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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

老兵は黙って去る

作者: ドラキュラ

昼飯を食べ終えて、俺は一人で事務所のデスクに足を預けて眠っていた。


昼飯に食べた鰻のかば焼きが何とも言えない程の美味で、食後の昼寝が格別に思える。


「・・・相変わらず昼寝をしているな」


上から声がして、眼を細めて開くと初老の男が立っていた。


「何の用だ?俺は、午前中と休日は仕事をしない主義なんだけど」


「そう言うな。わしとお前の仲だろ?」


「男と仲良くなった覚えは無い」


俺は眼を閉じて、眠りに着こうとした。


「仕事だ」


「俺は引退した身だ」


もう裏の仕事はしないと決めた。


「そう言うな。引退した今でも、お前の腕は鈍っておらんだろ?」


「馬鹿言うな。もう老兵の出番じゃない」


コーンパイプがトレードマークの男が、「老兵は黙って去る」と言った。


その通り、俺も老兵の身だから黙って去ったんだ。


「何を言うか。まだ行けるだろ?」


「とにかく仕事はお断りだ」


「そうもいかんのじゃ。もう向こうは来ている」


男が言い終わると同時にドアを蹴破られる音がした。


「うご・・・・・・・・」


「・・・・ドアを乱暴に開けるな」


俺は、コルト・ディクティブスペシャルの銃口を、ドアを蹴破って来た男に向けながら叱った。


「ほれ見ろ。まだ腕は鈍っていないではないか」


「これは表での仕事用だ。裏の方は、もう捨てた」


「それなら安心しろ。直ぐに代わりは用意する」


「まだ受けるとは言ってないぞ」


「成功報酬は500万で、どうだ?」


「んな端金は要らん」


「では、1000万でどうだ?」


「金を積まれてもやらん。その男を使えば良いだろ?」


「馬鹿を言うな。こんな男、弾避けにもならん」


言われた男は、明らかに不快感を示したが、それは俺も納得していた。


あの男、背広の中に入れる時点で、もう死んでいる。


あれでは弾避け所か、的役にもならないな。


「なぁ、頼む。依頼を受けてくれ」


「だから、嫌だと言っているだろ?」


「何でそんなに嫌がる」


「とにかく断る。そう言うなら、あんたがやればいいだろ?」


「か弱い老人に死出の旅へと出ろというのか?」


「何がか弱いだ。未だに女相手には現役のくせして」


「女子が相手なら歳を取ろうと現役だ」


「歳を取れば取るほど、始末が悪いと言うが、あんたの為にあるような言葉だな」


「ほざけ。とにかく受けてくれ」


「・・・・・・・・・・依頼内容は?」


ここまでしつこいと流石に俺もへきへきしてきた。


「受けてくれるのか?」


「内容による」


「ふむ。依頼内容は、ある男を消して欲しいんじゃ」


「誰だ?」


「この男だ」


爺は懐から一枚の写真を取り出して見せた。


「確か現役の国会議員で与党の大物じゃないか」


「うむ。そ奴の頭に鉛玉を撃ち込んでくれ」


「それ位なら、俺じゃなくてもいいだろ」


「最近は組織の力も衰えた。主のような男に頼む方が確実だし、金も無駄にならん」


「とか何とか言って、ローン・ウルフの俺だから誰にも迷惑をかけないと思っているんだろ?」


「それもあるな。主は、一匹狼。死んでも誰も悲しまないし、こちらも下手に詮索されずに済むからな」


「それが一番の理由だな?」


「まぁ、否定はせん」


「1億だ」


「大きく出たな」


「それくらいなら退職金としてはちょうど良い」


「ふむ・・・・・・・」


爺は暫く黙っていたが、直ぐに後ろの男に眼で合図をした。


男が、静かにドアの外に置いていたジュラルミン・ケースを持ってきて、俺のデスクの上に置いた。


開けてみると中には、1億の現ナマと中古品と思えるマカロフPMが入っていた。


暴力団が抗争の時なんかに使う代物で、俺らみたいなプロの間では敬遠されている。


「それで、奴を殺してくれ。銃は残しておけ。警察に暴力団との諍いなどに見せかけるんじゃ」


「ふん。まぁ良い。それで期日は?」


「今から4日間」


「4日間と言う事は、奴がアメリカに視察に行く前に殺せと?」


「うむ」


「分かった。ただし、今回だけだぞ。もしも、また来たら今度はあんた等の頭に鉛玉をぶち込む」


「解かっておる。それでは、ローン・ウルフよ。成功を祈る」


爺は男を連れて、事務所を出て行った。


「・・・・成功を祈る、か。本心から言っているんだか」


俺は狸の腹黒さに眉を顰めながらラッキー・ストライクを取り出して銜えた。


何とも言えないが、嫌な予感がする。

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俺は、議員が新宿で愛人と落ち合うホテルのロビーに椅子で座り煙草を蒸かしていた。


情報が正しければ、後10分ほどで奴が一人で来る筈だ。


「・・・・・・・・」


今日が3日目。


期日までは1日ほどあるから、十分な余裕だろう。


煙草を1箱、吸い終える頃に奴が着た。


背広姿で、誰も居ない。


ここら辺は情報通りだ。


愛人は、ホテルの4階で待っている。


俺は先回りをする事にした。


階段を登り、4階に行く。


非常階段のドアが開いている事を確認してから、身を隠す。


エレベーターから議員が出て来た。


「・・・・・・・・・・・」


静かにマカロフを取り出して狙いを定めた。


『悪いな。これも仕事だ』


俺は、引き金を引いた。


議員の頭に鉛玉は食い込み、血を噴き出して倒れた。


銃声を聞いて、部屋にいる奴らはドアを強く抑える音が聞こえた。


素早くマカロフを床に置いて、非常階段から降りて姿を消した。


『これで、引退だ』


俺は、1億を手に入れたら早々に日本を去り、何処か別な国に高跳びしようと思った。


その時だった。


後ろから強烈な痛みに襲われたのは・・・・・・・・・・・・


チラリと後ろを見れば、遠くから光ったのが分かった。


『狙撃か』


一体、誰が・・・・・・・・?


しかし、そんな事を考えるのは後だ。


先ずは逃げるのが先だ。


俺は非常階段を下りて急いで人混みを別けて路地裏へと消えた。


「くそっ。いきなり撃ちやがって」


罵り声を上げながら俺は、馴染みの藪医者の元へと急いだ。


血は未だに流れ落ちて止まらない。


だが、骨は折れていないし貫通はしている。


恐らく一発で俺の頭を貫通させるつもりだったんだろう。


「・・・この俺を殺そうとしたのを後悔させてやる」


俺は、歯軋りをしながら藪医者の元へと足を運び続けた。

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「相変わらず、お前の悪運には参るぞ」


俺の左肩に止血止めと包帯を巻きながら、藪医者はぼやいた。


「へっ。悪運が強いからこそ今まで生きて来れたんだよ」


不敵に笑い返す俺に医者は呆れながら、包帯を結んだ。


「それで分かったのかい?」


俺は煙草を銜えながら医者に聞いた。


「ああ、調べて置いたぞ。どうやら、相手は・・・・・・・・組織のようだ」


「組織が?」


何で組織が俺を殺す必要があるんだ?


「ここの所、業績が不振で客足が途絶えているんだ。それで、お前を引き戻して昔のように戻ろうとしたんだ」


「それで、俺は断った」


だから、仕事をさせてから殺して名を上げようとしたという事か。


「まぁ大体、そんな所じゃろうて」


医者はジンをボトルごと飲みながら頷いた。


「ちょっと傷の手当て以外にも手を貸してくれないか?」


「何じゃ。厄介事か?」


「まぁな。金は払う」


「言ってみろ」


医者は金と聞いて眼の色を変えた。


人間なんて金でどうにでもなると思わずには入られなかった。

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俺は、傷が癒えた頃を見計らって組織のアジトへと突入する準備をしていた。


「この俺を殺そうとしたんだ。後悔させてやる」


テーブルに置かれた銃器を見て笑う。


1億の現ナマで用意できるだけの銃器を取り揃えた。


お陰で半分に減ってしまった。


更に医者の代金も考えると手元には2000万ほどしか残らない。


「こうなれば、退職金を貰いに行かないとな」


長年、働いてきたんだ。


退職金を貰っても罰は当たらない。


テーブルの上に置いてあるベレッタM92FSを持ち上げて、スライドを引いてセフティを外した。

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「やれやれ。またここに来る羽目になるとは・・・・・・・・・・・・」


目の前にある巨大なゴミ処理所。


ただのゴミ処理所と思うだろうが、ここが組織のアジトだ。


「処理する場所に困らないのは、有り難いが」


俺は煙草を銜えて、シガー・ライターで火を点けて車のエンジンを始動させて門に向って急発進した。


何処かの駐車場で止まっていたワゴン車で盗んで来た物だ。


門を突き破り中に入ると、幾多の銃弾が襲って来た。


俺は頭を伏せてドアから素早く抜けた。


近くの廃車に隠れてM4カービンを乱射した。


廃車に向かって銃弾が浴びせられる。


しかし、まったくと言って良い程に俺の傍に当たらない。


「こんなに下手な奴らじゃ商売も上がったりだな」


俺が居た頃は、まだプロがいたが・・・・・・・・・


「やれやれ。少し金を使い過ぎたかな」


こんな奴らが相手なら、もう少し装備を少なくしても良かった。


溜め息を吐きながら、俺はM4カービンを乱射して素人を殺した。


M4カービンを乱射しながら処理場の中へと進み、素人を殺し続けて弾が無くなる前に新しいマガジンに交換する。


奴らは俺が一人で来ているのを信じられない顔で見ていた。


必死な形相で銃を撃つ素人。


持ち方からなっていない。


「やれやれ。てめぇ等、射撃の訓練からやり直せ」


俺は素人に鉛玉を入れてやりながらぼやく。


社長室と書かれているドアを蹴破る。


そこには、爺がいた。


「・・・・退職金を貰いに来たぜ」


「1億では、不足だったか」


「あぁ。1億で俺の命は安すぎるぜ」


せめて後4億ほど追加して欲しいものだ。


「それは失礼したな。で、どうかな?我が構成員の腕は?」


「あんな素人が社員とは呆れるぜ。俺が居た時より劣っている」


「・・・・お前が、組織を抜けたのを機に我が組織は、落ちた」


新しい組織の力やサービスなど旧来の会社には無かった物を売り物に勢力を伸ばしたと言う爺。


「それで俺を引き戻そうとしたのか?」


「あぁ。貴様が戻れば、また勢力を挽回できると思ったんだ」


しかし、俺が断った。


「お前が断らなければ、こんな事にはならなかったんだがな」


「冗談を言え。退職した社員を無理やり戻そうとするなんて、馬鹿な事だ」


「確かに。貴様を狙撃させようとして、失敗した時点でわしは負けていたな」


「1億を渡しただけなら良かったのにな」


「まったくだ・・・・・・・」


爺は、笑いながら拳銃を抜いた。


俺がかつて愛用していたS&W M19だった。


「それは、俺の」


「あぁ。お前の使っていた物だ」


爺はM19を弄びながら話を続けた。


「これをお前が捨てた時点で、わしの人生も終わっていたかもしれないな」


爺は銃口をこめかみに当てた。


「金は金庫にある。全部、退職金として持って行け」


「有り難く貰うぜ」


「あぁ。では、地獄で待っているぞ」


爺は引き金を引き、死んだ。


「老兵は消える。・・・・・・・引退する筈なのに死にやがって。馬鹿が」


俺は短くなった煙草を捨てて金庫に行き、金を袋に入れた。


「・・・じゃあな。社長」


俺は、爺に別れを告げて社長室を出て行った。


ゴミ処理場の中を歩いていると、一人の娘が蹲っていた。


「・・・・た、助けて・・・・・・・・・・」


娘は、足から血を流していた。


「・・・社長は退職した。お前も新しい職を探しな」


俺は金を幾ばくか娘に渡してゴミ処理所を出た。


ワゴン車に戻り、金が入った袋を後部座席に放ってエンジンを掛けた。


発進させようとした時、助手席が開き先ほどの娘が乗って来た。


「何の真似だ?」


「私を連れて行って」


「あ?お前を?」


「社長の遺言」


目の前に紙を差し出してきた。


よく見ると、爺の筆跡で書かれていた。


『わしが死んだ暁には、社員は自分のままに生きろ』


「これがどうした?」


「私を撃ち、金を持たせてくれた。私、貴方に付いて行くわ」


爺が自分のままに生きろと言うなら、俺に付いて行くと言う娘。


「冗談を言うな。俺は子守り屋じゃない」


「良いじゃない。相棒が必要でしょ?」


「相棒なんて要らない。俺は引退したんだ」


「じゃあ、どうするの?」


「さぁねぇ。どっかに行く」


「私も連れて行ってよ」


「断る」


「良いじゃない。それより速く行かないと警察が来るかもよ?」


言われて耳を澄ませば、サイレンの音が直ぐ近くまで来ている。


「ちっ。分かった。ただし、ここから逃げるまでだぞ?」


「了解。兄貴」


「勝手に兄貴と呼ぶな」


胸糞悪い気分で俺はワゴン車を発進させて、ゴミ処理場を後にした。


最後まで俺に迷惑を掛けやがって・・・・・・・・・


爺・・・・地獄で待ってな。


ミッチリと説教を後でしてやるからな。


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[一言] うーん 女付き退職金か うーん僕も嫌かも なんかめんちい事付いてきそう 関西神戸の人間です。
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