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ハイスペック転生  作者: flaiy
一章 学園編

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クエスト実習6

 ──不味まずい、やられた。


 口の中に、血の味が広がる。回復しようにも、ボクはりょくかんをやられてしまった。それだけじゃない。き腕である右腕と、利き足である左脚もだ。まるで、ボクが戦うために必要な所をねらったかようだ。


 他の面々も、それぞれ急所や戦闘の際に用いる身体の部位をつらぬかれているみたいだ。


「うぐっ……!」


 貫かれた場所に、さらなる痛みが加わる。身体の支えが無くなって、あしに力が入らず、そのまま前向きに倒れる。どうやら、身体を貫いていたものが抜けたらしい。つまり、出血を防ぐものが無くなったということ。


 このままじゃ、全員出血多量で死ぬ。でも、ボクは回復出来ないし、カルミナもイセリーもどうようだろう。アトラとエニアスは言うまでもない。


 逃げなきゃ。そう思って、身体を起こそうとする。血がぞうから食道や気管を通って口へといたり、すでに赤に染まった地面を更に赤くする。


「ぅ、ぐ……みん、な……カルミナ……!」


 ふっと意識がうすまり、せっかく起こした身体がまた地面と面する。口の中も、くうも鉄で満たされる。


 ボヤける視界の中で、ボク達を囲んでいたかべが崩れていく。恐らくカルミナが作ったのであろう壁が消えたことは、カルミナが意識を失ったことを意味している。


「く、そ……バケモン、が……」


 崩れ去った壁が作った土の山の向こう、禍々(まがまが)しい雰囲気をかもし出している巨木が、見下すようにたたずんでいた。その周りには、いくつもの武器や防具、衣服が散らばっていた。


「そう、だ……ピクシル……!」


『……ごめん、ここじゃ私は回復出来ない』


「な、ん……」


 もう、すべはないか。


「クロナ、回復急げ!」


「任せて!」


 誰か、来たのか?


「お願い、間に合って!」


 やわらかく包み込むような声が聞こえた。直後、身体をあたたかい何かが本当に包み込むような感覚がして、灰色がかった輝きが全身にまとう。ボクだけじゃない。カルミナにアトラ、エニアス、イセリーと全員がだ。


「動けるか?」


「……はい、何とか」


 回復魔法だったのだろう。致命的なダメージだけだが、りょうされていた。いや、どちらかと言えば、攻撃を食らう前に戻った、だろうか。


「ここは俺達が引き受ける。君と……そっちの少年は動けそうだな。意識を失っている三人を連れてここから逃げろ。後ろへぐ行けば、フェルメリアへ抜ける」


「どなたか分かりませんが、ありがとうございます……エニアス、アトラをお願い!」


「ああ!」


 カルミナとイセリーをかかえて、エニアスがアトラを背負うのを見届けてから、こくの青年の指示通りの方向へと逃げる。


 回復したいところだが、残念ながら魔力器官にまだダメージが残っている。無理に魔法を使って、動けなくなる方が致命的だと判断して、ここは逃げにてっする。


 エニアスと言葉をわすこともなく、そのまま血をしたたらせながら痛みに耐えて十数分走り続ける。酸欠と低体温症で意識を失っていた頃のダメージもまだ回復出来ていないから、今にも意識を飛ばしてしまいそうだが、根性でこらえる。


「っ、外だ!」


 密度の増した木々の間から光が差し込み、残りわずかな体力を振りしぼって走り抜ける。


 実は森の出口ではなかった──などということはなく、ちゃんと森から抜けられた。ひざから崩れ落ちて、抱えている二人が頭を打たないように気を付けつつ寝かせてから、ボクもその場に四つんいになってあらい呼吸を繰り返す。


 ──エニアス、は……?


 めいりょうとぼやけをおうふくする視界の端で、エニアスもアトラの横で倒れているのをとらえる。腹部の服に赤い染みが再び拡がり出し、不十分な回復だったからここまで逃げている間に、傷が開いてしまったのだとさとる。かく言うボクも、一度は閉じていた傷がまた広がって、出血を再開していた。


「回復、しないと……逃げられたのに、死ぬ……!」


 口の中にまた拡がっていく血の味を無視しながら、まずは魔力器官の回復に取り掛かる。


「ぐっ……!」


 鳩尾みぞおちの奥辺りに、するどい痛みが走る。魔法を使おうとして、魔力器官の傷が酷くなってしまったみたいだ。この調子じゃ、魔法はとても使えない。


「クソッ、誰か……!」


「こりゃあ、ひどい傷ですね。致命傷は回復してるみたいだけど、出血が酷い……って十分、いや五分でしょうか?」


 誰かが、頭上で何かを言っている。身体の向きを変えて見上げるも、めいりょうな視界で黄緑の髪と白い肌のさかいを見分けることすら難しい。


「未来のAランク冒険者と名高い火炎大蛇カエンオロチさんも、ここでおしまいでしょうか……ふふ、実になさけなくて、みっともないさいですね……よかったら、回復してあげましょうか?」


 何かあおられていた気がしたが、回復という言葉を聞いて薄れていた意識がよみがえる。


 話し掛けてきているその人のがいとうつかみ、声にならない声で訴えかける。


「おねが……ますっ、回復を、皆の……回復……してくださ、い……!」


「……自分が一番危険だと言うのに、仲間を優先ですか。あの人が興味を持ったのは、こういう所なんですかね……分かりました、してあげます」


 回復してくれる、という発言を聞いて、安心からか即座に意識が遠のいて行った。


 ──どれだけ、眠っていたのだろう。


 いつの間にか、ボク達は冒険者ギルドの一室に寝かせられていた。全員治療されており、服まで元に戻っていた。


「お、起きたか」


「……あなたは、さっき助けてくれた黒い人」


「黒い人って……」


「実際黒いじゃない」


 ボクが横になっていたベッドのとなりのベッドに、椅子に座った黒い人と、回復をしてくれたのであろう赤と白のローブに身を包んだ女性が、先に目をましたらしいエニアスと話をしていた。なんとなく前世の記憶をチクチク刺激してくる見た目だが、今は状況を整理したいからその感覚は無視する。


「あの、先程はありがとうございました。正直、死ぬと思っていたので……」


「いや、本当に生きててよかったぜ」


「ちゃんと回復出来てなかったから、森を抜けられているか不安だったの。それに、あのダメージを回復出来る程の魔法使いがこの街にいるかも不明だったし……」


「あ、えと……」


 そう言えば、回復してくれた黄緑髪の人はいないな。てっきり、あの後も様子を見てくれたのかと思っていたが。


「なんか、通りすがりの魔法使い……みたいな人が、回復してくれました」


「いい奴も居たもんだな」


「それでその、失礼ですが、お二人は……」


「お前、知らないのか?」


「あ、いや、しんじゅと対面してここに居るんだから、実力者なのは分かるんだけど……あんまり、街の外のことは知らなくて」


 エニアスが「マジか」と言いたげな顔をしているので、あわてて言い訳をべる。まあ、大した言い訳にはなっていないだろうが。


「この二人はAランクパーティ『時空のり人』の二人だ。剣士の方がアスターさんで、魔法使いの方がクロニーナさん……以前、きょうじゅう殺しの話をしただろう?」


「凶獣……あ、ああ! あの二人か!」


 そう言えば、夏休みにした話で出て来たな。ぼうゲームが舞台のラノベの主人公とヒロインのコスプレをさせた時に、この二人と装備が似ているって話になったんだっけ。そうか、さっきから感じてた既視感は、それか。


「ども、『時空の守り人』の一応リーダーやってる、アスターだ」


「メンバーのクロニーナです。よろしくね、プロティアちゃん」


「あ、はい、よろしくお願いします……ボクのこと、知ってるんですね」


「一時期、話題になっていたからな。現役の冒険者で知らない奴は、ほとんど居ないんじゃないか?」


 そ、そこまで名が広がっているのか。あんまり目立ちたくないから、やめて欲しいことこの上ないんだが。


「えっと、プロティアって呼び捨てしていいか?」


「あ、はい、どぞ」


「ありがとう。俺のこともアスターでいい。敬語もいらないよ。……さて、自己紹介はこの辺にするか。な、オッサン」


「いい加減その呼び方をやめろと言っているだろう、アスター」


 アスターがオッサンと呼んだギルマスのキリオストが、奥の椅子に深く座ってあきれた声で答える。このこわもてなギルマスにオッサン呼びが出来るとは、かなりきもわった人だ。


「……神樹の件、お前らはどう思う」


「正直、正面突破は無理だと思う。俺達で色々と攻撃を試してみたけど、樹皮に傷を付けるのがやっとだった」


「火魔法も、大して効果はありませんでした。それと、幾つか攻撃手段もあって、その一撃は……一度でも受けたら、致命傷足り得ると思います」


 ボク達に視線を向けたのは、実際にその攻撃を受けたちょうほんにんだからだろう。もしかしたら、話題に出すことで、痛みだったり恐怖だったりを思い出さないように、はいりょするかを迷ったのかもしれない。


「ふむ……レイドを組むことも考えたが、聞く限りはせいを増やすだけみたいだな。倒せると思うか?」


「うーん……リュナの魔法があれば、ワンチャン……ってとこかな。ただ、あいつもいそがしいし、すぐに動けるかは分からないぞ。最近、奴らの動きも活発化しているみたいで、他国からとうばつようせい引切ひっきり無しみたいだしな」


「そうか」


 分からない単語が幾つか出て来て、正確な内容は測れないものの、どうもかんばしくないらしい。それもそうだろう。Aランク冒険者の二人が戦って、ほとんどダメージを与えられなかったと言うのだ。そうなると、実質詰みである。


「……分かった。リュナに頼んでみよう。しかし、神樹がいつ街へ被害を及ぼすか分かったものでは無い。それに、既に冒険者と騎士の被害だけで数十人がしょうそくっている」


「なるべく早く討伐したいですね……」


 困っているみたいだな。何か力になりたい所だが。


「……そう言えば、トレントって生まれた時からトレントなんですかね?」


「どういうことだ?」


「えと……トレントって、一応は木な訳でしょ? もし生まれた時からトレントなら、神樹はよく何千年もトレントだと気付かれなかったなって……それに、あの場所にいた時、声が聞こえたんだよ。『人間を殺してやる』って」


「あ、私も聞こえた! そう言えば、トレントは元々人間だった……みたいな説を、昔本で読んだ気がするんだよね」


 そりゃまたとっぴょうもない……いや、案外有り得るのか? 異世界な訳だし。


 ただ、クロニーナの言い方的に、昔のことすぎてあまりしっかりとは覚えていなさそうだ。当てにするにはこころもとない。


「あの、それってもしかして『強いうらみを持って亡くなった人の魂が、木に宿ることでトレントが誕生する』……っていう説でしょうか?」


「そう! そんな感じだったわ!」


 意識を取り戻していたらしいイセリーが、クロニーナの言った説のきょうをする。確かに、図書室によく通っていたイセリーだったら、似たような本を読んでいてもおかしくはない。


「強い恨み……殺意……ボクとクロニーナさんが聞いた声とも、がっするな」


 というか、こういうのはピクシルに聞くのが一番だ。


 ──という訳でピクシル、この説について意見くれ。


『はいはい。実際のところ、その説は正しいわ。生物の魂は、肉体が死ぬとこの世界より高次元の核とも言える場所に帰るの。ただ、強い恨み……正確には、強い感情を持ったまま死んだ魂は、一部がぶんして現世に残ることがあるのよ』


 ──その分離した魂が木に宿やどって、トレントになる……ってこと?


『そう。まあ、まだ完全に解明された訳じゃないから、これから先、多少変わることはあると思うけど、元が人間っていうのは本当よ。ついでに言うと、あの神樹に宿ってる魂は一つや二つどころじゃないわ。私の推測だと、五百は下らない』


「ごひゃっ……!?」


 つい口に出してしまい、皆の視線がこちらに向いたので、せきばらいで誤魔化ごまかす。


「元人であれ何であれ、がいを加えて来る魔物であることに変わりはない。したがって、討伐も確定事項だ」


「あの、ちょっと意見いいですか?」


 手を挙げて名乗り出ると、キリオストがこちらに向いてうなずく。


「トレントが元人であったなら、人を襲わないように説得する事って可能だと思いませんか?」


「人って言っても、強い恨みを持って亡くなった人でしょう? とても話を聞いてくれるとは思えないんだけど……」


「ボクも、普通のトレントならとうてい無理だと思う。けど、神樹は一つや二つ魂が集まったくらいで動かせるしろものではないだろうし、何百って魂が宿ってるはず……そして、その数のへいへいを失った魂を動かすのなら、れいとうがいる可能性が高い」


「そいつとなら、話が出来るかもしれないし、説得ももしかしたらってことか。確かに、枝も葉も根も、れんけいしたかのように攻撃して来たからな。その可能性もなくはない……か」


 部屋の中が静まり返る。提案した側として、きんちょうして来る。


「……その作戦に、命をけるだけの根拠はあるのか?」


「え、えっと、それは……」


 そりゃそうだ。根拠も無しに、思い付きの作戦に乗ろうなんて人は、そういない。ボクも、ピクシルだから信じたが、そうじゃなければ疑ってかかるような内容だし。


 だからと言って、ピクシルの事を皆に話す訳には行かない。ピクシルの安全と、今後もそばで補助役を続けてもらうためにも。


「つっても、他に方法もないしな。リュナが動けるか分からない以上、プロティアの作戦が一番確実だろうぜ、オッサン」


「だからオッサンと呼ぶな……ぞうの言うことも一理あるか」


「小僧言うな」


 この二人、意外と仲良いんじゃなかろうか。


「して、プロティア」


「は、はい!」


 ちょっとゆるみかけた緊張が、再びよみがえる。ピシッと背筋を伸ばして、キリオストと向かい合う。


「説得の役は、誰がになうのだ。最も命の危険がある立場であろう?」


 そんなの、考えるまでもない。


「言い出したのはボクです」


 それに──未だ寝息を立てている二人のうち、飛び跳ねた黒髪の少女に目を向ける。胸に当てた右手を、服ごとギュッとにぎる。


「命は、ボクが懸けます」

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