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図書室の守護精霊(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編2)  作者: 月森琴美


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「では、昨日の件ですけど」

 コホンとせきばらいして、英司は報告を始めた。

 放課後のこととて校庭から生徒達のクラブ活動の声が、特館にまで響いてくる。

 一見のどかでおだやかな日常風景だが、生徒会室では全員が緊迫した面持ちで座っていた。

「まずあの精霊の少女の名はティア。属性は光。専門は封印魔術で、マスターはちょうど百二十七年前に他界した超天才魔術師と名高い老師でした」

「ほお、けっこう前の人なんだね」

 雅人がカップを手につぶやく。

「なんでも当時はかなりあやしい高等魔術を研究していたそうです。そう、最後の研究は『不老不死』の魔術とか」

「何だと」

 帝が叫ぶ。

「不老不死? そいつはその魔術を完成させたのか」

「いえ、そこまでは。でもどうもそれに関する内容を、あの研究記録日記に記しておいたようなのです。精霊が封じて守っているのは正にそのページです」

「やっかいだな」

 直樹が黒眼鏡の奥で瞳を伏せた。

「まったくだねえ。人類究極の理想魔術だと言っても、手を出すなんて危険すぎる」

 雅人も、いつになくため息を落とす。

 英司と斎は、3人のいつもと違う表情に少し戸惑った。

(不老不死ってまさか……)

 茉理も胸のペンダントを握り締め、顔色を変える。

 かつて茉理と帝は、二人で『不老不死』の魔術を完成させた忌まわしき存在と対峙したことがあった。

 そのときのことを思い出し、彼女は身震いする。

「話を続けますけど、その後、彼の研究記録は子孫に延々と受け継がれ、学園創設の際には子孫の一人によって寄贈されました。特に封印魔法がかかっている部分以外は問題なしということで、過去の魔術師の研究記録として一般図書室に置かれていたんです」

「ま、普通、高位の魔術師じゃないと、本に封印がほどこされてるなんて気付かないからね。ただの研究記録としか見えないだろうし」

「で、そのあと契約解除した馬鹿な奴は誰なんだ」

 帝の鋭い声に、茉理は昨夜のことを思い出した。

(なんだろう、夢のはずなのに、こんなにも鮮明に覚えてる)

 自分の守り鏡に、精霊の少女が見たいと願う面影が映っていた。

 この学園の制服を着た少年が――。

「……とおる」

 何気につぶやいた茉理の声に、斎はびくっと肩をすくめる。

(まさか後野さん、覚えてるの?)

 昨夜の件は夢落ちということにしておこうと雅人と打ち合わせしておいたが、彼女の記憶を消したわけではない。

 いつ本当にあったことだとばれやしないか、斎はひやひやしながら茉理を見守っていた。

「契約解除が行われたのは15年前でした。当時この学校の中等部に所属していた生徒で、名前は智之。二年生の記章をつけてました」

 英司の言葉に、茉理は首をかしげる。

(とおるじゃないんだ。やっぱりあれは、わたしの空想だったのかなあ)

 そう思い始めた彼女は、次の英司の言葉で驚愕した。

「最初に精霊を図書室で発見した生徒は、やはり二年の徹という生徒です。彼が精霊を見つけ、契約解除されて持ち去られた本を探している精霊の少女に同情し、一緒に本を探そうとしました。それが彼の友達であった智之の知るところとなり、智之は自分が契約解除したことを隠して彼らの協力者になろうと申し出たのです。そして」

「どうせその先はこうだろう、英司君。自分が見つけた振りをして、書物を得意そうに精霊に渡した。自分はもう中身を読んでしまっていて、本は用済み。余程高度な呪文や魔方陣が記された本でもない限り、一回目を通せば十分だからね」

「ひどい……自分が犯人なのに?」

 呻く茉理に、雅人は薔薇の花を優雅に差し出す。

「姫、こういうことは青少年の間ではよくあるいたずらの類です。彼はきっと親友よりも自分がすぐれていると――彼より先に本を見つけ出すという行為によって、見せ付けようとしたのかもしれない」

「それでもひどいよ」

 俯き、茉理は黙ってしまった。

(徹ってやっぱり出てきた。ただの夢じゃないわ、あれは)

 茉理は静かに考え込む。

「で、本は精霊の元に戻ったのだろう。なのに何故、あの精霊はあんな呪いをかけられてしまったんだ」

 帝の質問に、英司はうーんとうなった。

「結論を言うと、呪いをかけたのは、その徹っていう生徒なんです」

 生徒会室は一瞬全員が首をひねる。

「なんでそんなことになったんだ。その徹という生徒は精霊の少女と仲が良かったわけだろう? 本を探してやろうとするぐらい」

 直樹がつぶやくと、英司はえーと、その……と、説明しにくそうに口ごもる。

「俺も見たことは見たけど、どう言っていいかわからないですよ。見た事実を伝えることは出来るけど、本人たちの心までは見えないし」

「その見た事実を正確に言ってみろ」

 帝の苛立った口調に、英司は肩をすくめた。

「まず智之は本を精霊の少女に返しました。そのとき敏感な彼女の神経は、智之こそが自分と本の契約を解除した超本人だとわかったんです。おびえる彼女を、智之は今度は自分の契約精霊にしようと魔術をほどこし、彼女に服従と契約をさせたんです」

「それで」

「そしてそのあと徹がやってきて、彼女が智之と契約を交わしたことに怒りを燃やし、彼女を束縛する呪いを送って、あそこに永久に封じてしまったんです。俺が見た事実は以上です」

「わけがわからん」

 帝は鼻を鳴らして、馬鹿馬鹿しい、と吐き捨てるように言った。

「徹と智之は親友だった。しかし互いにライバル意識は持っていた。精霊の少女がからんだことで抑えていた感情が噴出して、それに少女は巻き込まれた。ま、そんなところかな」

 一応まとめた直樹に、英司はそうかもしれませんとうなずいた。

「経緯はわかった。どうでもいいほど馬鹿馬鹿しい内容だったな。さっさとあの精霊の処分を決めるぞ」

 帝が言い出すと、突然横の卓がばんっと叩かれる。

「ちょっと待ってよ。処分ってこないだ言ってた三択ってこと?」

「そうだが」

「そんなに簡単に言わないでよ。どうしても消さないといけないのなら、あの子の苦しみを少しでも和らげてからにして」

「安心しろ。三択の処分方法はどれも苦痛の痛みを味わうことなく、すみやかに行われる。あの精霊が痛みを感じたり苦しんだりすることはないはずだ」

 帝があきれたように言うと、茉理はぷいっと横を向いた。

「おい」

「わかりましたっ。もういいです」

 茉理は、かたんと椅子から立ち上がり、ドアの方に向かう。

「何がいいんだ。おい、待てって」

「いいの。貴方には言っても無駄よ。わたしは自分で方法を見つけ出す。会長は勝手に処分でもなんでもすれば? 失礼しました」

 バタンと勢いよく、みんなの目の前でドアが閉まった。

 帝は苦味虫を噛み潰したような顔をして、はああっとため息をつく。

「一体なんなんだ、あいつは」

「なんなんだろうねえ」

 雅人が笑いをかみ殺しながら合いの手を入れる。

「さっぱりわからん。なんで怒ってるんだ」

 俺が一体何をしたというんだ、とつぶやく帝に、雅人は微笑んだ。

「打つ手なしかい? 帝」

「……」

 帝は腕を組み、目を閉じて考え込んでしまう。

 そんな彼の様子を見ながら、直樹はいち早く冷静に状況を分析した。

「やれやれ、とりあえず提案だが、あの精霊の件はしばらく保留にしたらどうだい。図書室は立ち入り禁止にして」

「そうだね」

 雅人も同意した。

「現実問題から片付けよう。図書室の本及び棚を一階フロアに移す。英司、斎、あとでやっといてくれ」

「わかりました」

 英司と斎はうなずいた。

「図書室は防御魔方陣を敷いておこう。万が一のこともあるから、強力な魔獣か精霊を守護につけておいた方がいい。俺がこれはやっておこう」

 直樹の言葉に、雅人は目をあげた。

「僕がやろうか」

「お前の魔獣は炎系だろう。万が一のとき、火災でも起こしかねないぞ」

「そうだねえ。それは言えてる。じゃ、僕は何をしようか」

「お前は……」

 そこまで言いかけて、直樹はふっと笑む。

 すばやく思念を雅人に送った。

 誰にも気付かれないように雅人はそれを受け取って、大仰にため息をついてみせる。

「はいはい、僕は君のスプレー効果が消えるまで、おとなしくしているよ」

 手に持つ薔薇の花に、彼は軽くキスをした。

『了解』

 直樹は帝に向かって、これでいいか、と問う。

「勝手にしろ」

 気分悪そうに叫ぶと、帝は立ち上がり、生徒会室を出て行った。

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