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図書室の守護精霊(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編2)  作者: 月森琴美


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15

 温室での取り決めを、帝はきちんと実行してくれた。

 朝の送り迎えも、休み時間のクラス訪問もない。

 廊下ですれ違うときは茉理の挨拶に一言で答えるし、まったく普通の『顔見知りの後輩』程度に態度を変えた。

 茉理はこんなにあっさり受け入れてくれた彼に、逆に拍子抜けしつつもほっとしていた。

(これで少しは、落ち着いた学校生活が送れるわ)

 まわりのクラスメイト――特に奈々などは二人の変化に驚いたが、しばらくすると慣れてしまった。

 結局今までが異常だったのだ。

 二人が普通の『知り合い』になったことで、去年の彼女である円城寺美奈子がかなり激しく帝に再縁をせまっているみたいだが、そっちは帝が毎回かわしてるようだ。

(そんなことより……)

 茉理はクラス委員の小坂正一を捕まえると、直談判して協力を要請する。

「元はといえばあの幽霊――じゃなくて精霊をなんとかして欲しいって言ってきたのは、小坂君でしょ」

 自分達でもなんとかしてみようと、茉理は正一にそう言って、いろいろ二人で調べることにした。

「あの精霊の呪いって、かけた本人にしか解けないんでしょ?」

「どうだろう。かけた本人はもちろん解けるだろうけど、高位の魔法使いだったら呪いを返したり払ったりする事は出来るはずだよ。呪いはかけた人の負の感情をエネルギーにして発生することが多いから、その呪いを送った相手に対する悲しい感情を解くことで消えるケースが多い」

「じゃあまず15年前に彼女に呪いをかけた本人、徹って人を見つけようよ」

 勢いよく茉理は言った。

「15年も経ってるんだもん。もうあの精霊に対する恨みとかは消えてるかもしれないし、忘れちゃってるだけかもしれないから、その人に会って、きちんと話して呪いを解いてもらうの。どう?」

「うーん」

 正一は腕組みをして考え込んだ。

「どうやって探すかが問題だね」

「え?」

「だって今、現在在学中の生徒の住所とか電話番号だって、知り合いでもなきゃわからないんだよ。過去在籍していた生徒の資料なんて、きっと見せてもらえないよ」

「あ、そうか。でも理由を説明したら、先生とかわかってくれないかな」

 茉理の言葉に、正一は首をひねる。

「僕もやってみたことないからわからないけど。なんなら後野さんがやってみたら?」

「わたし?」

「後野さん、生徒会長の彼女じゃないか。先生だってクリスティ家ゆかりの人の言葉は、一般生徒なんかと違って無視出来ないしね。僕が言うより教えてくれる確立は高い」

(クリスティ家ゆかりって……)

 茉理は憮然とした。

 自分はそんな大層なポジションにいるわけじゃないのに。

(一般生徒だよ、わたしも)

 そんな叫びをかろうじて飲み込み、茉理は言った。

「わかった、聞いてみる」




 放課後。

「失礼します」

 茉理は職員室に入り、担任の町田先生を探した。

 デスクで資料を作成していた先生を見つけると、側に行く。

「すみません、町田先生」

「なんだ?」

 まだ30歳前の町田先生は爽やかな外見と若々しい笑顔で、女生徒たちにけっこう人気の男性教師だ。

 聞けば彼もここの卒業生で、魔力も高く優秀で名門魔族の家の出だとか。

「あの、ちょっとご相談したいことがあるんですが」

 言葉を濁した茉理を見て、町田先生はふっと笑った。

「じゃ、あっちの応接室に行こうか」

 言いよどむ茉理の態度に、あまり人前では言いにくい内容だと読んだらしい。

 そういう気配りがあるのも、女子に人気を誇る一つのポイントだろう。

 町田先生は手早く資料を片付けると、茉理を応接室に連れていってくれた。




「お茶でも飲むかい?」

 微笑んで日本茶を出してくれた先生に、茉理は少々恐縮した。

 駆け心地の良いソファに座り、向かい合って改めて先生は茉理を見る。

「で、話ってなんだい?」

「あの、実はお願いがあるんですけど」

 茉理は勇気を出して頼み込んだ。

「過去、この学校に在籍していた生徒のことが知りたいんです。なんとか調べる方法はないでしょうか」

「過去の卒業生のことか。理由によっては可能だと思うけど、理事の許可が必要だな」

 町田先生はむずかしい顔をした。

「知っての通り、この学園は魔族の子どもたちが在籍している。日本に在籍する魔族の家は、本当にたくさんあるんだ。そして中には当然、反目しあっている家同士もあるし、様々な明かせぬ秘密を持つ家も多い。だから学校に在籍している生徒たちの魔族名や家の名は、公式には明かせないことになっているんだ」

(それで名簿がみんなに配られないのね)

 茉理は納得した。

「学生同士のトラブルが学校内であっては学業に差し支えるからね。校内は一応、魔術の使用は禁止だが、人間感情に走ると何をするかわからない。極力揉め事の種は増やさないようにしないと」

「そうですよね」

「生徒会メンバーと教師のみが魔術を使用出来ることになっているけど、これはあくまで他の生徒の暴走を止めたり、危険を回避するためのものだ。教師たる僕達でも、他の目的で故意に魔術を使ったら免職ものだよ」

 ふう、とため息をつきながら町田先生は笑った。

「で、後野はどうして過去の生徒のことを知りたいんだい?」

「実は――」

 茉理は図書室でのことを説明した。

 町田先生は黙って聞いていたが、説明が終わると立ち上がり、窓から外を眺めた。

(先生、どうしたのかな)

 突然背を向けた町田先生に、茉理は戸惑う。

 しばらく町田先生は外を見ていたが、やがて振り向いてにっこりした。

「わかった。理事会に申し入れしてみるよ」

「ありがとうございます」

 茉理はあわてて立ち上がり、礼をした。

「そんなに喜ばないで。まだO.Kが出たわけじゃなんだから。でもそうだね、そういう場合、君に直接名簿を見せることは出来ないけど、僕が調べることは許可されるかもしれない。それでいいかな」

「はい」

 茉理は嬉しくて笑顔になる。

「よろしくお願いします」

 上機嫌で応接室を出て行く少女を、何故か悲しそうな目で町田先生は見つめていた。



 放課後。

「今日は投書が少ないですね」

 生徒会室で、ご意見箱を覗きながら英司はつぶやいた。

「それだけみんな現状に満足していて暇だということだ。いいじゃないか」

 黒眼鏡を光らせながら、直樹は微笑む。

「はい、お茶。今日のは極上のローズティーだよ。昨日出来上がったばかりの新しい薔薇の茶葉を使っているからね。さあ、とくと味わってくれたまえ」

 雅人が機嫌よく全員にカップを配った。

「いただきます。あー、ほんとだ、美味しい」

 英司が一番にカップに口をつける。

[本当に美味しいです。これ、僕、少しもらってもいいですか]

 斎もその深い味と香りに気に入って、雅人にささっとメモを寄越した。

「もちろんだよ、君のお母様にぜひ入れてあげてくれたまえ」

 そう言って、雅人はさりげなくウインクする。

 彼も自分のカップに口をつけると、ちらりと中央に座る帝に目を向けた。

 帝は黙々と、何かの魔道書を読んでいる。

(ふふっ、なんだかんだ言っても、君も気にしてるんだよね)

 彼の手にしている魔道書の中身を推理し、雅人は微笑んだ。

「そうそう、帝。どう? その後、茉理姫とは」

 帝は本から顔をあげ、ちらりと雅人を見たが、無視してまた本にかがみこんだ。

「『顔見知りの後輩』関係はどうだい? 少しは慣れたかな」

 茶化すように言う雅人に、生徒会の他のメンバーは、いつ帝から不機嫌なコメントが来るのかと少々ひやひやしながら成り行きを見守る。

 でも予想に反し、帝はぼそっとつぶやいた。

「前より気を使わなくていいから、余裕だ」

「あ……そう」

 一瞬拍子抜けしながら、雅人は次にかける言葉を見失う。

 そんな雅人を見て直樹はちらりと笑みを漏らし、英司と斎は意外な展開に一瞬目を見合わせた。

「ところで帝、あとで会議をしたいんだが」

 直樹の申し出に、その場にいた全員が彼の方を向く。

「緊急の議題でもあるのか」

 帝の問いに、直樹はうなずく。

「わかった。各自、さっさと仕事を片付けろ。30分後に会議だ」

 帝の言葉に、全員、あわてて今している作業に取り組んだ。


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