第五話 少女漫画と生徒会
生徒会メンバー登場です。LINK=L○NE
複数視点で少し切り替えがわかりづらいかもしれません。すみません。
「優! 次委員会でしょ! 一緒に教室まで行こ〜」
5時間目の授業が終わって、相変わらずこの時間は眠くなるな〜なんて机に伏せて、わずかの合間でも睡眠を取ろうとしてたら、教室まで瑠夏が迎えにきてくれた。眠くてボーッとしている頭で周りを見渡したら確かにみんな次の委員会の教室の場所を確認したり、ここの教室も使うからと机の上や中を綺麗にしたり準備している。その光景を見たらだんだんと頭が冴えてきた。
そう、なにしろドキドキワクワク! 初めての委員会!……だからだ。まあ私的には委員会というより生徒会のことを考えて頭が冴えてきたんだけど。
5時間目の授業の教科書が出たままの机の上を慌てて片付けると、「早くしないと置いてくぞ〜」なんて瑠夏の声が聞こえてくる。
置いていかれるのはまずい。
だって、頭の冴えた今の私は生徒会のことでいっぱいいっぱいだからだ。瑠夏と話して少しでも緊張を和らげたい。
委員会だけならまだ瑠夏もいるし先輩たちどんな感じだろ〜って気楽にいけた。でも生徒会はそうはいかない。そもそも私はそんなに前に出るタイプじゃないのだ。それに玲唯くんが一緒ってことに緊張する。もちろん嬉しさも安心感もあるけど、これから玲唯くんと一緒にいることが増えるたび女の子からの視線が痛くなるんだろうなと思うと少し胃がキリキリする。
でも少女漫画であるあるの展開だよね〜って浮かれてる自分もいてこんな調子なら大丈夫かと思ったりもする。私、少女漫画に置き換えたら意外とメンタルが強いのかも。
まあ、それはそうとここで瑠夏と同じ委員会になれて少しホッとした。束の間のってやつだけどね。
すぐに片付けが終わり、ちゃんと待っててくれていた瑠夏に声をかけると瑠夏は眉をひそめて口を尖らせる。
「瑠夏!! ごめんお待たせ! 行こ行こ〜! いやークラスどころか校舎まで離れたときはどうしようかと思ったけど、同じ委員会になれて良かったね!」
「どの口が言ってんのよ!例の一ノ瀬くんに釣られて体育委員になろうとしてたくせに!」
痛いところを突かれる……結局黙っておこうと思ったもののつい玲唯くんの話をしてしまいその流れでポロッと言ってしまったのだ。
約束をしてたのにも関わらず、破るところだった私が100%悪いのは承知の上で、言わせてほしい。だって玲唯くんと接点が増えるチャンスならそうするでしょ!!
なんて、さらに瑠夏を怒らせるようなことは黙っとく。
「まあまあ結果的に生物委員会になったんだからよしとしようよ〜」
「ったく…でもあの爽やかイケメンくんが体育委員になるとは意外だったなー」
「そう?似合ってるけど♡」
私の脳内では、ジャージ姿でバスケットボールを軽やかにドリブルする玲唯くんのイメージが再生される。完全に爽やかスポーツ男子枠だ。
瑠夏は玲唯くんが体育委員を選んだことが刺さらなかったようだ。解釈違いはよくあるやつだよねと呑気に考える。でも言われてみれば、確かにそれも分かる。新入生代表挨拶してたくらいだし先生に言われて学級委員とかしそうだったのに。学級委員も似合いそうだな〜と頭の片隅で考える。
まあ玲唯くんは体育委員だろうが学級委員だろうが、全てが似合いそうだけどね!
私の言葉になのか、私が考えていることがわかったからなのか瑠夏からため息が出たと思ったら割と真面目な顔をして質問してきた。
「……はあ。ところでどうなの?その一ノ瀬くんとは」
「どうなのとは?」
「だーかーら、運命だの少女漫画だのよく言ってるじゃない」
待ってましたと言わんばかりに、私は勢いよく話し始める。
「そうそう! それがね私が生徒会補佐に立候補したらすかさず玲唯くんも立候補したんだよね!それって私と委員会離れちゃったから生徒会だけでもってことじゃない!? それまで興味なさそうに話聞いてたし!」
「ほんとかなぁ〜?」
「ほんとほんと!」
「だって向こうはあんたのこと覚えてなかったわけでしょ? 入学してからしばらく経っても隣の席ってだけで特にものすごく仲良くなったとかでもないし」
「だからこそでしょ! 向こうも私と仲良くなるきっかけが欲しいから焦って立候補したんだよ♡」
ジトーっとした目でこっちを見て怪しむ瑠夏に負けじとこっちも言い返す。
ここまで少女漫画スターターセットみたいな運命要素が揃ってて何を怪しむ必要があるのか、私が言った言葉が全てだと思うけど。
「まあそう思うのはいいけど、その勘違いで泣かないようにね。昔からそういうところあるんだから」
「はーい」
瑠夏の忠告を話半分で聞く、確かに中学のときは何もできずに散った恋に泣いたけど今回は違う! ちゃんと行動して運命を手繰り寄せるんだから! そもそも玲唯くんのことはまだ勘違いとは言えないもんね!
委員会で集まる教室は特進科の校舎だけど、生徒会室は確か普通科の校舎にある。
委員会で集まるクラスは3階、生徒会室も3階。つまり移動がものすごく大変だ。
とりあえず委員会の教室まで瑠夏と話しながら目的の場所を目指していく教室が見えてきた。
「あそこかな」と瑠夏と話してたら、一個前の教室の窓からひょこっといつも見ている金髪が顔を出して私に話しかけてきた。
「あ、優ちゃん」
「玲唯くん!?」
「30分経ったら生徒会室ね。忘れないでね」
「玲唯くん! もちろん! あのさ、委員会の教室隣同士だし、一緒に行かない? 生徒会室の場所まだ分かんなくって……生徒会室に入るのも緊張するし!」
「分かった、じゃあまた後で」
玲唯くんの委員会の教室ここだったんだ。
や、やっぱり運命でしょ!
まさかの玲唯くんから話しかけられたことに驚きを隠せないでいると、生徒会に行くことを忘れないようにと優しく言ってくれた。そのチャンスを逃すまいとここぞとばかりに、玲唯くんを一緒に生徒会室に行こうと誘ってみるとすんなりOKを貰えた。別に教室が隣なことも場所を把握できてないことも緊張していることも事実だしいいよね! まあでもここで一緒に行かない方がなんで?とはなるけど、その事実にはちょっと目を背ける。玲唯くんと一緒に行ける事実だけ知っていればいいのだ。
その会話を聞いていたであろう隣にいる瑠夏に見た!? と言わんばかりに首をぐんっと振って目線をやれば呆れたようななんとも言えない顔をしていた。
はぁ、それにしても玲唯くんってほんと優しいな♡
***** ***** *****
6時間目は待ちに待った委員会、というよりメインは生徒会の方。
朝だって、いつもよりずっと早く目が覚めて、制服に袖を通す時間さえなんだか浮ついてた。学校で会えるこの時間をずっと楽しみにしてた。
合格発表のときと入学式のときに会って、それ以降ちゃんと顔を合わせて会えてなかったから……やっと、やっとなんだ。
電話はたまにしてるけど、顔は見えないし短いときは5分もしないで終わっちゃう。正直すごく物足りない。
昨日も電話できて嬉しかったけど、すぐ終わっちゃったし、結局委員会のことは知ることができなかった。いや、聞けるチャンスはあったのかもしれない。
でも、あの人と電話できる時間って、そう何度もあるわけじゃないから。
せっかくの電話、わざわざ話題に出すことでもないし他にもっと楽しい話がしたいっていう気持ちが強かったのもある。
LINKでだって聞こうと思えば聞けたはず。だけど、これは千鶴ちゃんのせいでもある。
千鶴ちゃんて、LINKの返信おっっそいんだよね!マメかと思いきや意外と気まぐれタイプ。
早いときもあるけど、基本的には遅い。忙しいのか、ただの気分屋なのか、そんなところも千鶴ちゃんらしいなって思うけど。
結局、別のことを話してるうちに今日になっちゃった。
でも、多分これは言い訳だ。
だって、知るのが、ちょっと怖かったんだ。
同じ委員会だったら、嬉しすぎて空回りしそうで。違ってたら、それはそれで、立ち直るのに時間がかかりそうで。
……心の準備が、まだできてなかっただけ。
まあ、でももうすぐ会える。体育委員だと信じてやまない俺は期待を募らせる。
委員会決めのときは曖昧だったけど、昔の会話履歴見返してみたらちゃんと体育委員って文字があったから。
楽しみすぎて、5時間目の授業が終わって速攻準備した。周りのみんなは割とゆっくりしてたけど、俺は予鈴もなってないのに来ちゃった。こっから1時間ぐらい一緒にいられるなんて、最高すぎる。
同級生みたいな気分とか味わえたりするのかな。
なんて、ひとりで妄想を膨らませてたら、その穏やかな時間を邪魔するような女の子の甲高い声が教室に響いた。
同じクラスの子みたいで、「なんで先に行っちゃうの」なんて文句を言いながら入ってきた。
……別に、一人で行けるなら一緒に行く必要なんてないでしょ。
窓越しに廊下をぼんやり眺めながら、俺はソワソワと足を揺らしていた。一年生は廊下側の席だったのはありがたい。だって千鶴ちゃんが来たことにすぐ気づけるからね。
と思ってたら見えたのは千鶴ちゃんじゃなくて、同じ生徒会の優ちゃん。窓から顔を出して話しかける。
「あ、優ちゃん」
「玲唯くん!?」
「30分経ったら生徒会室ね。忘れないでね」
「玲唯くん!もちろん!あのさ、委員会の教室隣同士だし、一緒に行かない?生徒会室の場所まだ分かんなくって…生徒会室に入るのも緊張するし!」
「分かった、じゃあまた後で」
別に注意する必要はなかったんだけど、これで優ちゃんが忘れてて生徒会に遅れるのは千鶴ちゃんに迷惑がかかるかもしれないからね。
一緒に行くのを断る理由もないし、優ちゃんが迷子になって遅れて、千鶴ちゃんに何か言われるのも避けたい。千鶴ちゃんに嫌われるような行動は、なるべくしたくない。
千鶴ちゃんのことを考えていたら、自然と顔が緩んでしまう。
そう、数分前まではウキウキしてた。
もうチャイム鳴るのに来ないな……。
静かだった廊下に、ゴツッゴツッと靴音が響く。
現れたのは、見るからに体育教師って感じのジャージ姿の男性だった。体育はもう既にやったけど、見たことのない先生。
こっちを指差しながら数を確認するかのような動作をしている。まさか?
「よーし、みんな揃ったな」
そんな言葉と共にチャイムが鳴る。
千鶴ちゃんいないのか……。
先生が人数確認し始めた段階で薄々勘付いてはいたけど……だって千鶴ちゃんが遅刻することってなさそうだし。
生徒会で先に集まってるからいないっていう希望を捨てられなかった……はぁマジか。
完全に千鶴ちゃんが何の委員会にするか聞かなかった俺の落ち度……それは分かってるけど。
必死だって?そりゃ必死にもなるよ。
千鶴ちゃんと一緒なのはこの一年だけなんだから。委員会違うなんて一緒にいられる時間がさらに少なくなっちゃう! 早く30分経てばいいのに。
まずは体育教師だろうって風貌の男性が軽く挨拶をする。やっぱり、体育教師だった。
なんでこう体育の先生ってわかりやすいんだろ……熱苦しそうだし。
委員会は、思った以上に淡々と始まった。
どうやら委員長決めに時間がかかってるみたいで、先に1、2年の役職を決めていく流れになってた。
千鶴ちゃんがいないなら役職持ちとかになる必要もないから俺はただ時間が過ぎるのを待っていく。
早く時間経たないかな……。
時間を確認してはまだ経ってないことに気を落としてを繰り返した。何回心の中で思っただろうか。
委員会の方はいつの間にか委員長が決まってたみたいで、委員長を元に進行されていく。
ちらりと時計を見たら、長い方の針が6を指していたから、邪魔にならないよう副委員長らしき先輩に声をかけた。
「あの、すいません。生徒会の方に行かなきゃいけないので抜けます」
「あぁ、分かった。体育員の仕事とか詳しいことは同じクラスの子に聞いてね」
「はい、ありがとうございます」
同じように先生にも軽く声をかけて、その場を離れた。
教室を出るとちょうど優ちゃんも出てきたみたいで、小声でお喋りしながら少し早足で生徒会室に向かう。
「あ、生徒会室ここだ」
「着いちゃったね、緊張する…」
「そうだね、でも早く入ろ。もう5分も経ってるし」
優ちゃんの言葉に別の意味で同意する。生徒会に対しての緊張はあまりないけど、学校でちゃんと千鶴ちゃんに会えるって意味では緊張だ。もう扉を開いたら千鶴ちゃんがいるがいる。だから優ちゃんに深呼吸させてとか落ち着かせてとか言われる前に入るように促す。
もう、5分も一緒にいられたであろう時間が減ってるんだ。
なんで、委員会の教室と生徒会室こんなに離れてるんだよ……。
でもやっと会える。
「失礼します」
「し、失礼します」
ノックして扉を開けると、生徒会室の中には既に数人の先輩たちがいた。
辺りを見回してると、ピンク髪のツインテールをした女の子が明るい声で迎えてくれた。
「あ、きたきた〜!特進科の一年生だね!待ってたよ!はい、ここ座ってね」
ピンク髪の先輩が、俺たちを席に案内してくれた。俺たち一年生の席は扉からすぐで、もう既に1人が端に座ってるから真ん中に俺、その隣に優ちゃんみたいな席順になった。
コの字のように机が並べられてる。左側の壁際にホワイトボードがあって、その正面に座ってるのが恐らく2年生たちで、扉側から男、男、女の子の順で座ってる。生徒会長と多分副会長の席は俺たち一年生の正面に位置してる。 図らずとも、俺が生徒会長の目の前に見える座り方になった。たまたま、偶然だろうけど、少しでも顔を見れる席に気持ちが昂る。
「生徒会長〜!一年生全員来ましたよ!あとは副会長だけなんですけど…!」
「はぁ。とりあえず、あのバカは置いといて、
一年生も揃ったことだし改めて自己紹介しようか。学年、クラス、名前と軽い意気込みでももらおうかな。」
その声に、思わず体が反応する。
目の前に座る彼女は、変わらず凛としていて、堂々としていた。遠くから見かけるのと違う。入学式以来、やっと間近で会えることができて心が湧き立つ。
聞き慣れた、けど電話越しとはまた違う、優しい声。
俺の想いを寄せる、愛しい人。
「まず、私から生徒会会長の如月千鶴です、特進Aクラスの3年生だよ。一年生から生徒会に所属してるから気軽になんでも頼ってね。
生徒会長っぽいことを言うと、この学校をみんなが楽しく過ごせるようにしたいと思います…かな。まあそんなに堅くならないで緩くやればいいよ。よろしくね。」
千鶴ちゃん! 会いたかった!
もしこの場に誰もいなければ、今すぐにでも駆け寄って、抱きしめてしまいたいくらいだった。でも、ここは生徒会室。俺はただの一年生で彼女は生徒会長。生徒会という接点ができたとは言え、まだ近寄れる距離感じゃない。
今すぐ、俺と千鶴ちゃんの関係性をバラしてしまえたらいいのに。
「そして、生徒会副会長も同じく3年の」
千鶴ちゃんがこの場にいないであろう副会長のことを説明しようとしたそのとき、俺の後ろで急にバンっ! と大きな音がして扉が勢いよく開いた。そして、少し柄の悪そうな男が入ってきた。身長は高いのに、背筋は少し猫背、寝癖のように跳ねた黒髪。でも覇気のない表情に焦りが見える。走ってきたのか少し汗をかいてる。
「ごめん、忘れてた。」
「あー!やっときた!遅いですよ!柊先輩!」
遅れてきた副会長が来た。ピンク髪の先輩の言葉を流しながら、生徒会長の隣の席に座る。
この男は見たこともがある。部活紹介の時じゃなくて、千鶴ちゃんと一緒にいたところを俺が一方的に見かけただけなんだけど。千鶴ちゃんと何かと噂されてる気に食わないやつ。
席についた副会長に千鶴ちゃんが声をかける。
「これで揃ったね、久遠。挨拶」
「3年、特進A、副会長柊久遠。よろしく」
千鶴ちゃんの隣にいるくせになんて無愛想なやつなんだ。なんでこんな奴が副会長なんだろう。2人の紹介が終わったところで、2年生へと続いていく。最初は俺たちを案内してくれたピンク髪の先輩。
「2年生の特進Bクラス! 書記だよ〜藤白みりあだよ!
下の名前でみりあちゃん♡って呼んでね
去年も書記してたから書くのは得意だよ〜よろしくね!」
女の子、安心。
「2年生普通科の桜井縁です……あ、Dクラスです。えと、会計です。えっと……生徒会は今年からだけど……えっと迷惑かけないように頑張ります。よろしくお願いします」
大人しそうでこれと言った印象はないけど、千鶴ちゃんのそばにいる男だから一応要注意。
「はいはい! 最後は俺ね!
名前は五十嵐陽大! 気軽に五十嵐先輩って呼んでね! 下の名前でも可!
2年! 普通科! Eクラス! 広報を担当するよ〜! イベントとか盛り上げたいし、SNS発信もバンバンやってくつもり。モテるために入りました! 彼女募集中!! ね! 生徒会長!」
金髪で制服のボタンを3つくらい開けてるチャラそうなやつ。俺の千鶴ちゃんに気安く声をかけるな。こいつはうざったらしいけど、まあ千鶴ちゃんが好むような人でもないから特に問題はなし。
「はいはい、次一年生」
さらっと流す千鶴ちゃんも素敵。
「じゃあ、私から。一年生の普通科Cクラス、早乙女桜です。えっと、一応中学でも生徒会やってました。まだ高校との違いは分かりませんが、お力になれるよう精一杯頑張ります。よろしくお願いします。」
同じ一年の女の子、安心。
順番的には俺が次か、千鶴ちゃんが話す時間がなくなっちゃうから簡潔に話そう。
「一年生特進Bクラスの一ノ瀬玲唯です。同じく先輩方をサポートしたいと思います。よろしくお願いします。」
「同じく、一年生の特進科Bクラスです!よろしくお願いします!成り行きで立候補しましたが、なったからには先輩方をサポートできるように一所懸命頑張ります!」
そして、最後に優ちゃんが自己紹介したところであのチャラそうな先輩が急に立ち上がって、俺の方を指さしてくる。
「お前!どっかで見たことあるって思ったら! 在校生代表挨拶してたイケメン! いやーますます生徒会に箔がつきますね、ね! 会長!」
だからわざわざ千鶴ちゃんに話しかけるな。
「はいはい、かっこいい後輩が入ってよかったねー」と、さらっと流す千鶴ちゃんも素敵。そして俺のことかっこいいって……!!
「五十嵐はこんな奴だから何か話しかけられてもスルーしていいから。」
ボソッと「会長、酷くない?」なんて言ってるけど自業自得だ。千鶴ちゃんをあまり困らせないでほしい。そんなチャラ男をよそに千鶴ちゃんは話を続ける。
「みんなの自己紹介が終わったところで、顧問についてなんだけど、委員会の方に顔を出してて来ない。顧問は新井先生。あー、割といい加減な先生だけど頼りになるところはあると思うから、うん。ちなみに体育委員会にでてる体育教師の荒井じゃなくて、新しいに井戸の方の先生だから。間違わないように」
体育教師って荒井って名前だったんだ。千鶴ちゃんのこと考えてて聞いてなかったや。確かに、同じ“あらい”じゃややこしいよね。
ちゃんと俺ら一年が誤解しないように説明してるの流石。
授業が終わるまであと10分ぐらいってところで、生徒会についての説明がされる。
「生徒会の仕事だけど、主に行事の企画&運営、学校環境の整備、ボランティア、アンケートへの対応とかです。最近だと、部活紹介のスライド作りと司会進行とかかな。まあ時間がないから詳しくは次回説明します。
次に一年生、つまり生徒会補佐の仕事です。基本的には書記会計広報の補佐と一年生への伝達係、行事のお手伝いです。まああとは手が必要なとこをサポートしてもらう感じかな。
書記は会議の議事録を取る役割です。生徒会の活動内容を記録し、後で確認できるように管理する責任があるよ。
ホワイトボードに板書とかもするかな。
次に会計は生徒会の予算やお金の管理を担当します。行事や活動に必要な資金の調達、支出の管理などが主な業務かな。金銭トラブルは怖いからきちっと管理してね。
最後に広報は生徒会活動やイベントの宣伝を担当します。学校の掲示板にポスターを貼ったり、SNSを活用して情報を発信したりとかね。生徒の関心を引いて、参加を促進させるとかもある。でもまあ基本的には楽な仕事かな。
それぞれ仕事はこんな感じです。
ここまでで、補佐したい役職あるかな?」
「わ、私会計やりたいです!」
誰だっけ、俺の隣に座る女の子が手を挙げる。会計は一番大変そうだし、その分生徒会長である千鶴ちゃんとも一緒にいられるかと思ったけど、まあいいか。わざわざここで奪い取る必要もないし、逆に千鶴ちゃんに悪印象を持たれられたら嫌だからね。
「山本さんと一ノ瀬さんは?」
「私は特に」
「俺も特にないです。」
「じゃあ私が決めちゃうね。」
千鶴ちゃんが俺らに役職を割り振ろうとしたところで、金髪の先輩が机をダンっと叩き勢いよく手を挙げる。
「はいはい!」
「……なに?五十嵐」
「俺こいつと広報やる!イケメンだから注目間違いなし!」
「別に五十嵐がモテるってわけじゃないでしょ!」
ピンク髪の先輩がツッコむ。意外とツッコむタイプなんだ。
「はぁ…えっと一ノ瀬さんはそれでいい?」
「はい、大丈夫です。」
「じゃあ自動的に山本さんは書記だけどいいかな?」
「は、はい。私も問題ないです!」
「よし、すんなり決まって良かった。みりあちゃん、記録した?」
「してま〜す!」
みりあちゃん呼び……俺も千鶴ちゃんに下の名前で呼ばれたいのに! 昔から頑なに一ノ瀬くん呼びなんだよね…親の前だと玲唯くんって呼んでくれて、逆に刺さるからいいんだけど。
「ここまでで質問あるかな?」
誰も手を挙げる雰囲気はない。
「なさそうだね、まあ後々思いついたら生徒会グループLINKで聞いてね。個人的に聞きたい質問があったら、LINK追加してくれて構わないよ。
みりあちゃんがグループLINK作ってくれたから、一年生はみりあちゃんとLINK交換して帰ってね。」
千鶴ちゃんがそう言ったと同時に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
テンポよく決まったので、いつの間にか10分経っていた。千鶴ちゃんといる時間は早く感じる。
「ちょうどなったね、今日はもう解散。各自クラスに帰ってね。じゃあ、お疲れ様でした。」
各々挨拶をして、教室にゾロゾロと戻っていく。
千鶴ちゃんと話したいなと思いつつも、どうやら副会長と話してるようだったので先にピンク髪……藤白先輩とのLINK交換を済ます。
なんで、藤白先輩とLINK交換しなくちゃいけないのか。
別に千鶴ちゃんが追加してくれてもいいのに。
藤白先輩とLINKを交換している間に話が終わったのか、副会長が先に生徒会室を出ていった。藤白先輩も優ちゃんも板の間にかいなくなっていた。つまり、ここには俺と千鶴ちゃんだけ。2人で喋る絶好のチャンスというわけだ。
***** ***** *****
お、終わった〜!
チャイムが鳴って、一番最初に思ったことだった。
私は生徒会室に入った瞬間に緊張してた体がさらに強張ってしまった。玲唯くんは飄々としてて、すごいなと感心したくらいだった。
生徒会室に入った瞬間のあの空気。何かに飲み込まれたような恐さが漂っていた。特進教室とはまた違う、どこか引き締まったような空気。ホワイトボードや書類、資料が並んだ棚、整然と並んだ机に囲まれた空間には、ある種の責任感のようなものを感じた。
でもそんな空気をパッと明るく変えたのは、ピンク髪のツインテールをした藤白先輩だった。シンとした空気の中で鳴り響いて、明るく可愛らしい声が聞こえた瞬間少し安心感を覚えた。ぱっちりした目に、ゆるふわに巻かれたツインテール、ピンク髪が似合う愛らしさを持った人。部活紹介の時でも一番目を引いた……ピンク髪ってこともあるかもしれないけど。
そこからは藤白先輩が席に案内してくれて、自己紹介を軽くした。副会長が遅れてきたり、ちょっとチャラそうな先輩……五十嵐先輩が玲唯くんに絡んだり、色々あったけどつつがなく終わった。
自己紹介もだいぶ緊張してたけど、一個前の玲唯くんが冷静に淡々と話すから何だか私も落ち着くようなことができた気がする。
自己紹介が終わった後は、生徒会長が生徒会の業務について簡潔に分かりやすく話してくれた。書記、会計、広報、なんでもいいと言えばそれまでなんだけど、会計はなんか責任重大そう、広報は担当の先輩が不安、なんて思ってたら同じ一年の生徒会補佐の子、早乙女さんが会計に立候補して五十嵐先輩が玲唯くんを指名していつの間にか書記になってた。
3つの仕事だったら、優しそうな藤白先輩が担当してる書記がいいなって思ってたし、自分で手を挙げる勇気はないからぶっちゃけ助かった。
途中で五十嵐先輩に藤白先輩がツッコミしてたり、生徒会長が五十嵐先輩のことを優しく窘めたりして先輩方はみんな仲が良さそうだなって思った。それに、もう少し堅苦しい雰囲気でやるのかと思ったけど、意外と本当に意外とゆるい雰囲気だった。
生徒会長を入学式で初めて見たときは、玲唯くんに気を取られてたのもあるけど、遠くからだったし、美人な人だな〜で終わったからそれ以上、特に何も思うところはなかった。
でも、学食で見かけたとき、学校ですれ違うとき、部活紹介のとき、改めて生徒会長の美しさに圧倒した。もちろん、綺麗さだけじゃない、オーラとか佇まいとか、あの人が形作ってるもの全てが綺麗だなって思った。
だからこそ、勝手に少し壁を感じてたけど、そうでもないって思ったのが素直な感想だった。
でも一回部活紹介の時に見たとはいえ、インパクトのある先輩たちばっかだった。
生徒会長は言わずもがなだし、副会長は部活紹介の時に抱いた第一印象通り、一匹狼って感じだった。さっきも自己紹介以外は一言も喋ってなかった。
部活紹介の時はもうちょっと、とっつきやすそうに見えたんだけどな。
2年生もそんな先輩たちに負けず劣らずで個性が強そうだった。この学校は校則が緩いとはいえ、ピンク髪に染めてるキャピキャピっとした感じの先輩に、オドオドしてて優しそうだけどピアスバチバチで毛先が緑がかってる先輩、何かと生徒会長に話しかけてる金髪でthe陽キャ!って感じのチャラそうな先輩。
先が思いやられる……玲唯くんと一緒なのと、早乙女さんが真面目そうで頼りになりそうなところが救いかな。
桜井先輩と五十嵐先輩は颯爽と帰って、藤白先輩が「一年生は私のLINK追加して帰ってね〜!」と生徒会室の扉の前で待ち構えてる。
どうせなら、早乙女さんに声かけようと思ってたんだけど、藤白先輩とLINK交換が済んだのかすぐさま帰っていっちゃった。
とりあえず何事もなく終わったことに安堵し、もう一度生徒会長に目をやる。
「久遠はホームルーム終わってもすぐ帰らないこと」
「……はい」
遅刻してきたことを怒られてるのか、それともホームルーム終わった後に怒られるのかそんな会話が聞こえてくる。
怖そうな人かと思ったけど、やっぱりそうでもない?なんだかよく分かんない人だ。
それにさっきは壁を感じないって言ったけど、やっぱりそうでもないかも。副会長も怖そうだけど、その人に怒れる生徒会長って!?
でも、やっぱり何度見ても生徒会長と副会長絵になるな……なんて考えてる私は少女漫画に頭がやられてる。
あと、間近で見たことでより分かった。あの2人の仲の良さを。副会長が入ってきてから流れるように生徒会長の言葉で自己紹介してた。副会長は生徒会長の左側に寄りかかるような感じの距離の高さだったし。なんか、阿吽の呼吸というか、長年一緒にいましたみたいな雰囲気がある。確かに、これじゃあ噂にもなる。
2人の話が終わったのか、副会長が私の横を通って帰っていった。
そこで、私は意識が現実に戻ってきたのか、あ!と思いだす。担任の先生からチャイムが鳴ったら早く帰ってこいって言われてきたことを。特に理由はなさそうだったけど、委員会終わりでだらだらとしてる奴が多いからとかなんとか言ってた。
生徒会室からクラスまで遠いから早く帰らなきゃ! 慌ててLINKを交換して、出ようとすると藤白先輩に話しかけられる。
「あー優ちゃん! 書記としてよろしくね!」
「はい、よろしくお願いします!」
もう下の名前で呼ばれていることに驚きを隠せないが、優しそうな先輩でよかったと思う。
そういえば、まだ仮入部だから話してはいないけど同じチア部の人だ。
部活紹介でも可愛らしいツインテールを揺らしながら踊っていた。
せっかくならと思い、私からも声をかける。
「私もチア部なんです、まだ仮入部だけど…」
「えー! そうだったの! チア部ってグループ分けされてたり、人数が多かったりで、なかなか覚えられなくってさ――でも今覚えた! 生徒会もチア部もよろしくね、優ちゃん!」
「ゔ、はい……!」
可愛い……!!
藤白先輩も特進科だから一緒に校舎まで行こうとしたけど、用があったらしく特進校舎とは反対側だったので挨拶をして別れた。
それにしてもさっきの藤白先輩は可愛かった。頭を抱えたかと思ったらパァッと顔が明るくなった。そんな動作がまた、藤白先輩の可愛さを引き立てる。
生徒会長が美の象徴なら藤白先輩は可愛いの権化って感じだ。
って危ない危ない、こんなこと考えてる場合じゃなかった。早く教室に戻らなきゃ……そう思い玲唯くんを見てないことに気づく。
先に帰ったと思ったけど、玲唯くんが私を置いていくような真似するはずがないし、藤白先輩と扉の前で話してたから、玲唯くんが扉を出ていないことに気づいて生徒会室に戻る。
決して、道に迷ってクラスに戻れないとかじゃない。玲唯くんがホームルームに遅れちゃうかもしれないからだ。
全然この校舎ややこしいとか、なんで生徒会室普通科にあるのとか思ってない。まだ入学して1ヶ月も経ってないんだから許して欲しいとか思ってない。
でもなんでまだ生徒会室にいるんだろ、生徒会のことで質問とか? 玲唯くん真面目だしありえるかも!
「玲唯くん! 教室一緒に……」
生徒会室の扉が開いていたので、声をかけようとしたが、その言葉の続きは口に出せなかった。
生徒会室で、生徒会長と玲唯くんが2人で話をしていたから。私は2人から見えないように慌てて扉の後ろに隠れる。
今、ちらっと見えたけど玲唯くん抱きついてなかった……? 扉越しに聞き耳を立てる。
口論、とは違うけど玲唯くんが一方的に生徒会長に捲し立てて生徒会長が諌めてる感じだ。
こんな場面に割って話しかける度胸なんてない。
仲良さげ……なのかは分からないけど、初めましてでないことは聞こえてくる会話から察する。
「千鶴ちゃん、体育委員会じゃなかったの?俺てっきり体育委員会だと思って立候補したのに! 千鶴ちゃんと委員会別になっちゃったじゃん……」
「気になるならLINKで聞けばよかったのに。今日まで時間あったんだし」
「だって千鶴ちゃん返事遅いじゃん!」
「……それはごめん」
「それに千鶴ちゃんに聞く前に委員会決めちゃったし、去年体育委員って聞いたの思い出して今年もそれかと思ったから。違ったらって思って、聞くの怖くて……で! なんの委員会にしたの?」
「はぁ……図書委員会だよ、読書は好きだし図書室って静かだから落ち着くしね」
「図書かよ……はぁ去年は体育委員って」
「去年も図書委員会にしようとしたけど、体育委員会が思いの外、人気なくて女子が誰も立候補しなかったから仕方なくだよ。図書は人気だったし授業の時間も押してたし」
「そっか……でも千鶴ちゃんと同じ委員会が良かったな」
「生徒会一緒なんだからいいじゃん、生徒会も仕事多いから一緒にいられること多いって。
それに生徒会立候補したって一言ぐらい言ってくれれば良かったのに」
「俺が生徒会室に入ってきたとき驚いた?」
「事前に一年生の名前は知らされてたから驚いてはないかな。それに首席合格だからもし立候補者がいなかったら先生が推薦してそうだし、予想はついたよ」
「そっか……あ!そうだ放課後一緒に帰らない?」
「用事あるから無理。それと学校では先輩か会長って呼んでって言ったよね」
「あ、ごめんつい……用事はなに?待ってるよ?」
「……ホームルーム始まるから早く教室帰りな。
山本さんも待ってるよ」
思ったより2人の声が聞こえててガッツリ聞き入っちゃったところで、急にこっちに注目されてびっくりする。
話してる内容もだけど、玲唯くんの態度にびっくりして考えることもできなかった。
居たことに気づいていたのか、今気づいたのか分からないけど。慌てて話しかける。
玲唯くんは気づいてなかったのか私と同じように驚いた顔をしている。
「え?あ、優ちゃん」
「あ、……えっと、邪魔するつもりはなくて!ごめんね!先生委員会終わったら早く帰ってこいって言ってたし怒られちゃうよ」
「そっか、ごめん。待っててくれてありがとう」
「ううん」
玲唯くんの案内を元に教室に戻る。玲唯くんが居てくれたおかげでホームルームには無事間に合った。私1人じゃ絶対道に迷って遅れてた。
でも、玲唯くんと2人だけだったのに行きと同じような弾むような会話はなかった。一言、二言、話して終わり。それが何回かあっただけ。どことなく、お互い気まずくて。いや、私の気まずさを玲唯くんが感じとってくれたのかもしれない。
だって、クラスメイトの知られざる顔を知ってしまったから….。
いや、それほど知られざる顔ってわけでもないんだけどね。
クラスでの玲唯くんは爽やか〜で、きらきら〜で、誰にでも優しくて明るくて、頼れる王子様。堂々としたゴールデンレトリバーって感じ。でも生徒会長と話してたときの玲唯くんときたら!!
まるで叱られた子犬みたいにしょぼんってしてた。でも飼い主に構ってほしくてちょっかいかけようとするんだよね。私には声色でわかる。クラスでは兄か弟で言ったら、兄っぽいけど生徒会長の前だと弟になる感じ良い!
まあ、3年と1年っていうのもあるけどね。
それにあのときの私は2人の関係性のことで頭がいっぱいで上手く会話できなかった。
ふ、2人は知り合いってことでいいのかな?
中学の先輩と後輩、はたまた幼なじみとか?
全部あり得そう……!
放課後になってもそのことが気になって頭から離れない。生徒会長はそうでもなさそうだけど、玲唯くんからはなんか、ただならぬ思いが溢れてそうで……。
せっかく生徒会も同じでこれから玲唯くんと少女漫画みたいな展開になりそうだったのになー!
まあ、でも?生徒会長と玲唯くんが付き合っててもそれはそれで、私的には全然良いけどね! 他の人の恋愛も気になる! あわよくば少女漫画みたいな関係性であってほしい!
少女漫画みたいな関係性ってなんだ……。
このままだとずっとモヤモヤしたままだ。
あー! もう! 気になるなら本人に聞くしかない! まだ帰ってない、よし!
教室を見渡したら玲唯くんがまだ居たので、声をかける。
「玲唯くん、同じ駅だったよね。一緒に帰らない?生徒会のことで話したいこともあるし」
「あー、うん分かった。」
*****
生徒会室で千鶴ちゃんと話しているところに優ちゃんが居合わせてから、なんとなく優ちゃんが気まずそうにしていて話しかけるにかけられない。
生徒会室から教室に帰るまでの間も、相当気まずかった。俺がっていうよりは、優ちゃんが。行きとは違ってシーンとした時間が多かった。俺も流石に無言が続くのは嫌だなって思って、話しかけるも一言だけ返事が来て終わってしまった。どうにか会話を続けようとしても、どこか上の空なのか曖昧な返事ばかりだった。
優ちゃんが何をそんなに気まずそうにしてるのかが、分からない。
話してる内容を聞かれてたなら、まあ確かに気になるか?って感じだけど。
話してる内容を聞いてなかったとしたら、生徒会室に残って話してたことが気になるとか?
でも、なんでだろう。
話してる内容を聞かれたのだったら少し不安になる。俺的には会話しているところを見られただけならまだいい。
もし話してる内容が優ちゃんに聞こえてなかったら、そのままでいい。生徒会の話をしてたとでも言えばいいから。
でも、聞かれてたら困る。
だって千鶴ちゃんとの約束があるから。俺としては別にそんなの関係なく話したいんだけど。
さっきから、こっちをチラチラと見てきてるので向こうも気になってそうではある。
ホームルームが終わってからもどこまで踏み込んでいいのか分からなくてどうしようと頭を悩ませてたら、優ちゃんから放課後一緒に帰ろうと話しかけられる。
千鶴ちゃんは用事あるって言ってたけど、俺と帰りたくないためについた嘘かもしれないから連絡するか迷っていたところではあった。
それに、今日は生徒会を理由にすれば帰れるって思ったんだけど。まあ、優ちゃんに確認するチャンスだしいっか。
軽く生徒会とは関係ないことについて話しながら、下駄箱辺りまで歩いていると優ちゃんから例の話をされる。
「あ、そういえば、さっきは生徒会長との話中断しちゃってごめんね!」
「ううん、大丈夫。こっちこそ話し込んじゃってて……。扉開いてたよね、結構うるさかったかな?廊下まで話し声聞こえてた?」
「話し声? あー!」
その言葉の続きをドキドキして待つ。
「話し声は聞こえてたかも! でも、扉越しだったから何を話してるかまでは聞こえてなかったよ。なんか話してるなーとは思ってたんだけどね」
「そうだったんだ! 俺、中学でも生徒会やってたんだけどね、広報って役割なかったからどんなことやるのか気になっちゃって質問してたんだ。ほら、広報の先輩真っ先に帰っちゃったし」
「あー、五十嵐先輩だっけ。確かにいの一番に帰ってたね」
優ちゃんが内容までは聞いてなかったことに安堵した。でも、千鶴ちゃんと話してたことは知ってるから誤魔化した。
会話を続けてると俺の大好きな人の名前を呼んだ嫌な声が聞こえてきた。
つい、声が聞こえてきた方を向くと男と一緒にいる千鶴ちゃんが目に入ってきた。
「千鶴!早く!」
「なんであんたがそんなに…」
「焦らなくてもまだ間に合うから大丈夫だって。」
嫌な光景に目を逸らすと隣にいる優ちゃんにも男の声が聞こえてきてたようで、話題に出される。
「あれ、会長と副会長じゃない?」
「…え?」
「チャイムなったあと生徒会長が副会長呼び止めて、確かすぐ帰らないでね的なこと言ってたけど、一緒に帰るから先帰らないでって意味だったんだ!
そういえば、友達に聞いたんだけどね、あの2人って付き合ってるかもしれないんだって!もしカレカノ同士だったら会長と副会長でなんか運命的だよね!
あの2人お似合いだな〜幼なじみだとか付き合ってたけど別れたとか色々噂されてるけど美男美女同士だから噂が立つのもわかるよね!
なぜか私がキュンキュンしちゃうよ、憧れだな~♡」
「って!ごめん、つい話しすぎちゃった!れ、恋愛のことになるとつい止まらなくなっちゃって!」
隣でマシンガントークをする優ちゃんが何か言ってるけど、俺が越えられない距離感を、目の前で見せられてもどかしくなる。
用事ってあの男とのことだったんだ。
噂なんてとっくのとうに知ってるし、その隣に俺がまだ立てないのも知ってる。
急激に心が冷えた気がした。ほんの十数分前まで俺が彼女と喋っていたのに、当たり前のように隣にいる彼が心底羨ましい。運命ってなんだよ。そんな簡単に言わないでくれ。
「…玲唯くん?」
「あ、あぁごめんごめん。確かに、色々と噂立ちそうだね。でも事実かも分かんないでしょ?だったらあの2人にとっては迷惑かもしれないからお似合いとか付き合ってそうとかあんまり言わないほうがいいかもね。」
「あ、うん。そ、そうだね、気をつけるよ。」
少し冷たい言い方だったかな。でも、俺が恋しくてたまらない人と別の男が付き合ってるかもだなんて言われたら冷たくもなる。
はぁ。人に八つ当たりとか、俺だっせぇな。
千鶴ちゃんに彼氏がいるか、彼氏が副会長かだなんてすぐに聞けるのに。
ここでも、俺はいくじなし。
***** ***** *****
「千鶴!早く!」
「なんであんたがそんなに…」
「焦らなくてもまだ間に合うから大丈夫だって。」
放課後、久遠が焦ったように腕を引っ張って帰ろうとする。
用事があるから、そのために早く帰ろうって言ったのは、私だけど何もそんなに急がなくてもいいのに。
靴もまだちゃんと履けてないし、このバカ。
まあそれも久遠の優しさだと知ってるから、別に咎めることはしないけど。
それはそうと、
「それより久遠、生徒会優先って言ったよね」
「委員会の役職と生徒会の役職、掛け持ちできるとはいえ、副会長なんだから気をつけてよね。
委員長と副会長掛け持ちするのは大変だと思うけどさ」
「ごめん、委員長になれたらすぐ来るつもりだったんだけど山田も立候補しやがって。それに荒井が“お前は副会長もやってるから委員長もやると大変だろ”とか言ってくるしで、なかなか決まんなくて。勝てた喜びで忘れてたわ。」
生徒会に遅れてきたことを咎めれば、それらしいことが返ってくる。
別に怒ってるわけではないんだけど、なんかこう生徒会長としての威厳というか……やっぱり一年生との最初の生徒会だからシャキッとして欲しかったなぁ。それに、生徒会室入ってきた時も、忘れてただけじゃなくてもうちょっとちゃんと弁明すればいいのに。
絶対一年生にこいつが副会長で大丈夫かって思われてる。全然そんなことないのに。
まあ、確かに去年も久遠と山田で役職争いしてたっけ。女子は体育委員に立候補する人少ないのに、なんでこいつらはこんなに体育が好きなんだか。特に体育委員は大変だろうに。
久遠って意外と動くの好きだよね、体育なんてサボろうぜって言う側の顔してる割には。
それに、各委員長に対して伝えたいことがあるとき久遠が委員長だったら少し楽になるからいっか。
「副会長なんて生徒会長に比べたら忙しくないのにな」
「そんなことないでしょ。十分忙しいって。まぁ、私も色々手伝ってもらってるし、今回、遅れてきたことは多めに見よう。副会長様?」
「はいはい、スーパーの特売と糸のお迎えだっけ」
「うん、今日はお母さん帰るの遅いから私が行かなきゃ。ごめんね。付き合わせちゃって」
「別に幼なじみなんだし気にすんなよ。それにお前をサポートするのが俺の役割だしな、生徒会長様」
なんてさっきの私の言い方を真似して、ニヤついきながらこっちを見てくる。
幼なじみとは言え、こっちの家庭のことに色々と付き合わせてしまっていることに申し訳なく思う。でも、私が迷惑かけるからと離れたり、頼るのをやめたりすると、この男は、まるでそんなの関係ないとでも言うように、当たり前に隣にいて、手を差し伸べてくる。
こっちが逆に助けられているんだけど、それを伝えるのは癪だから言わないでおく。
「生徒会長関係ないでしょ、もう。」
「はぁー。妹、弟の面倒に家事にバイトに勉強に、大変だな」
「そんなことないよ、それに久遠ん家も面倒見てくれてるし本当ありがたいよ。」
久遠のママと私のお母さんが、中学か高校からの同級生だとかで昔から親交があって、家も隣だからって色々と支えてくれてるんだよね。
久遠も時間が合えば、こうやって妹のお迎えに一緒に行ってくれたり、スーパーの特売日には荷物持ちしてくれたり、何かと助かっている。
「お前んとこの母親とうちの母親昔から、ほんっと仲良いからな。今日は?家来るか?」
「今日は大丈夫。明日バイトあるから明日任せてもいいかな?琉唯と糸も久遠に懐いてるし」
「もちろん」
弟妹どもは、本当に久遠のこと兄だと慕って、時には実の姉でさえ蔑ろにするときがある。なんて冷たいやつらだ。
まあ、そんなでも愛らしい家族なんだよね。
一旦ここで一区切りとします。
次回からは本編を補完するおまけエピソードを投稿していく予定です。(まだ準備中のため、投稿時期は未定です…)
読まなくても話の筋には影響ありませんが、読んでいただけると「あの時こんなことがあったんだ」と物語をより深く楽しんでもらえると思います。
ですが、本当におまけ程度です!
補完エピソードがひと段落したら、第六話以降を投稿していく予定ですが……まだ構成段階にも入れていないので、のんびり気長にお待ちいただけたら嬉しいです。
※一部修正しました。5/3