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図書室の守護精霊(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編2)  作者: 月森琴美


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『後野さん! しっかりして』

 倒れてしまった茉理を、斎はあわてて抱えて保健室に運んだ。

 当然この時間、誰もいるはずはなく、保健室は真っ暗だ。

 でも彼はすぐに明かりをつけ、とりあえずベッドに彼女を横たえる。

『どうしよう』

 意識を失った少女を前に、斎はあれこれ思案した。

 彼女になんらの外傷はなく、はっきり言ってどうして気絶したのかわからない。

 医者に運んでも、おそらく何の解決にもならないだろう。

 かといってこのまま時間が経てば、少女の意識が戻るのかどうか彼には自信がなかった。

 誰かを呼ばねばと考えたが、一体誰を呼べばいいのだろう。

『言葉を送れるのは、英司先輩だけど――』

 声を出せない自分の思念を聞き取ってくれるのは英司だけだ。

 でも彼を呼んでも、きっと今の自分と同じようにどう対処してよいかわからないだろう。

『あと呼べるのは……』

 斎はしばし思案したが、顔を上げて茉理の枕元で呪を唱えた。

『大地に眠りし生命を慈しむ力よ、結界となりて、この場を守れ』

 茉理の眠るベッドを中心に光の魔方陣がぐるりと出来る。

『これで良し』

 彼は額の汗をぬぐうと、すぐに学校から外に出た。

 瞬間移動し、雅人の家に向かう。

 窓から部屋に侵入したが、雅人の姿はない。

 彼はちょうど入浴中で、シャワールームにいた。

 シャワーを浴びてガウン姿で出てきたところに、斎が目を潤ませて立っているのを見て、雅人が仰天したのは言うまでもない。

「斎君、どうしたんだい、こんな時間に」

 斎は用意してあったメモを見せた。

 これまでの経緯を簡単に記したものを見て、雅人の眉が寄る。

 彼は年上の先輩らしく微笑むと、心配そうな斎の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。

「心配しなさんな、ちょっと待っててくれよ」

 そう言うなり、パチンと指をはじく。

 するとあっという間に、ガウン姿から制服姿になった。

「準備完了。ヘアスタイルもO.K。じゃ、行こうか」

 雅人は笑むと、またパチンと指をはじく。

 斎も共に瞬間移動した。

 保健室に入り、ベッドに眠ったままの茉理を見て、雅人は軽く微笑む。

「おおっ、なんと麗しき眠り姫だ。君の寝顔が見れるなんて、僕の心臓は今、こんなにも高鳴ってしまう」

『……雅人先輩』

 言葉は通じないが憮然とした斎の表情に、雅人はふふっとご機嫌になった。

「そんな顔をしないでくれ、斎君。君は眠り姫を救いにきた王子様なんだから。もっと姫の寝顔を堪能しないと」

(時々英司先輩が雅人先輩に文句を言う気持ちがよくわかるなあ)

 斎は肩を落とし、ぐったりとした。

 この状況で、どうすればそんな気分になれるというのだろう。

「そんなに深刻な顔をしないで。じゃ、やってみようか」

 雅人は、からかいすぎたなと少し思いながら、茉理の右手を取った。

 自分の両手で彼女の手を包むと、軽く目を閉じる。

 そのまま静かに心の中で、彼は呪を唱えた。

 すると彼の両手からすっと光があふれ、茉理の手を、腕を、肩を伝わって全身に行き渡る。

 彼女にしばらく魔力を与え続け、雅人はゆっくりと目を開いた。

 少女の手を離し、表情を見る。

(顔色が良くなったな)

 もう大丈夫だろう。

 彼はそっと少女の髪を撫でると、パチンと指をはじき、薔薇の花を一輪取り出した。

 少女の両手を胸の上に組み合わせると、彼はそこに金色の薔薇の花を持たせる。

 薔薇は芳しい香りと光りを放ち、茉理を包み込んだ。

(これで良し。気力を安定させる魔法を込めた薔薇が、君を安らかな眠りに導いてくれるよ。しばらくはぐっすりお休み)

 頬に赤みが戻った茉理を、斎もほっとした顔で見た。

(良かった)

 なんだかんだ言っても、雅人は頼りになる。

「姫はこのまま休ませておけばいい。あとで家まで二人で送っていこう」

 雅人は斎にそう言うと、ふうっと一息ついて、ベッドのカーテンを引いて彼女の姿を隠した。

「斎、おいで。少し話をしよう」

 彼は保健室にある椅子を引き寄せて、斎と真向かいに座った。

「怒らないから、いろいろ聞かせて欲しい。どうしてこの時間に、こんなことを?」

 斎はメモ用紙に手早く文字を書く。

[僕が誘ったんです。あまりに後野さんが元気がなさそうだったから。あの精霊のことで悩んでいるのかと思って]

 俯く斎からメモを受け取り、雅人はため息をついた。

「やれやれ、斎君。それで二人でここへ来て、何をするつもりだったのかな」

[何か出来ないかと思ったんです。昼間はあっという間に図書室から場所を移したし、精霊の悲しみを少しでも感じられないかと思って]

「ふーん、帝や僕たちはそっちの感情という面においてはシビアなところがあるから、信用出来ない――とまあ、そういうことか」

 思いもかけない雅人の口調に、斎は驚いて顔を上げる。

『僕は、そんなつもりじゃ!』

 目を見開き、訴える彼のまなざしに、雅人は少々厳しい顔をしてみせた。

「それで、二人で何か出来たのかい?」

 斎は悲しげに項垂れ、首を横に振った。

 雅人は顔を上げない少年にふうっとため息をつくと、優しく言葉をかける。

「君は情にもろい部分があるから、僕たちみたいな考え方にはついていけないだろう。確かに感情を大事に思うことは大切だ。でも時にはそれがやっかいな事になる可能性だってある。そのことをこの機会に学ぶといいよ」

『……』

「君は名門と名高いクリスティ一族の魔術師として、今回はミスを犯した。それは優先事項を間違えたということ」

 斎はじっと雅人の言葉を聞いた。

「どうして昼間、さっさと図書室を離れたのかわかるかい? 茉理姫が一緒だったからさ。彼女は魔族ではない。精霊の正体はわからない。もし万が一のことがあって一般人たる彼女に危害が加われば、大変なことになる。場所を移して対策会議としたのもそのためさ」

 斎の顔がはっと歪む。

「そうやって配慮していたにも関わらず、君は茉理姫をわざと精霊の元に近づけた。精霊とは暴走したら、それこそレベルの低い奴でもかなり封印にてこずることは君もよく知っているだろう。もしさっき精霊が暴走でもして檻を突き破り、戦闘になったら、君は茉理姫を守って戦う覚悟があったのかい? 彼女はまだどういう力を持つのかわからない、まったく未知の存在なんだよ。へたにやっかいなものと接触させて、彼女が傷つくようなことにでもなればどうする?」

『僕は……僕は……』

 斎は唇を噛み締めた。

 肩を震わせている少年に、雅人は目元を和ませる。

(ま、この僕も人にお説教なんて柄じゃないんだけどね)

「あの精霊は確かに僕でも胸痛い状況だ。でも現実、彼女を図書室に留めておいて、他の一般生徒に害でもなせば、それこそ一大事だ。だから帝は一刻も早い処分を求めているんだよ。彼の中には守るべきものはきちんと定まっていて、それを危険に晒す要素は見えないちりでも排除する。そう考える男なんだ」

『……』

「僕たちは万能じゃないよ、斎。出来ることは、まだほんの少しなんだ。自分に限界を定めるなんてことはあまり良い考えではないのだけれど、自分がすべてを――あれもこれも守って慈しめる力があるなんて思ってはいけない。自分がまだまだ非力で成長過程にあることを、自覚しておかなければいけない」

『……そうですね』

「すべてを守ることが出来ないなら、一番守りたいものを優先して守るしかない。あの精霊は僕も助けてあげたいとは思うが、もし調査の結果、何の手の施しようがないとわかったら――他の人たちに危害を加える可能性を秘めていることがわかったら、僕は何のためらいもなくあの子を処分するだろう。僕の守るべきものを守るために」

 雅人はすっと腕を伸ばすと、斎の肩に手を置いて微笑んだ。

「まあ、まだまだ君はこれからなんだから、一度の失敗でそんなに落ち込まないこと。これから正していけばいいんだ。そうだろ?」

『……はい』

 斎は顔を上げて、雅人の方をしっかり見る。

 その様子がとても頼もしくて、雅人はもっと支えてやりたくなった。

 こう見えて彼は、かなり面倒見の良い性格だったりするのだ。

『ごめんなさい、雅人先輩。ごめんなさい、後野さん』

 何度も心の中で斎は謝った。

「わかってくれたみたいでお兄ちゃんは嬉しいよ。大丈夫、茉理姫は無事だったんだしね。さ、僕にいつもの明るい笑顔を見せてくれたまえ」

 元の明るい口調に戻った雅人に、斎もようやく笑顔を見せる。

「さて、遅くなるから茉理姫を家まで送ろう。僕の薔薇の効果で、朝までぐっすり眠るはずだからね。そうそう、僕は口止め料として茉理姫の身代わり人形をもらおうかな」

(なんで?)

 不思議そうな斎に、雅人は片目をつぶってみせる。

「君の人形は最高に本物そっくりだからね。神話に出てくる彫刻師ピグマリオンも、君の作った芸術作品には首を垂れるだろう。本物の姫のかわりに僕の褥を慰めてくれるさ。抱き枕にはちょうどいい」

(……雅人先輩が人形を家に連れ帰ったら、すぐさま魔法を解かないと)

 ため息をつきながら、斎はそう決心した。

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