室全体に満ち溢れ、そして消えた。

(なんだったの)

 茉理は、呆然としながら棚の間を見る。

「なっ」

「これは……」

 帝も驚いて声を漏らした。

 ――今まで何も見えなかった棚の間に、鉄格子の檻が出現していた。

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