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ハイスペック転生  作者: flaiy
一章 学園編

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クエスト実習1

 ギルドマスターの部屋に通されたボクは、中央のテーブルをはさんで部屋のぬしと対面していた。


「こうして顔を合わせるのは初めてだな、プロティアよ……」


「そうですね……」


 ヒリヒリと痛む頬に、別のチリチリとした感覚が突き刺さる。ギルドマスターの視線は、間違いなくそこをじっと見詰めていた。気にしないでください、本当に。


 筋骨隆々とし、右眉をつようにきずの入ったいかつい顔立ちのギルドマスターは、キリオストという名のBランク冒険者らしい。


 かつては学園長達のパーティーをたばねていたらしく、今の肩書きに恥ずかしくないくらいのこうせきを重ねていると聞いている。確か、冒険者ギルドのそうせつにもたずさわっているとかいないとか。


「……して、俺に用事とは何だ?」


「あ、えっと……実はその、ちょっとした嫌な予感と言いますか、そういうのがありまして……」


「魔物予知の涙か?」


「え、なんでその事を……」


「ゴブリンとの戦いの後、領主様の配下から話を聞いた。お前の指導をしていたトルーナー達からもその後、お前の能力について確認したからな」


 プロティアの記憶には、トルーナー達に話した覚えは無いのだが。ユキナが相談でもしたのだろうか。


 何はともあれ、知っているのならば話は早い。


「その涙が、二ヶ月前に流れたんです。いつもならその後一時間から三時間のどこかで魔物の群れが攻めて来るんですけど、今回はなくて……そういう話も聞いてないんです」


「ふむ……確かに、ここ二ヶ月で街に魔物が攻めて来たという報告はない。きんりんの領でもな」


 渋い声で、キリオストが答える。ギルドでもそうなのならば、本当に魔物の群れによる魔物の災害──この世界で言うさいは起きていないのだろう。しかし、キリオストのかもし出す雰囲気が、楽観出来る状況でないことをいやおうなく知らしめてくる。


「……ちょうど二ヶ月前だ。東の森で、冒険者が行方不明になるようになった。調査のためにうできの冒険者も送り込んだが、森の深部に入った者は、誰一人としてかんしていない」


 まるで神隠しだ。


 ただ、時期も涙の可能性のある条件も当てはまるかもしれない。それに、東の森ならばボクにも心当たりがある。


「今回のクエスト実習、今からでも中止出来ませんか? もし死人が出てからじゃ、遅いと思います」


「それに関しては問題ない。フェルメウス、ネアエダム両家と協力し、学園生が危険区域に入らないようクエストと監視を調整してある」


「そ、そですか……でも、そこまでして強行しなくてもいいと思うんですが……」


「現状の被害を見るに、東の森深部にみずから踏み入らない限り、危険はないと思われる。先延ばしにしてきょう度が増し、こう出来なくなる前に終わらせてしまおうという考えだ」


 確かに、前世でも某ウイルスがまんえんし始めた頃、一日の感染者が百人やそこらだったにも関わらず修学旅行を延期して、結果として行けなかったという学生が大勢いた。「初期の予定で行けばまだ行けたじゃん……」という意見も、少なからずあったことを覚えている。


「……だとしても、危険がゼロな訳ではないでしょう」


「元より死ぬ可能性がある実習だ。今年はむしろ、監視員の人数を多く用意しているから、例年よりも安全と言えるだろう。絶対では無いがな」


 それもそうか。それに、冒険者学園の生徒は貴族も多い。変に行事の時期をいじれば、面倒事につながるかもしれない。その辺りをかんあんした結果でもあるのだろう。


「そこまで言うのなら、一先ひとまずは信用しますね。それで、神……じゃなくて、冒険者のしっそうについての件ですけど」


「それについても今はこちらに任せてくれて構わない。数日中に、信頼出来る奴らに調査を任せる」


「その人達も危ないんじゃ……」


「何、あいつらは歴戦のだ。少なくとも死にはしない」


 そんなに強いのか、その人達は。だったら、変に動かずに、ボクはボクのやることを成しげるとしようか。


「じゃあ、この件は完全にそちらに預けますね。友達を巻き込みたくないし、ボクは普通の学園生としてクエストに行ってきます」


「ああ」


 話を終えて、礼を言って部屋を出る。


 一階の掲示板横に、アトラ達が集まっていた。既にクエストは受注し終えて、ボクが戻って来るのを待っていたようだ。……そして、どういう訳か表情はすぐれない。


「どったの?」


「プロティアさん、お帰りなさい……その、わたくし達がこなすクエストなのですが、討伐対象が『ドロウス』でして……」


「ドロウス……って、なんだっけ」


「植物系の魔物だよ。棒状の体に球体の頭がついてて、そこからいっぱい触手が生えてるの」


 ああ、モウセンゴケみたいな奴か。授業で習った覚えがある。確か、森の奥の方で、植物の葉を食べて生きているんだったか。


 座学の成績がトップクラスのイセリーの説明で、どんな魔物だったかを思い出す。


「で、そのドロウスがどうかした?」


「本来、ドロウスが討伐対象になる事ってほとんどないの。数が増えて作物に被害が出た時に間引く時くらいで……」


「……作物に被害が出た、なんて話は無かったよな」


「うん。それに、ドロウス自体は人を襲わない(ノンアクティブ)なモンスターだから、学園生の実習で討伐対象にするには、簡単すぎるような気もして」


 難しすぎるのもあれだが、確かに簡単すぎるクエストを受けさせて、冒険者は楽してかせげる職業だ、などという勘違いをさせてしまってはいけない。つまり、ドロウスはとても今回の実習に適した魔物ではないという事だろう。


 皆が渋い顔をしていたのは、この辺りの疑問があっての事だったらしい。


 皆の言っていることは恐らく事実だろうし、このまま何も知らずに討伐に向かうのは少し不安だ。


「よし、ここで情報収集をしてから向かおう。相手が話しやすいように顔の知れたボクとカルミナ……あと、より有用な情報を得るためにエニアスの三人でやる。アトラとイセリーは、商業区で食料とか替えの装備をそろえて来て欲しい」


 今回のクエスト用に渡されたお金を、アトラに預ける。全員、ボクの指示に反対はないようだ。


「集合場所は南門。時間は、そうだな……一時間後にしよう。それじゃあ、一時解散」


 そうして一人になったボクは、ギルド内で一番情報を持っていそうな受付嬢に話しかけた。


「お忙しいところすみません、ちょっといいですか?」


「ええ、構いませんよ。でも、プロティアさんのパーティーはさっき、アトラスティ様達がクエストの受注は終えましたよね?」


「あ、えと、そうなんですけど……ちょっと、情報収集しておこうと思いまして」


「あら、いい心掛けですね」


 受付嬢がニコッと笑みを見せる。女性にめんえきのない男ならば、間違いなくドキッとしているだろう。もちろん、ボクもドキッとした。


「今回ボク達が討伐するドロウスについて、ちょっと聞きたくて……ドロウスが学園生のクエストでの討伐対象になっているのって、何か理由があるんですか? 学園で習ったドロウスの話と、街中での状況を見るに、とても適しているとは思えないってことで、パーティー内で話してたんです」


「なるほど……選定はギルマスと領主様方がしているので、私は確かなことは分かりませんが……予想を上げるとすれば、最近、ドロウスのせいたいに少し変化が起きていることが関係しているかもしれません」


「生態に変化?」


「はい。冒険者の方々から聞いたのですが、一ヶ月半程前からドロウスが森の入口近くに現れ、人を積極的におそうようになった、という話を聞くようになりました」


 ドロウスは森の深くに生息して、人を積極的には襲わない、という部分に変化が生じているらしい。


 一か月半前か。少し時期はズレているけど、生態の変化に時間が掛かったと考えれば、関係している可能性はゼロではなさそうだ。


「ちなみに、それによってどんな被害が出ているんですか?」


「今のところ、人が亡くなったという報告はありませんね。ただ、装備を溶かされたという方が少なからず出ているので、気を付けた方がいいかもしれません」


 服を溶かす触手魔物って、エロ漫画じゃあるまいし。なんて、油断してたらボクが被害にうんだろうな。プロティアのラッキースケベは、てきには素晴らしいだろうが、ボク的にはそんな目には遭いたくない。何としてでも回避しなければ。


「分かりました、ありがとうございます」


「クエスト実習、頑張ってくださいね」


「はい!」


 受付嬢からの情報を得て、ボクはその後も何人かの冒険者、商人、一般の人からも情報を集めた。大まかな内容は全体的に同じだったのだが、異なる視点からの情報を集めたおかげで、それなりに情報は集まった。


 一時間が経過する少し前に、ボクは所定の集合場所に到着した。既に、ボク以外の四人は集まっていた。イセリーは大きな鞄を背負っているが、恐らく買ってきたものが入っているのだろう。


 ボクが最後だったために、もしかして遅れたのかと心配になったが、四人とも早めに来てただけだったから安心した。


「……で、集まった情報をまとめた感じ、ドロウスの生態に変化が生じて、森の浅い所に姿を見せて人を襲うようになった。ドロウスのぶんぴつするねんえきは、生物を麻痺まひさせる効果があって、今は衣服を溶かす機能もある。粘液は燃えやすいから火魔法は使わない方がいい……ってとこか」


「あんまり情報はなかったね〜」


 カルミナがそうそつかつする。確かに、情報収集組が集めた情報は、どれも似たり寄ったりなものばかりだった。ドロウスを討伐した事がある、という冒険者もほぼおらず、触手を切り落として本体を攻撃すれば倒せる、程度の対処法しか聞けなかった。


 ただ、討伐対象となった理由は見えただろう。


「人を襲うようになった、という部分が、今回の件に関係ありそうですね」


「ボクも同意見。それに、服を溶かすようになったっていうのも気になる」


「人を襲うようになったのも、服を溶かすようになったのも、何か関連がありそうですわ」


「一つ思ったことがあるんですけど、いいですか?」


 イセリーが右手を上げて、発言をもうし出る。全員の視線がイセリーに集まり、誰も動きを見せなかったので、代表してうなずく。


「ドロウスは本来、森の奥深くで、植物の葉を粘液で溶かして栄養として、生きています。今回の生息域と粘液の性能の変化から推測するに、森の奥深くで木の葉を食べるだけでは生きて行けなくなった……って考えたのですが、どう思いますか?」


「……実は、皆に話しておくことがあるんだ。道中話すから、とりあえず出発しようか」


 イセリーの推測は、ボクがねんしていることと関連している。その事もあって、ボクは例の涙のことを皆に話すことにした。

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