スライムを狩りに
そんなこんなで、俺たちは魔王軍の残党と呼ばれる、闇の魔力を纏ったモンスターを倒しに行くことになった。
今回はスライムだが、それでも皮膚が溶けたりするらしい。
勇者の剣と魔力じゃなければ倒せないとかいうそのモンスターに、俺は塩一袋で対抗すると言ってしまった。ほら、あるじゃん。塩でスライムが溶けるみたいな動画。あれ? 無い? じゃああれだ。ナメクジとか倒すじゃん。塩で。あと浄化作用的なので闇の魔力も浄化!みたいな。
というか、勇者の剣と魔力でしか倒せないなら俺がいなくてもいいのでは。
そもそも勇者パーティーの呪術師とは。まぁどうせ夢だし良いんだけどさ。夢にしてはリアルすぎるし脈絡もあるけど、今はまだ、これは夢だ。
屋敷を出て、衛兵と挨拶を交わしながら城壁門をくぐる。今日だけで1週間分は歩いた。どうしてルーナはそんなに元気なんだろう。さっきまで甲冑を着ていたのに。
「痕跡発見! 近くにいるよ!」
ルーナが遠くを指して勇者の剣に手をかけた。……見えない。どんだけ視力いいんだ。俺1.2だぞ。
直後、黒い塊が超特急で襲い掛かって来た。これがスライム。黒い塊は俺の背丈くらいで、移動のたびに3倍くらいに膨れ上がる。
「なんだっ!?」
「魔王軍の残党は本能的に勇者を狙います。やっかいなのが弱いモンスター。相打ち覚悟……なんて意思も無いまま突っ込んできますから。」
「倒さない方がいいよね。ヒロトの初陣だから……きゃっ」
「おねえちゃん!!」
鞘に収まったままの剣を振るおうとして、ルーナが転んだ。足元には緑色のスライムが。これを踏んだのか。つんのめって黒スライムに飲まれた腕の、袖がじわじわと溶けていく。そのまま剣を避けるようにルーナの身体が覆われて──
「結果オーライ! 引き付けたよ!」
無茶だ。出会ったばかりの男のうわ言を信じて。こんな危険な目に遭って。俺は言葉を飲み込んで塩の袋を振り撒いた。