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ハイスペック転生  作者: flaiy
一章 学園編

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クエスト実習2

「それで、話したいこととは何なのですか?」


 森に入って数分。振り返ってもフェルメリアが見えなくなった頃に、アトラが出発前のボクの発言についてしょうさいを求めて来る。


「アトラには話したことがあると思うけど、ボクの体質についてと、それに関連する話をしておこうと思う」


「体質……確か、魔物の群れのしんこうを察知することが出来る……というものだったと記憶していますが」


「うん、合ってる。その察知手段が、突然前触れもなく涙が流れる、っていう形式だから、ボクは『不可思議ふかしぎな涙』って呼んでるんだけど……実は、その涙が二ヶ月前に流れたんだ」


「前触れなく流れる涙……あ、もしかして温泉の時の?」


「よく覚えてたね」


 確かに、あの時カルミナのお陰で涙に気付いたんだ。心配性なカルミナなら、覚えていてもおかしくはないか。


「お前があの日、ネアエダム領に魔物が攻めてきた記録やこんせきはないか、って聞いて来たのは、そういう事か」


「うん」


「そういう事でしたら、その時に私達を頼ってくだされば良かったのに」


「せっかくの旅行だもん、邪魔したくなかったんだよ」


 ボク自身も楽しんでいたし、水を差すような事はしたくなかった。まあ、涙が流れて以降は、ろくに楽しめなかったが。


 森が深くなり、ようこうもあまり届かなくなって来た。


 この森の木々はほとんどが広葉樹なはずなのだが、冬に差し掛かっているこの季節でも葉を落とすことはないらしい。推測だが、魔力の存在によって植物の性能も地球とは変わっているんじゃないだろうか。人体も地球の人と比べて、魔力にてきおうした形になっているし、有り得ない話ではないと思う。


「……今思い返してみたが、この二ヶ月で魔物がきょじゅう区画に攻め入った、という話は聞いていないな」


「そうなんだよ。ボクも色んな方面で確認をしたけど、一つとしてそんな話は無かった」


「え、じゃあ、その『不可思議な涙』……だっけ? が、間違ってたってこと?」


「……そう思いたいんだけど、そうとも限らなさそうなんだ。エニアスとカルミナも、情報収集の途中で聞いたかもしれないけど、ちょうど二ヶ月前から東の森奥深くに入った冒険者が、行方不明になっているんだ」


「ああ、聞いたな」


「あたしも! ドロウスには関係無さそうだし、方角も違うから言ってなかったけど。何人かの冒険者から、気を付けろって言われたよ」


「プロティアの涙と、行方不明者が出始めた時期が同じ……ドロウスの生態の変化は、その少し後……」


 イセリーがいくつかの情報を、口でボソボソと言いながら整理している。すぐにでもボクと同じ答えに辿り着きそうだ。


「……プロティアの涙は、魔物の侵攻を察知するんじゃなくて、何らかの……例えば、プロティアの命の危険とかを察知しているんじゃない?」


「うん、ボクも今はそうじゃないかと思ってる」


「だとしたら、東の森で何かが起きて、それでプロティアの危険察知が反応した。その何かが恐らく冒険者の消息不明の原因で、ドロウスの生態が変化した原因もそれの可能性が高いよね」


「……しんじゅだと思うよ、その何かは。ボクが魔力を見れて、魔力振動も使えることは皆知ってるはずだ。ずっと前から、神樹の周りには黒いもやが見えていたんだよ。その原因もハッキリしている。……殺意が、魔力にでんして色付いたものだ」


「まさか、トレント化してるってこと?」


「ああ、その可能性が高い」


 トレントは、ヨーロッパ辺りのでんしょうに出てくる知性を持った樹木だ。その名前が付けられているのを見るに、命名にはくだんの転移者が関わっているのだろう。今は関係ないが。


 この世界でのトレントは、伝承のように畏怖いふの念を抱かれたり、すいはいされていたりしているわけではない。むしろ、ゴブリンなんかと同様に人を襲う魔物だそうだ。


「神樹が、ですか……あの木は、ここら一帯の地域ではちょっとした信仰物ですので、あまり信じたくはありませんが……」


「残念だけど、ほぼ確実と見ていいと思うよ。あまりにも、条件が整い過ぎて──」


「……そんなはずないよ!」


 唐突に、カルミナが声を張り上げる。全員が驚いて、うつむいて力のこもった拳をプルプルと震わすカルミナに視線を向けた。


「そんなはず、ないよ……だって、神樹は、神様が皆を見守るために残した木なんだよ!? なのに、トレントになって人を襲うなんて……あたしは信じない!」


「そうは言っても……」


「おい、気を付けろ!」


 今度は、エニアスの声が響く。その視線の先には、数十に至る触手をうねうねとうごめかせる、一メートル大の植物型魔物がいた。あのどデカいモウセンゴケみたいな見た目は、間違いない、ドロウスだ。


「このような道のど真ん中にまで出没するのですね」


「話は後だ! 討伐するぞ! ボクとエニアスは前衛、カルミナとイセリーは魔法支援で、アトラは二人の護衛と周囲警戒、余裕があれば指示出しもお願い!」


「私が指示出しですか?」


「将来、領民をひきいるんだろう? だったら、今回で練習しよう」


「プロティアさん……分かりました、頑張ります!」


「イセリー、二人のフォローをお願い」


「うん、任せて」


 既に剣を手にドロウスと対面しているエニアスの隣に並び、ボクも剣をさやから抜く。


「行こう」


「ああ」


 ボクとエニアスが同時に駆け出す。


 ドロウスとの距離を一気に詰めようとするが、二メートルを下回ったくらいで触手がそれぞれ約十本ずつ襲ってくる。剣に魔力をまとわせ、四方八方から迫るネトっとした液体を散らす触手に振るう。


 わずかな抵抗と共に、剣に触れた触手が切断される。斬れるという確信を得ると、残りの触手も同様に、数秒の内にその長さを短くさせる。


 抜ける! そう思い、左足に力を込める。地面を蹴る──つもりだった。制服ゆえ、素足であるボクのくるぶしに、ぬとっと気持ち悪い感覚が走る。


「やばっ」


 一瞬にして触手はボクの左脚膝下までに巻き付き、持ち上げて身体を宙に浮かせてくる。抵抗とばかりに剣を振るうが、左手でスカートを押さえ、バランスも崩したばかりの状態では狙いが定まらない。


 せめて魔法で、と思うも、背筋を電撃が駆け抜けるかのような感覚に、思考能力が一時的にぜる。


 勝手に、身体に力が入ってしまう。この感覚は、よく覚えがある。電流だ。電流温泉やビリビリグッズ、電気でのマッサージなんかを体験したことがある人なら分かるだろうが、身体に微弱な電流が流れると、筋肉が収縮し、勝手に力が入ってしまうのだ。


 それに、だ。正直、プロティアの身体で電気刺激を受けたら、エロ漫画みたいに気持ちよくなっちゃいそうだな、などと初めは考えていた。でも違った。痛え!


「ぐっ、あ……!」


 左脚に巻き付いたもの以外の触手も群がり、腕や右脚、お腹と巻き付く箇所を増やして行く。継続的に流れる電流のせいで身体を上手く制御出来ず、物理的な抵抗も難しければ、思考も乱されて魔法もまともに使えない。


 視界の端で、制服が溶かされ出していることに気付く。このままでは、道のど真ん中でストリップショーをやることになりかねない。しかし、ボク自身は抵抗することも出来ず、エニアスも一度下がっているため、頼みのつなは魔法組とアトラだけだ。


 何とかしてくれる事を祈りつつ、せめてもの抵抗とばかりに、ほとんど言う事を聞かない身体をひねって脱出を試みる。


 すると、まだ吸収出来ていない布は無いかと動き続けていた触手が、その動きを止めた。同時に、電流も止んだ。何が起きたのかと周囲を見回していると、唐突に寒気が襲ってくる。よく見ると、ドロウスの粘液が一部凍っていた。


「なるほど、寒さに弱いのか……粘液のゆうてんも低いみたいだな」


 やっと戻って来た思考力で、そう考察する。


 さて、どう脱出しよう、と考え始めた頃に、エニアスが触手とドロウスの本体を切り刻んだ。頭から落ちそうになって、慌てて身体を捻って向きを変え、お尻から地面に落下する。


「てて……」


「プロティアさん、大丈夫?」


「ああ、なんとか……酷い目に遭った……」


 駆け寄ってきたアトラの質問に、そう答える。身体を見下ろしてみると、服は六割方消失しており、あと少し救出が遅れていれば下半身は完全に露出していただろう。


 ただ、防具やベルトなどは被害に遭っていないことを考えるに、ドロウスが溶かすのは植物由来の衣類だけのようだ。革製品であれば、問題ないと思われる。


「くっそ、全身ヌメヌメだ……向こうで洗い流して、着替えて来るよ」


「ええ、そうしてください。着替えは持っているのですか?」


「うん、数日掛かりのクエストだからね。予備は何着か収納魔法に入れてある」


 整備された道を外れて森の中に入り、衣服を全て脱ぎ去って魔法で作った温水を頭から被る。風魔法で水分を取り払い、収納魔法から取り出した着替えとお気に入りのコートを着る。このコートは革製だから、万一再び捕まったとしても、被害は抑えられるはずだ。


 皆がいる公道へと戻る。


「ん? カルミナ、どうかした?」


 一箇所に集まって、アトラとイセリーがどうも落ち込んでいるように見えるカルミナをなぐさめていた。


「どうも、さっき魔法に失敗したらしい」


 エニアスの説明で、何となくの経緯を察する。


「誰にでも失敗はあるよ。私がフォローするから、気にしないで!」


「そうですわ。私達を頼ってください」


 アトラとイセリーが、歯を食い縛っているカルミナをなんとか元気付けようと、言葉を掛けている。魔法の失敗なんてここしばらく無かったから、余程響いているようだ。


「甘やかすな」


「エニアスさん?」


「落ち込んでいるんだよ、慰めてあげないでどうするの!」


「ドロウスはさっしょう能力がないからいいが、この森にはウルフやゴブリンも生息している。もしそいつらと出会でくわして、また魔法を失敗すれば、お前自身だけじゃなく仲間の命も危険にさらすことになりかねない。無理矢理にでも今すぐ立ち直れ」


 エニアスの意見はもっともだ。それが分かっているから、アトラもイセリーも食い下がろうにも言葉が繋がらない。


 カルミナは、道を決めると立ち止まらず進める強い子だが、その道が繋がっていなかった時に大きく焦ってしまうきらいがある。今回なんかがそうだ。信じていたものが揺らいで、カルミナ自身に動揺として現れている。


「カルミナ」


「プロティア……ごめん、あたし……」


「大丈夫、何があってもボクが守るから。さっきはちょっとしったいさらしちゃったけど……もう、同じミスはしないからさ。だから、神樹の代わりにボクを信じて」


 カルミナは、まどったような表情を見せる。正直、これでどうにかなるかは分からない。新しい道を示すことが有効だと思っての発言ではあるが、ボクがそんな存在になれるとは思えない。


「……うん、分かった。プロティアが守ってくれるって、信じてるね」


「ああ、任せろ!」


 ホッとした。カルミナの表情に少しだが笑顔が戻り、こころしか力みも収まった。


「よし、じゃあ公道を外れて森の中に入って、休憩を取れそうな空き地を探しつつ討伐を続けよう」


「「「おー!」」」


 ドロウスの討伐証明となる一体に一つしかないらしい器官を回収し、ボク達は森の中へと入って行った。

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