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図書室の守護精霊(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編2)  作者: 月森琴美


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「なんだ、こいつは」

 現れた檻とその中にうずくまるものを見て、帝は声をあげた。

 なんとも小さく醜い真っ赤な生き物が鎖につながれ、うずくまっている。

 茉理も思わず無残な姿に目をそむけた。

 直視するのはあまりにもむごい姿だった。

 鎖に四肢をつながれ、全身真っ赤な血で赤く染まったそれは、一応少女の姿をしている。

 細い両腕でしっかりと本を抱えていたが、その本も血で真っ赤に染まり、ぐちゃぐちゃになっていた。

 それでも彼女の瞳から滝のように涙が溢れて流れて、それが床に溜まって水溜りが広がっていく。

 赤い赤い水の中にどっぷりと浸かった少女の姿は、口に出して何を言えるものでもなかった。

「ねえ、これって……」

 茉理は、やっと声を絞り出す。

「どうやら精霊のようだな」

 帝はじっとあわれな生き物に目を注ぎ、そう言った。

「精霊?」

「魔獣と似たようなものだ。俺たちとは異なる存在で、様々な力を持つ。魔力を持つ獣型の奴を魔獣と言うが、こうして人間に近い姿をし、自然に含まれる力を糧に魔力を放つ生命体を精霊と呼んで区別するんだ」

「じゃ、この子は精霊?」

「そういうことだな」

 帝はうなずくと、ポケットから白い手袋を取り出す。

 現場検証でもするかのように手袋をはめると、手を伸ばして檻に触れた。

「くっ」

 鋭い電撃のようなものが指先に伝わり、彼は衝撃に顔をしかめる。

「大丈夫?」

「心配ない。この手袋は対魔術用だ。魔法効果を和らげる効果がある」

 彼はそう言うと、直接触れるのはむずかしいな、とつぶやき、腕を組んで考え込んだ。

「どうしよう。なんとかここから出してあげられないのかな」

「くわしくは調べてみないとわからないが、これはどうやら呪いだな」

「呪い?」

「誰かがこの精霊に呪いを送ったんだ。これは普通の封印と違って、かなり解くのがむずかしい。何しろ呪いをかけた人物の感情が力の源だからな」

「そっか」

 茉理は目が慣れて、檻の中をじっくりと観察することが出来るようになる。

 見れば見るほど可哀想な様子だった。

 頭の先から羽の先まで、自らの流した真っ赤な血の涙で赤く赤く染まっている。

(なんとかしてあげられないのかな)

 彼女が必死に抱えている、あの本はなんだろう。

 茉理は檻の前にしゃがむと、少女に声をかけてみた。

「ねえ……」

 少女はグズグズと泣き続けていて、返事もしない。

「ねえ、そこの精霊さん」

 少し声を大きくしたが、彼女は反応しなかった。

「やめろ。今、こいつは完全に外界を遮断している」

 帝は精霊を凝視しながら言った。

「なんとか出来ないかな。可哀想だよ」

 茉理の言葉に、帝はため息をついた。

「とにかくこいつが何なのか調べてみるのが先だ。お前の言うように、ここにこのまま放置しておくわけにはいかないしな」

「放置って」

「ま、これの正体がわかってから処分を決める。消滅させるか封印するか、異次元に飛ばすかのどれかになると思うんだが」

「えーっ なにそれ」

 茉理は声をあげてしまった。

「それがこの子の対処方法ってわけ? 冗談でしょ」

「何が冗談だ。保健所でも野良犬と野良猫は始末するだろう。それと同じことだ」

 何が悪い、と当たり前のように言う帝に、茉理は叫んだ。

「そんなの、わたしは絶対嫌。だって可哀想じゃない」

「お前は精霊に同情するのか」

「こんなに悲しんでるんだよ。苦しいって泣いてるんだよ。原因ぐらい突き止めてあげたらどうなの?」

「そんなことは俺達の知ったことじゃない」

 帝は不機嫌そうにつぶやく。

「お前は野良猫や野良犬の前の主や、どうして野良になったのかなどをいちいち調べて歩くのか」

「だって」

「だってじゃない。俺達だって暇じゃないんだ。これ以上仕事を増やすな」

 そう言うと、帝は目線を上にあげた。

「おい、聞こえるな」

 一体誰に向かって話してるのか、と茉理は首をかしげた。

「緊急招集だ。至急、図書室に来い。ああ、直樹、お前の魔術サーチ機を持ってきてくれ」

(って、もしかして生徒会?)

 会計の先輩の名が出たところで、茉理は、そうかと納得する。

(思念会話してるんだね)

 思念会話はテレパシーみたいなものだ。

 どこでも思うだけで、相手に思念を送って会話が可能な魔法。

 何故か魔力のない茉理にも使えるのだが。

(ようし、わたしも)

 茉理も目を閉じ、言葉を送ってみた。

『お願い、早く来て手伝って』

 受け取った複数の相手からの返事はなかったが、茉理はかまわず言葉を念じた。

『お願い、可哀想な精霊がいるの。会長が始末しちゃおうとしてる。早く来て助けて!』

 返答のかわりに、横の空間がしゅっと揺れた。

 茉理が驚いて避けると、そこには次々と4人の生徒が姿を現す。

「お待たせ、茉理姫」

『後野さん、精霊ってどこに』

「帝がもう手を出したのか」

「帝っ、早まっちゃ駄目ですよっ、後野さんが困ってるじゃないですか」

 4人とも茉理に意識を向けていることに、帝は心底憮然とした。

「お前らな……」

「どうやら、まだ未遂のようだな」

 直樹が、眼鏡のフレームをおさえながら微笑む。

 その手には大きな業務用特大掃除機があった。

(何だろ、あれ)

 茉理は首をかしげる。

「ふうん、これが問題の精霊か」

 薔薇の花を手にした雅人が、檻の中を覗き込む。

「すごいなあ、なんかスプラッタって感じですね」

 こんなに血まみれで、と英司が素直な感想を漏らした。

 斎は黙って、じっと精霊の少女を見る。

 顔を伏せているので表情はわからなかったが、全身から絶望と悲しみを感じた。

「ねえ、どうしよう」

 茉理の問いに、直樹が掃除機片手に答える。

「まずこの精霊の種族と属する力を調べないとな。それからこの余計な檻もだ」

 皆、脇へどけて、直樹と掃除機を通した。

「何、その掃除機」

「掃除機じゃない」

 直樹は眼鏡をきらめかせながら答える。

「これは作品NO1、俺の最初の発明品。どんな魔術が働いてるのかを調べる『なんでもけんさくくん』だ」

「なんでもケンサクくん?」

 首をひねる茉理の耳に、雅人がため息をつきながらささやいた。

「ケンサクは調べる『検索』って言葉だよ。漢字にすればわかりやすいんだけどね『何でも検索君』」

「はあ……」

「あいつにネーミングセンスを期待しない方がいいよ、茉理姫。なんだったら君が好きな名前で呼んでもいいからね」

「は?」

「帝は大抵『魔術サーチ機』って呼んでるよ。まあ、一番妥当な名前だね。英司は簡単に『掃除機』って言ってるけど。ちなみに僕はね……ふふっ、知りたいかい?」

 耳元で妖しくささやかれ、茉理はのけぞった。

「けっこうです!」

 残念、とつぶやく雅人を、鋭い視線が突き刺す。

「怖いなあ、帝。そんなに睨まないでよ」

「そいつに余計な手を出したら承知しないぞ」

「はいはい」

 雅人は肩をすくめ、茉理から離れた。

 直樹は掃除機のノズルを檻に向かって向ける。

 本体についているボタンを押すと、掃除機の吸い込み口が突然懐中電灯のように光りだした。

(あ、これって、さっき会長が手のひらでやってたのと似てる)

 何でも検索君を嬉々として黒眼鏡の先輩が使う姿を見て、茉理はそう思う。

 何度も吸い込み口をあちこちに当てて、直樹は光を照らした。

 本体ががたがた揺れだし、本物の掃除機と変わらぬ轟音がする。

(見た目も掃除機みたいだなあ。本当に魔術サーチ出来るのかしら)

 怪しい本体の動きを見ていた茉理は、そこについていたメーターの針が揺れ動き、3つほどあるランプは交互に7色ほど色を変えて点滅していくのを見た。

 しばらくするとジーッと音が低くなり、吸い込み口からライトが消える。

「検索終了だ」

 直樹はそう言うと、掃除機のノズルを下げた。

「じゃあとりあえずこの子の前で対策会議ってのもなんだから、生徒会室に行こうか」

 ティータイムでもあるしね、と雅人は微笑んで提案する。

「茶なんて飲んでる場合か。早く始末して終わらせろ」

「まあまあ、帝。そんなにあせらなくても」

 雅人が軽く笑った。

「早く片付けて茉理姫と遊びたい気持ちはよくわかるけどね、それはきっと逆効果だと思うよ」

「何?」

「デートの申し込みよりも、今は姫の清らかな心に宿った心配事を解決してあげる方が、姫のお心にかなうと思うんだけど、ね、茉理姫」

(うーっ、半分当たってるかも)

 茉理は不承不承うなずいた。

「ちっ」

 面倒な、と帝は舌打ちし、すっと茉理の側に寄る。

「行くぞ」

「え?」

 帝の腕が、彼女をさっと背後から抱きしめた。

(えっ、えっ、何?)

 次の瞬間、茉理の目の前が揺らいだ。

 景色が一瞬消えたかと思うと、またはっきりとする。

(あ、ここって)

 茉理は目を瞬かせた。

 図書室は影も形もなく、そこは――。

(生徒会室?)

 不思議そうに周りを見る茉理を、巻きついた腕がぎゅっと抱きしめる。

「ちょっ、ちょっとっ、会長?」

「早く終わらせて、今日はお前を俺の邸に連れていくからな」

 そっと耳元でささやかれ、茉理はかっと顔が赤らんだ。

(もう、こういうのはなしだってば)

 彼女はすばやく体に力を入れて、帝の腕から離れた。

「他の人が来ちゃいますよ」

「顔が赤いぞ」

 指摘され、ますます茉理は真っ赤になってしまう。

(本当にもう嫌)

 女の子なら誰だって、こんな美形の少年に抱きしめられてささやかれたら、胸がぐっと来ないわけないだろう。

(はあああっ、こういうの苦手なんだよなあ)

 茉理はバツが悪くなって、あさっての方を向いた。

 そんな彼女を見て、帝は可愛い奴だ、と一人で満足げにしている。

『あ、のさあ、後野さん、そろそろそっち、行ってもいいかな』

 遠慮がちな思念が送られてきて、茉理はえ? と顔をあげた。

『遠野君? 別にいいけど……って、ああああーっ!』

 茉理はますます顔がほてってしまった。

(何よ何よ何よっ。あとのみなさんは気を利かせてくれてるってわけ!?)

 どうりでまだ誰も生徒会室に瞬間移動してこないわけだ。

(うーっ、今度わたしが瞬間移動出来る魔法装置を開発してもらおうかしら)

 この場から一瞬にして消え去りたい、という思いにかられながら、茉理は次々と生徒会メンバーが現れるのを見守った。

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