第一話 少女漫画と入学式
春、それは出会いの季節。
そう、出会いすなわち恋愛。
恋愛すなわち少女漫画。
私! ちょっぴり少女漫画に夢見る女の子!
最近読んだ少女漫画は、散歩をしてたら落とし物を拾い、落とし主であるイケメンと出会い、たまたま高校が一緒で運命的偶然が重なり2人は恋に落ちていく♡という少女漫画でよくあるたまたま偶然出会い、『あ、あの時の!』となるやつだ。
現実にそんなことあるわけないと思いつつ……夢を見てしまう。だって可愛らしい乙女だもん。
私が少女漫画にハマったきっかけは特に仰々しいものでもない、物心ついたころから少女漫画が身近にあったから。それだけ。
少女漫画は最高だ。なぜって?
私は生まれてからずーっと普通の人生を歩んできた。顔、普通。身長、平均。体重、平均。
朝起きて、制服着て、電車に乗って、授業を受けて、たまに寝て。
帰ったらおやつを食べながら少女漫画を読みあさる――そんな毎日。
特に大きな事件もなく、目立つこともなく、ものすごいバカでも天才でもなく、ものすごい運動音痴でもものすごい運動神経がいいわけでもない、学力も運動も中の中。
通知表のコメントはだいたい『明るく素直な性格です』だ。
【いい子】 それ以上もそれ以下もない。
でも少女漫画の中の女の子はみんなキラキラしてて可愛くて綺麗で憧れた。眩しくてドキドキして、素敵な恋愛を見てきたら憧れちゃうのも無理ないでしょ?
私みたいな普通の女の子が夢見るには充分だった。
ちょっとだけ夢みがちで、少女漫画を読んでは「運命の出会い」に憧れて、勝手にドキドキして、勝手に撃沈するタイプ。
中学の時は少女漫画に憧れつつも何も行動できなかった。でも今日からは違う、少女漫画みたいな展開を期待して素敵な恋愛をする。それを夢みて受験だって頑張って特進科に入ることができた。
私、ずっと信じてたんだよね。
きっと、どこかに運命の王子様がいるって。
そんな期待と妄想……もとい夢を胸に春の匂いがする通学路。今日は高校の入学式だ。
おろし立ての匂いがする制服、膝よりちょっと短いスカート。
桜がわずかに風に散って、ピンク色の花びらが舞い落ちる光景は、まさに少女漫画の世界。
蒼嶺高等学校入学式という看板がさらに引き立てる。
入学式といえば少女漫画の定番だよね! 運命的な出会いしちゃうのかも〜!
って!! あの桜が舞う春の爽やかな空気の中で一際輝く金髪は!
あのときのイケメンじゃん!?
視線はその人に釘付け。まるで金色の糸が引っ張っているかのように、目が離せなかった。
私の頭の中であのときの回想が巡る。
そう、あれは2週間と2日前のこと。
読んでた少女漫画に影響されて、気まぐれに散歩してたときのことだった。
なんか少女漫画みたいな展開来ないかな〜とルンルンで散歩してた、私の目の前でハンカチが落ちた。この道には前を歩いてるすっごい綺麗な金髪の人と私以外いなかったので、金髪の人のものだと思って声をかけようとする。
外国人かな? なんて疑問に思いながらも、さっさと渡して別の道にそれよう。渡したあと、なんか気まずいしと考えていた。
「あの! ハンカチ落としましたよ!」
私の声に、彼は一瞬立ち止まる。肩越しにこちらを確認すると、ゆっくりと体ごとこちらを向いた。
「え、あぁ……ありがとうございます!」
その瞬間、時間が止まったように感じた。
いいい、いいイケメン!! ものすごくイケメン!
笑顔が爽やか! 素敵! 落とし物に目がいって気づかなかったけどものすごくイケメン!
犬の散歩してる。ハンカチ持ってる。イケメン。
家の近くにこんなイケメンいたっけ!!!!! 初めて見た!!!!!
思わぬイケメンに脳が焼かれ始める。
語彙力を失うっていうのはこういうことか……もはや最後の方、なんでもイケメンに感じているし。ハンカチ持ってるってなんだ、と自分でツッコんでしまう。
待って、これ! 少女漫画でよくある落とし物拾った数日後にたまたま偶然出会って恋愛に発展しちゃうやつじゃないの!?
なんて妄想しちゃうくらい、少女漫画脳に染まった私は舞い上がっていた。
その間に、目の前のイケメンは目の前から去ってしまっていた。
と、まあ私の中でよくある回想が終了したところで現実に意識を戻す。
2週間と2日前の私はそう考えていたが、まさか本当に出会っちゃうとは!
そう少女漫画のよくある展開の通り、落とし物を拾って、拾った相手があのイケメンだったというわけ!
あ、コサージュつけてる…ってことはあの人も新入生ってことだよね。
つまり、今日から同じ高校に通うってこと。現実味を帯びた“運命”が、少しずつ私の中に形を成していく。
あの人と同じクラスだったらいいな……。
*****
出会いと別れの季節とはいうが、同じ高校に入学した中学からの友達とクラスどころか校舎が離れたことによるちょっとした別れを済ませ……新しい教室に【出会い】を期待をする。
ドキドキしながら扉を開けて教室に入る。一番最初に目に入ったのはあの綺麗な金髪。
奥側の席にも関わらず、それにしか目がいかなかった。まるでライトに照らされているかのように、彼だけが際立って見えた。
窓際で後ろの席といえば少女漫画でよくあるやつだよねー♡
そしてその隣は……
わ♡た♡し♡ きゃー!
なんていうことにはならず、普通に前の方にいたから目に入っただけである。
はあ、前の席か……現実はやっぱり非情だ。なんでがっかりしているかというと、私の名字は山本。あいうえお順だったら後ろの方。つまりものすごく離れてしまった!!
ここで隣の席になって、『あ! 数日前、落とし物拾ってくれた人だ』的な展開は消え去ったわけだ…くそ! 期待した! ものすごく期待した!
まあそんな上手い話あるわけないよな〜と思いつつ自分の席を探す。
えーっと、私の席は……っと。山本だから後ろだよね。
案の定後ろの方にあった席に座り、ちょうど斜め前にいる例のイケメンくんを見つめる。意識は斜め前の彼に向いたまま。彼の横顔が、どうしようもなく素敵に見える。一目惚れとかそういうのではないけど、顔がいいから見つめたくもなる。
あ、後ろの女子に話しかけられてる。
いや〜分かるよ? イケメンだもんね。そりゃ話しかけたくなるって…うんうん。
って隣の席の男の子にも話しかけられてるじゃん、みんな声かける勇気があってすごいな。
私もあのイケメンくんと仲良くなれるといいな〜。
ん! あのイケメンくん、人と話すときちょっと首を傾げるんだ……優しい雰囲気更に増し増しじゃんメローい♡
相手の目も見てるし…今の仕草!ずるすぎ。
あ、女の子の方落ちたな。
心の声が大はしゃぎする。
分かる分かるよ、かっこいいもんね。でもちょっぴり羨ましいな。私もあの席だったら、隣だったら。
高校生になったし中学の時とは違う、それこそ少女漫画みたいな展開があると思ったんだけどな。
なんて、体育館に移動する間もそんなことを考えていた。ありもしないことを夢見ていたら、いつの間にか入学式が始まっていた。
あいも変わらず、頭の中で妄想を繰り広げる私に話など何一つ入っちゃいない。
「在校生代表挨拶、如月ーー。」
うわーすっごい美人。
目に入ってきた女の子にあまりにも浅い感想が出てしまった。私はナンパ師か。
それ以上特に思うこともなく、美人だなーと思いつつも頭の中でこれからのことを夢見て話は入ってなかった。そのとき、
「新入生代表挨拶、一ノ瀬玲唯」
一気に現実に引き戻された。
新入生代表挨拶って誰がやるんだろうと、壇上に目を向けたときだった。
って!! あのイケメン! 新入生代表挨拶って確か首席の人がやるって噂の…頭も良いの!?まあ特進科だからそりゃそうなんだけどね。『一ノ瀬れい』って言うんだ。名前からしてかっこいいな。
爽やかで優しい声……ずっと聞いていたい♡
原稿を見る伏し目が素敵♡
あ、こっち見た。
バチっ
ん?今……目合った?。い、いやいや……気のせい。だよね?
そう、気のせいかもしれない。でも視線が合ったような気がして、心臓が跳ねる。
だってこんな沢山人がいるなかで、たまたま私と目が合うって向こうも覚えててくれたりしてるのかな。
これ勘違いしちゃうよ……。
ちょっとだけ、期待しちゃっても良いのかな。
だって、春は恋の始まりって、少女漫画で読んだから。
読んでくださりありがとうございました。
本格的に小説を書くのはこれが初めてなので、お手柔らかにお願いいたします。
5話までは執筆済みです。以降は執筆の進み具合にあわせて更新していく予定です。
誤字脱字等あればご指摘ください。