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図書室の守護精霊(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編2)  作者: 月森琴美


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『ここは……』

 目を開けた茉理は驚く。

 辺りはセピア色。

 そしてここは、どこかの病院の一室のようだ。

 白い寝台に寝かされ、ぴくりとも動かない青年の顔を見て、ティアは声をあげる。

「トオル」

『え、あの人が徹なの? って、ここって一体……』

「トオルッ」

 精霊の少女は羽を広げて飛翔し、ベッドの上に留まった。

『しーっ、後野さん』

 後に続こうとした茉理の肩を、英司がぐいっと摑んで引き止める。

『山下先輩、ここって』

『ここは過去なんだ。徹が臨終を迎える日でね』

『ええっ』

『俺の魔力で過去をさかのぼったんだ。まだ徹には息がある。最後の数分だけどね。ティアも同じぐらいだし――最後は二人っきりにしてあげようよ』

(あと数分)

 茉理は英司と病室のドアに隠れ、二人の様子を見守った。

 換気のためか少しだけ窓の開いた静かな個室に、徹は一人で寝かされている。

「トオル……トオル……」

 ティアはか細い声で名を呼びながら、涙の雫を徹の頬にこぼした。

 自らに残された光をせいいっぱい輝かせ、彼女は徹の上に覆いかぶさり、彼を抱きしめる。

「ティ、ア……?」

(嘘だろ。もう呪いが全身にまわっている奴が)

 英司は思わず息を飲んだ。

 まさかこんな最後の時に、徹の意識が戻るなんて。

「ティア……これは夢なのか。それとも俺はもう死んでしまったのか」

 徹は指を伸ばし、ティアの頬に触れた。

「君にまた会えるなんて……」

「トオル! 会いたかったわ」

「会いたかった……そんな嬉しいことを言ってくれるのかい。君は僕を恨んでいるはずなのに」

「うらむ? いいえ、貴方を恨んだことはありません。初めて会ったあの時から、わたしはずっと貴方を思ってきました。貴方だけを」

 ティアは、まぶしいくらいの笑みを浮かべて徹に告げた。

「貴方が好きです」

 徹の瞳が、衝撃に揺れる。

 ティアは必死に彼にしがみつき、こぼれる光の涙で彼を濡らした。

「わたしのすべては最初から貴方だけのものだった。智之じゃない、他の誰でもない。精霊というこの身にはあるまじき想いではあったけど、わたしは止められなかった。あなたを愛することを」

「ティア」

「最後に貴方に伝えたかった。わたしは今、最高に幸せです。貴方と出会えて」

 声が、光が急激に弱まる。

「ティア?」

「もう限界みたいだ」

 瞼を熱く濡らす茉理を、優しい瞳で英司は見た。

 二人は、そっと見守り続ける。

 ティアはこれ以上ないほど美しい笑みを浮かべながら、徹に寄り添うように抱きつき、少しずつ消滅していった。

「ティア……」

 彼女の残像がすべて消え、徹は一筋涙をこぼす。

「僕も嬉しいよ。あのときから永遠に君に嫌われてしまったと思っていた。君と智之との仲を裂いてしまった僕自身の醜さに耐えられなくて。でも違ったんだね」

 満足そうに微笑みながら、徹は静かに目を閉じた。

 穏やかで安らかな笑みを浮かべた唇が最後にかすかに動き、愛する少女の名をつぶやく。

 そして――。

『逝ったみたいだね』

『……』

 茉理は何も言えず、俯いて溢れる涙を袖でぬぐった。

 そんな彼女の肩に手をかけ、英司は、戻るよ、と温かな声でささやく。

 病室の窓に下がった白いカーテンが緩やかに動く中で、一人の青年が満足そうに微笑んで永遠の世界に旅立っていった。

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