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図書室の守護精霊(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編2)  作者: 月森琴美


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過去の回想3

 ついに夢が破れるときがやってきた。

 少女はいつものように図書室で彼らを待ち続けた。

 いや、本当は待っているのは、たった一人。

(トオル……)

 何度もその名を胸の奥で繰り返す。

 大事に大事に、何度も何度も。

 一度口にするたびに、その名は言霊のように彼女の心すべてにいきわたり、温かい安らぎが満ち溢れる。

(早く会いたい)

 少女は、ひたすら放課後を待ち焦がれた。

 やっと待ちに待った時間が来て、図書室に生徒達がばらばらと入ってくる。

 彼らはめいめい本を選び、椅子に座って読み始めた。

 ひそひそと楽しそうな声もして、図書室は活気に満ちる。

 やっと足音がした。

(トオル?)

 精霊の少女の顔が曇る。

 足音は一つだけ、でもそれは――。

「やあ、ティア」

 棚の隙間を覗いてきたのは、徹ではなく智之だった。

 少女は弱弱しく笑むと、すっと棚の隙間から出る。

「今日は徹は日直で、少し遅くなるようだよ。先に行っててって言われてね」

「そう、ですか」

 少女の顔が曇ったのに気付き、智之は目を細める。

「僕じゃ不満って顔だね。そんなに君はあいつがいいのかい?」

「そういう、わけ、では」

 彼の口調が怖くて、少女はおびえた声を出した。

 なんだろう、いつもの智之とは違う。

 怖い――何故か怖い!

「精霊のくせになまいきだね。君は彼を好きなのかい? あきれてものが言えないよ」

「……」

 智之の目つきが、どんどん怪しくなってきた。

 少女は思わずあとずさる。

 せまる彼の魔力に満ちた姿に恐怖の思いが沸き、少女はすばやく棚の隙間に逃げ込んだ。

「お馬鹿な精霊だ。きっとろくに力もない役立たずなんだろうさ」

 吐き捨てるような声がした。

「そんなんだから、この本を奪い取られるのさ」

(え?)

 少女は懐かしい波動を感じ、引き寄せられるように棚の隙間から顔を出す。

「!」

 智之の手には、あの魔術書があった。

 彼女は驚き、また出てきた。

「その、本、は……」

 本と、それから威勢良く立つ智之を見比べ、はっと少女の顔に恐怖の色が走った。

(そうだわ! この魔力の感じは)

「ふふっ、今まで気付かなかったんだね。そうさ、この本を君から奪い取ったのは、この僕さ。半年前にね」

 少女は目を大きく見開き、身を震わせた。

 黒いマントに身を包み、容姿はまったくわからない相手だったが、この魔力の感じはよく覚えている。

 自分と愛しい本とを引き離した、悪夢のような力――。

「やっかいな守護魔法だったけど、なんとかはずせたよ。君をこの本から引き離し、隠されたページを読むことが出来た。まったく素晴らしい内容だった。君の主人がどうしてこんな偉大な内容を隠したのか僕には理解に苦しむが、まあ、いい」

 彼は不適な笑みを見せて、本を少女の前にちらつかせた。

「さあ、本の守護精霊よ。お前に身の程をわからせてやる。この本が欲しいだろう。この本とお前は切っても切れない契約の仲なんだからな」

「……」

 少女はそっと本に触れた。

 見ただけで、触れただけで、以前の感覚がよみがえってくる。

 契約した大切な主人、大切な思い、大切な約束。

 本を守ると約束した。本の中のあるページを。

 そこだけはどうしても誰の目にも触れてはならなかった。主人の悲しい思いと犯した罪が記された悲劇の内容。たどった末路が克明に記された部分。

(守らなければ……これを)

 少女は本にそっと手を伸ばす。

 瞬間。

 智之は本を引っ込め、彼女の前から見えなくした。

「返して!」

 今までのか細い声ではない、もっと必死で力のこもった声を上げ、彼女は智之に飛びかかる。

「悪いがただというわけにはいかない。お前に僕の契約精霊になってもらう」

 あまりな申し出に、精霊の少女は身を硬直させた。

「僕になると誓うなら、この本を返してやろう。いいや、力ずくでもそうしてやる」

「どうして、どうしてそんなことを……」

 少女は泣きながら叫んだ。

「お願いです、本を返してください」

「じゃ、僕と契約しろ」

「……それは……」

 少女は床に膝をついた。

 智之の契約精霊になるということは、徹とはもう二度と会うことは出来ないということ。

 それは消滅してしまいたいくらい、辛いことだった。

 身を震わせ、迷って返事のない少女の前に、智之はまた本をちらつかせた。

「お前は精霊だ。一度かわした契約からは逃れることの出来ない身。お前はこの本なしでは生きられない、そうだろう」

「……」

「欲しいだろう、この本が。さあ、迷わず自分が精霊だと認めて、本を手にするがいい。あいつを捨てるんだ。所詮かなわぬ想い――お前に契約を破って、あいつへの想いを貫くことなど出来やしない、そうだろ」

「うっ……」

 少女はその場に泣き崩れた。

 いつもの輝かしい光は薄れ、紫の瞳は涙で揺れる。

(トオル)

 少女は胸の中で、何度も何度も大切な名前を呼んだ。

 もう二度と呼べないかもしれない大切な名前。

 智之は薄ら笑いを浮かべて、自分の前に膝を折った精霊を見下ろした。

「いい子だ。どうせお前ら精霊は主に値するぐらいの魔力の持ち主がいたら、嫌でも縛られて使役される存在――道具の一つに過ぎないんだ。さあ、今、お前を僕の物にしてやる」

 彼は両手を組み合わせ、呪を唱えた。

 魔方陣が彼の胸の前に現れる。

 智之は両手を突き出し、魔方陣を少女の方に向けた。

「あああああっ」

 彼女の体が魔方陣に取り込まれ、貼り付けられる。

「ふふっ、そうだ、抵抗しても無駄だよ。僕の魔術をお前などが破れるはずがないだろう? さあ、おとなしく僕の魔力を受け入れるがいい」

 少女の細い体が、痛みと苦痛でしなる。

 体中に魔方陣から発した光の糸がからみつき、少女を縛って動きを封じた。

「いやあああーっ」

 身をよじるが、糸を通して注ぎ込まれた魔力は強力で、徐々に少女のすべてを侵食していく。

 ついに彼女の瞳から輝きが消えた。

 うつろに何の色も無く、意志を失って瞼が落ちる。

「やっと取り込んだか。まったく世話のやける精霊だ」

 舌打ちすると、智之は気を失った精霊の少女を床に転がした。

「おいっ、起きろ!」

 足で蹴飛ばすと、少女はうっとうめいて起き上がる。

 自分の体を見下ろし、それから目の前に立つ魔術師の少年を見て、彼女は絶望にかられた。

 儀式は終了し、彼女は契約精霊として縛られてしまったのだ。

(もう、わたしは、この人のもの……)

 少女は震えた。

 今、前にいる彼の声が、自分をいくらでも思うように出来る力に満ちていることをひしひしと感じ、胸が裂けそうなほど痛む。

 そんな少女の前に膝をつき、智之はいつもの優しげに見える瞳に戻ってささやいた。

「安心しろ。僕は、自分の物は大切にする主義だ」

「……」

「お前のような何の力もない精霊に仕事は頼まないよ。これまでどおりこの図書室で暮らすといい。さ、約束の本だ」

 僕はもう、いらないしね、と彼女に本を持たせると、彼はふっと笑って図書室から姿を消した。

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