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図書室の守護精霊(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編2)  作者: 月森琴美


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過去の回想6

 哀濁は心の奥に降り積もる。

 あの日からずっと、彼の時は止まってしまった。

(ティア……)

 彼の脳裏に、いつも焼きついて離れない精霊の少女。

 まだ彼女は、あそこにいるだろうか。

 永遠に自分が閉じ込めた大切な存在。

(君が悪いんだ、僕を捨てたりするから――)

 彼は必死に精霊の少女を責めた。

 そうすることで、自分に這い上がってくる自分自身への嫌悪と罪悪感から逃れようとした。

 でもいくらそう思っても、やはり心は知っていた。

 本当に罪を犯したのは誰なのかを。

 それを潔く認めることが出来ない自分に、誰も罰を与えることが出来ないことも。

(僕に罪の制裁を受けさせることが出来るのは、自分自身だけ)

 そのことに気付いてしまった彼は、自らを壊していった。

 罪を償うためには、いくら破壊しても飽き足りることがなかった。

 そしてついに、己の存在まで消そうとしている。

(もうすぐ呪いは完成する。君にかけた以上に強い呪い――僕自身はもうすぐ消える。そしたら)

 彼は弱弱しい唇で微笑んだ。

(君は僕を許してくれるだろうか……ティア)




 病院の夜はとても静かだった。

 彼が首を横にすると、ベッドの側で疲れきった女性が眠っていた。

(ごめん、母さん)

 彼は心の中でつぶやく。

 自分が普通の子どもではないことを知り、彼の母親は驚愕した。

 その特殊な能力ゆえに周囲から冷たい目で見られ、転校を余儀なくされることもあった。

 悪魔のように近所から気味悪がられ、村八分のようにアパート内でのけものにされてしまったことさえある。

 やっと魔族の学校クリスティ学園を見つけて転校したときには、母親は心底ほっとしていた。

 半分精神に異常をきたしていた母に、理事会では救いの手を差し伸べて彼を預かってくれた。

 母親はしばらく一人でカウンセリング等を受け、一応正常な精神状態に戻ることが出来た。

 でも。

 中等部卒業頃から、いやそれ以前から彼の精神の方がおかしくなってきた。

 中等部2年のときに起こった、ちょっとした事件。

 それを知る者は、学園にはたった一人だけ。

 そう、その発端を作った彼の親友のみ。

(親友? 違う、今では彼は……)

 徹は彼を思い浮かべた。

 親友は学内でも優秀で、非の打ち所のない素晴らしい少年だった。

 でもそんな彼の態度はことごとく徹を苦しめ、日ごとに罪悪感を募らせた。

(智之は、ただあの精霊を自分の契約精霊にしたかっただけ、そして彼女もそれを受け入れた)

 精霊にとって主人は絶対の存在。

 そんな二人を、自分は永遠に引き離してしまったのだ。

 ただ彼女を誰にも渡したくないという、その自分の我侭から。

 でも彼を、智之は責めなかった。

 ただ済まなそうに頭を下げてくれたのだ。

『君がそんなに彼女を想っていたなんて知らなかったよ。本当にごめん』

 彼は悲しそうに自分を見た。

『親友失格だな。君の気持ちに気付かなかったなんて』

 もしそうと知っていたら、自分は彼女を契約精霊なんかにしなかったのに。

 君がいつか契約魔法を使えるようになったときに、契約出来るように――。

 彼にそう言われた時、徹の中で何かが音を立てて崩れた。

(違う、そうじゃない)

 自分は彼から激しく責められなければいけない。

 怒られて親友の縁を切られ、生涯仲直り出来ないほどのケンカをしなければいけないはずなのに。

 心が広い彼の友人は、そんな徹を優しく包み、すまないと謝ってくれさえしたのだ。

 自分との圧倒的な格差――精神面においても魔力においても、その他すべてにおいても――を見せ付けられ、徹はうめいた。

 同時に自分が彼に比べ、いかに卑小で存在に値しない人間かと思い知った。

 こんな自分が特殊な力を扱うべきではない。

 自分は生まれてくる必要はなかったんだ。

(いつも大切な人が、僕のために傷つく)

 母親も、あの精霊の少女も、智之も。

(僕は生きている必要なんてないんだ)

 裁かれるべき人間――自分の始末をつけられるのは自分だけ。

 彼はそっと首をまっすぐに戻し、天井の揺らめく闇を見つめた。

(もう少し……もう少しですべてが終わる)

 彼は静かにその時を待った。

(僕自身に始末をつけられる。あと少しで呪いが完成するから)

 そうすれば、もう誰も傷つけずに済む。

 彼女もいつか誰かが見つけて解放してくれるだろう。

 自分よりもすぐれた魔術師など、この世界にたくさんいるのだから。

(もうすぐ君に償いが出来る。ティア)

 少年の頬を一筋涙が伝った。

 出会わなければ良かったのかもしれない。

 彼女と、智之と、母親と――この世界と。

(もうすぐ終わる、すべてが)

 彼は目を閉じて、最後の時を待ち続けた。

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