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ハイスペック転生  作者: flaiy
一章 学園編

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束の間の遊楽2

 コスプレをこころくまで楽しんだボク達は、本来の目的であった温泉へと向かった。


「エニアスさん、結局来なかったわね」


「水着という悪あがきもしてみたけど、ダメだったね」


 エニアスにも最後まで来ないか、水着があるからお互い見えちゃいけないところは隠れてるぞ、と誘い続けたのだが、あんじょう断られてしまった。まあ、こればっかりは仕方ない。元男として同意する。


 結果として、エニアスを抜いた女子四人で、水着を着て温泉に入ることになった。別に着なくてもいいのでは、と思ったが、せっかく用意したのだからということで着ることにした。


「確かに水のていこうは、普通の服を着てる時よりも減りそうだけど……これ、ほぼ下着だよね」


「言うなイセリー、あんもくの了解ってやつだ」


「そ、そうなんだ……」


 パレオを巻いたさいの低い水色のビキニ姿のイセリーは、まだ温泉にかってもいないのに、ほんのりとほおを染めている。


ずいぶんと可愛らしいおし物ね。水中活動用、と言っていたけれど、とてもこの様な姿で海洋のきょうぼうな魔物と戦えるとは思えないわ」


「戦闘着じゃないからね……」


 青を調ちょうとした、白のフリルでいろどられたビキニ姿のアトラの発言に、ツッコミを入れる。元々は魔物もいなけりゃ、魔法もない世界の衣服だ。戦闘用な訳がない。良くてダイバー用のスーツなんかが、ギリギリがいとうするかどうかだろう。


 黄緑に黄色のラインが数本入った、シンプルなデザインのビキニのカルミナは、温泉に早く入りたいのか入口の近くで残りのメンバーの着替えが済むのを、ソワソワとしながら待っている。ボクも既に着替えは終えており、カルミナの横で待ち体勢だ。ちなみに、水着はピンクのワンピースタイプだ。初めはダイビングスーツにしてやろうとか考えていたのだが、このメンバーだと白けそうだったのでやめた。


「待たせたかしら?」


 お団子に髪をまとめた水着姿のアトラとイセリーが、入口前に近寄ってくる。


「大丈夫だよ。よし、じゃあ行こうか」


 全員の準備が整い、いざ温泉への扉を開く。


 扉を動かした瞬間、わずかな隙間から熱気がぶわっと押し寄せ、半目になった視界が白くけむる。


「凄い熱気だね」


「温泉自体もまあまあ熱いから、気を付けなよ」


 熱風に対するイセリーの意見にそうアドバイスを告げて、扉を開け切って一歩踏み入る。まだ外だというのに、じんわりと熱くなる熱気と、足元のヒンヤリとしたいしだたみの温度差を感じながら、一メートル先も見通せない純白の世界を進む。


 魔力振動で位置を確認していたから、足を滑らせて温泉に突っ込む、などということはなく、手前で立ち止まる。ボクが止まったのを見て、他の三人も動きを止める。


「温度は……大丈夫そうだな。身体洗うのも面倒だし、魔法で皆のこともれいにしちゃうね」


 目を閉じて魔力振動に意識を集中させ、四人分の身体の汚れを分解する。この魔法は、一歩間違えると生きている細胞にまでえいきょうを与えかねないので、使う際は集中力をかなりようするし、使った後は少し疲れる。


 ただ、普通に身体を洗うのに比べれば洗浄能力は上だし、時間も一分と掛からないから、楽さでは圧倒的にこっちが勝ちだ。


「よし、じゃあ入ろうか。広いし深さもあるけど、泳ぐなよ。特にカルミナ」


「なんであたし!?」


「一番可能性が高いから」


「そんなこと……ないもん!」


 一瞬間があった。多分、ちょっと泳ごうか考えていたのだろう。


 先んじて温泉に浸かり、前回もたれ掛かっていた岩まで移動する。それに続いて、三人も入って来る。


「普通のお湯と比べると、少しとろっとしている様な気がするわ」


「そうですね。なんだか、お肌がツルツルして綺麗になっている気がします」


 それは炭酸水素塩泉だからお湯がとろっとしてて、アルカリ性泉だから皮脂が溶けてツルツルしてるんだよ、と説明してもいいのだが、この世界にそんな知識があるとはとても思えないから黙っておく。説明も面倒だし、転生者だとバレたくないし。


 アトラとイセリーが温泉の感想をべる中、カルミナは完全に溶けきっていた。今までにないくらい脱力しているし、表情も今にも寝そうなくらいだ。お風呂で寝るのは危険なので、一応(ちゅう)しておこう。


「……カルミナ、また大きくなったのではなくて?」


「え、何がですか?」


「全体的にと言いますか……特に、お胸の方が」


「そうですかね? いつも見てるから、あんまり変化が分からないんですよね、あたし目線だと」


 アトラがカルミナとお風呂に入ることは、休みでなくともそう多くないから、変化に気付きやすいのだろう。そう考察しながら、話題の種となった自身のメロンを持ち上げるカルミナから視線を外す。


「確かに、前より大きくなってる……ミナ、何か方法でもあるの?」


「えぇ、何もしてないよ……昔はイセリーによくまれてたけど、最近はそういうのもないし。というか、大きくても邪魔だし、男子の目線が気になるしで、いい事なんてないよ」


「持ってるからそんな事が言えるのよ」


「アトラさんの言う通りです」


 こう言った話には、いまだに参入する事に抵抗があるから、ボクは苦笑いするしかない。


「黙っているプロティアは、どう思うの?」


「なしてボクに話を振った?」


 聞き流していたところに、とうとつに話のしゅどうけんを渡された。アトラのことだから、悪意はないと思うのだが、一瞬視線が下に向いていたせいで他意があるのではないか、とかんってしまう。知らぬが吉だ。


 実際、アトラとイセリーのサイズは、入学当初に比べると大きくなっている。まだ成長()じょうではあるが、年齢的にも成長期な二人は確かな膨らみを胸部にたずさえている。対するボク──プロティアは、体型こそ子供のずんどう体型から丸みをびて来ているものの、全体的にはスレンダーなままだ。身長もあんまり伸びていない。


 とはいえ、ボク自身はそこまで胸やお尻の大きさに興味は無いため、こう答えるしかない。


「別に何とも思わないよ。あっても邪魔だし」


「……あきらめるには早いと思うわ、頑張りましょう!」


「そうだよ! まだあたし達十一歳とかだもん!」


「可能性はまだあるよ!」


「あの、なぐさめてくれてるところ悪いんだけど、本当にそう思ってて……」


 どうしよう、無理してそう言っていると思われてる。まあ、プロティア本人がどう思っているかは分からないから、ボクの意見を押し通すのはやめておこう。いつかプロティア本人が表に出て来た時に食い違いが起きたら面倒だし。


「……胸が大きくなるマッサージとかストレッチ、知ってるから後で教えようか?」


「「ぜひ!」」


 アトラとイセリーの食い付きが凄い。そんなに大きくなりたいもんかね。隣の芝は青いってやつか?


 何だかんだ、最初期に比べると皆貴族、平民と言ったへだたりはほとんど無くなり、楽しそうに会話し、笑い合っている。初めの頃はどうなる事かと思っていたけど、上手くやれていて良かったと、強く思う。


 学園の後期を終えて、卒業して……その後も、こうして階級も超えた友達でい続けられたらいいな。もちろん、エニアスも加えて。


「プロティア?」


「ん? どうかした?」


 しみじみと岩に体重をあずけて目を閉じていると、カルミナが呼び掛けてくる。何事かと思って目を開けると、すぐそこに心配そうな表情をしたカルミナの顔があった。


「どうかしたって……泣いてるじゃん。どこか怪我した?」


「え? 泣いてる……?」


 確かに、頬を水滴が伝っている。でも、温泉だし汗とかじょうはつした水分が集まって出来たとかじゃ……と、思った。思いたかった。確かに、目尻から伝った感覚が、残っていた。


 息が詰まった。この世界に来てから、一度も無かった出来事だ。ボクの記憶が正しければ、これは「不可思議ふかしぎな涙」だ。魔物が攻めて来る前に流れる、原因不明の涙。


「だ、大丈夫! ちょっと温泉が目に入って滲みただけだから!」


 そう言い訳をして、カルミナに背を向ける。鼓動が早まる。さとられないように取りつくろうが、どれだけ隠せていることか。


 プロティアの経験からして、この涙が流れてから魔物が攻めて来るまでのゆうは、一時間から三時間。あまりゆっくり温泉に浸かっている余裕は無い。すぐに出て、三人にも領内の人への呼び掛けを手伝ってもらうのも一手いってか。


 ……いや、楽しそうにしている三人を巻き込みたくはない。索敵の範囲を広げておいて、魔物の気配があったら転移魔法で討伐に向かおう。さいわい、装備は全部収納魔法に入っている。


 索敵魔法の範囲を最大まで広げて、会話が続いている三人の輪へと戻る。カルミナ達に心配させないよう、表向きだけでもいつも通りをよそおっていたけれど、どれだけ隠し通せていたかは分からない。


 ──そして、何も起こらないまま、二ヶ月が経過していた。


 頬に真っ赤な紅葉もみじを携えたボクは、エニアスもいるパーティーメンバーで、冒険者ギルドへとやって来ていた。


「まだ痛い……」


「あれだけ起こしたのに、全然起きないからでしょ」


「ほっぺつねられても起きなかったらああなるんだ……あたしも気を付けないと」


 今日から数日、長ければ数週間にわたって、ボク達は実際の冒険者のクエストを受けて実習を行う。……のだが、ボクがせいだいに寝坊してしまった。流石さすがに起きなさすぎたので、イセリーの目覚ましビンタを喰らった結果、こうして紅葉を宿やどしたままギルドへ出向くことになった。


「パーティー数分クエストは用意されているはずなので、まだ残ってはいると思いますが……それにしても、プロティアさんが寝坊とは珍しいですわね」


「ああ……昨日、中々寝付けなくて」


 温泉で流れた、不可思議な涙。あの後、ボクはずっと魔物が攻めて来るのをけいかいしていたのだが、結局今日までそのような出来事は起こらなかった。フェルメウス領、ネアエダム領どちらもで確認をしたから、確実だ。


 不可思議な涙ではなかった、もしくは魔物が攻めて来る前に誰かがとうばつしたのであれば何も問題は無いのだが、そうでなかった場合が心配だ。プロティアとユキナの「魔物の群れが攻めて来る前に流れる」という、不可思議な涙の定義が間違っていたのなら、今後のためにもていせいしなくてはならない。


「……何か心配事があるのなら、話しておいた方がいいぞ。今回は大勢の学園生があんぜんけんの外に出る。場合によっては、中断した方がいいかもしれない」


 エニアスが、近付いて来て小声でそう助言してくれる。確かに、命を狙われる側とはいえ、顔見知りから死人が出るのはなるべく避けたい。それに、一つだけだが心当たりがあった。


「だね……ごめん、クエスト受けておいて。ちょっとギルマスと話してくる」


「? ええ、分かりました」


 アトラの返事を聞いて、ボクは受付嬢のお姉さんに案内してもらって、ギルドマスターの部屋へと向かった。

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